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116 おわりははじまり

アクシス視点が続きます。

 二人の気配がなくなってしまったその瞬間、アタシの中で何かがプツンと切れてしまった。


 大切なものが次々にパリンと割れて粉々になっていく。

 深い深い、闇の中へと吸い込まれていくような、そんな感覚。


 その後のことはよく覚えていない。

 気が付けば、妖艶にほほ笑むマネシスの顔があった。


 違う……ザシュ。


 表情を変えずに、ただじっとアタシの顔を見つめるマネシス。


 違う……ザシュ。


 幾度も差し入れた自らの手刀に感じる生暖かいもの。


 違う……これはアタシの知っているマネシスじゃない。

 アタシの大切なマネシスは、こんなことをするような神じゃない。


 ザシュ……。


「ア……アク……シス……」


 声にならない声でアタシの名前を呼んでいるマネシス。


 マネシス……マネシス……マネシス……アタシのマネシス。


「ゴホ……ゴホ……アク……シス」

「……アタシの名前を……呼ぶなぁあああ!」


 アタシは神邪の力で『深淵』を発動させた。


 これは、生きとし存在する全ての魂を分解させるもの。

 もちろん神という存在のものでも、例外ではない。


 次第にマネシスは体の内側から分裂しながら消滅していく。

 表情を変えることなく、ただその時を待っているかのように。


 やがて、マネシスとして存在していたものは全てが分解されて消えて無くなった。


 ただ自分でも気が付かないうちに、その消える直前の一欠けらだけを自分の中の『異空間』へと取り込んでいた。


 異空間……これはアタシだけが扱えた特殊な力。

 自分の中に異次元空間を作り出すことのできる力。


 アタシはそこにこっそりと自分だけしか知らない惑星を作り上げていた。


 邪神であるこのアタシが、こっそりと三人に内緒で美しい惑星を作り上げ、自慢してやろうと随分前からやっていたのだ。


 アタシたち四人で力を合わせ、一番初めに作り上げたあの惑星と同じくらいに美しいものを作りたくて……。


 もう少しでマネシスに褒めてもらえるはずだった。

 もう少しでツキシスにイヤミったらしく自慢できるはずだった。

 もう少しでウラシスを見返してやれるはずだった。

 もう少しであの三人と一緒に遊びに行けるはずだった。


 それがもう叶うことはない。

 この世界でアタシは一人ボッチになってしまったから。


 マネシスの一部をその惑星へと封印してしまったことで、生命エネルギーの消費量が激しい。


 このままではこの惑星も、今この世界の惑星と同じように崩壊してしまうことだろう。

 だけど、正直もうどうでも良かった。


「……カス」

「はっ」

「おまえたちにあの地を託す……」

「……はっ。仰せのままに」

「アナタも一緒に行きなさい……ウラシスの眷属、白虎」

「……」


 アタシは惑星の崩壊から逃げてきた自分の眷属たちを異空間の中へ取り込んだ。


 ウラシスの唯一の眷属である白虎は一人で静かに泣いていた。

 ありえない主の死……それは彼女にとっても心に深い傷を付けてしまったことだろう。


 どちらにしてもアタシだけしか存在しないこの世界では、全てが闇に包まれ崩壊して、生命の維持はおろか無の境地に陥ってしまう。


 ウラシスのためにもどうか生きてほしい。

 どこかそういう思いもあってか、アタシは半ば強制的に白虎を異空間へ放り込んだのだ。


 先程の戦いにより、生命が栄えた惑星たちは全てが崩壊。

 もちろんそこで生きていたはずの生命体たちも全て死滅。


 そんな場所で一人ボッチ、途方に暮れる。

 どこかへ向かうこともなくただ流れるままに身を置く。


 アタシという闇の影響は、存在しているだけで『無』の境地を広げていく。

 ここには空気などの物質も無ければ、元素もない。

 生命の維持はおろか、様々な厄災を引き起こす。


 それは、後に『宇宙』という無限に広がり続けるものへとなった。


 それからどれほどの時間が過ぎたことだろう。

 周りはなにも見えない漆黒の闇の中をただひたすらに歩き続けた。


 なにもないはずの暗闇の中で、ほんの一瞬だけ光のようなものを見た。

 その一瞬の灯だけに向かってひたすらに歩き続ける。


 その灯はやがて、少しずつ大きくなっていく。

 するとどういうわけか、少しずつ暖かくなっていく。


 久しく感じる暖かい光。

 久しく感じる元素の力。


 そしてその先にあったものは……アタシたちが初めて力を合わせて作り上げた惑星だった。


 この無の境地により、周りの惑星は生命が維持できない環境となっていながらも、その惑星だけは生命が生き残っていた。


 それはアタシたち四人が初めて出会い、そして喧嘩したことで発生した大きな火の塊によるもの。


 これがツキシスとウラシスの代わりに光と熱を惑星に届け続け、なんとか生命が維持できる環境にしていたのだ。


 あの時、あの場所でアタシたちの関係は始まり、それが今も生きていた。


 奇跡としか言いようがなかった。

 そう思うと涙が止まらなかった。


 その惑星の生命体では、アタシが作った惑星にいる『人間』と同じような姿に進化した者たちが支配していた。


 その者たちがこの惑星『地球』上で文明を築き、いろいろな規律の中で豊かに平和な生活を送っている。


 もちろん表面上では豊かでも、裏では規律を破り悪に手を染めるやつもいる。


 そうやって文明を築いていきながら一生を終え、培った分の生命エネルギーを地球へと還元した後、またその魂は別の人物として生まれ変わっていた。


 これは三人がアタシに残してくれたものだと思った。


 この地球という美しい惑星が、この後どういった未来を辿っていくのかをアタシは黙って見守ることにしたのだ。


 同じ時期、マネシスの封印によりアタシの異空間にある惑星の生命エネルギーが不足していた関係で、少しずつマネシスが力を取り戻しつつあるのを感じていた。


 だから、この地球と同じように異空間の惑星でも人間による生命エネルギーの還元をやらせることにしたのだ。


 ただ、平和に満ちた地球は違い、破滅と殺し合いを繰り返すことで無理やり生命エネルギーを略奪するというやり方で。


 邪神であるアタシの惑星なら、一番似合う方法だ。

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