113 さきのないみらい
「アクシス、私と桜夜は……神成ウラシスと神光ツキシスの子ども……なの?」
やっぱり乙羽もそう思ったよね。
記憶の奥底で眠っていたスマコの歌。
「子ども……というべきなのか、生まれ変わりというべきなのか……どちらが正しい表現なのかも私にはわかりません」
「生まれ……変わり?」
「えぇ、私たちは知っての通り神です。人間は子どもを産んで子孫を残しますが、私たちは存在そのものが消えることはありません。しかし、神同士であるなら実在そのものを消滅させられることもあります」
「それをやったのが、マネシス」
「はい。二人はマネシスに無残な殺され方をして、存在を跡形もなく消滅させられたはずでした。しかし、二人の想い合う気持ちは奇跡を起こしたのです。それがアナタたち二人の存在」
「私たち二人が、奇跡?」
「アナタたちはウラシスとツキシスという存在であり、また別の存在……それがアナタたち二人です」
「よくわからないけれど……なんとなくわかる気がするよ」
私も乙羽が言いたいことがなんとなくわかる。
スマコとしての記憶や人格なんてものはなにもないし、私は私だと思っている。
それはスマコもきっとそうだろう。
現に、ずっと一緒に別人格として接してきたわけだし。
『それでいいですよ、桜夜。私は私であり、アナタはアナタです。私の電界の力と、アナタの力が合わさって新しい力が生まれました。雷桜の力……とでも呼びましょうか』
うん。
スマコと私の力……そう思うと、うれしいな。
私たちはもう、大丈夫みたい。
乙羽もツキシスと会話をしたみたいだね。
表情が和らいだ。
「さて、どうやらアナタのおかげで力を取り戻した、というよりも新しく力を開放したのは感謝するんだけど……いつまで私たちの胸に触っているのかな?」
「もう病みつきで手が止まりません。このまま一生でも揉んでいられますが、なにか? ブベッ?!」
私はいつまでも手を止めないボケ神に軽く裏拳をお見舞いしただけなのに、お風呂場の壁を突き破り、いつの間にか部屋に集合していたあの四人と、妹っ子の前で哀れな姿を晒す。
私たちは一瞬で着衣を済ませ、お風呂場から出る。
「な、なんや?! 急に素っ裸のガキんちょが現れよったぞ?!」
「ハズキ、こいつがさっき話した神だ」
「はぁ?! この大股開きの哀れなヤツが神やて?!」
「アズサの言うことは事実であると証明するヤツがここに約一名」
「アズサのパンツフェチはともかく、ホノカの残り湯フェチを見破るなんてただ者じゃないよね!」
「鼻息荒くして言うことかよ、ミサキ! それよりも、アタシは別にパンツフェチじゃねぇし! 勘違いすんじゃ……な、なんだよおまえらのその目は!」
相変わらず騒がしいわ、こいつら。
それにしても、触れられる不快感で思わず軽くド突いただけのつもりだったのに……壁ごとブチ破ってしまった。
これは予想外の力だわ。
「いたたた……サ、サクヤちゃん?! いきなり壁ごとぶち抜くなんて、いくらなんでもちょっとひどくないですか?!」
「ふん、アナタは桜夜の体に触れた……それだけで万死に値するよ。死ね、外道」
「ひぃいい?! 本当に殺されるぅ?!」
乙羽も無事に力を取り戻している、というよりも明らかに前より力が増しているみたいだね……良かったよ。
右手に溢れんばかりの眩い光を溜めて、鬼の形相でボケ神に迫っている乙羽を見ていると、どっちが天使でどっちが邪神なのかわからない。
おっと、考えている間にもボケ神が乙羽に抹殺されそうだ。
『ウフフフ、アクシスを救ってあげてくださいな、桜夜。あの子はあれでいい子なのですよ』
スマコのそれには同意しかねるけど、まぁこいつがいた方がいろいろわかって便利そうだしね。
そう思って、鬼の形相でボケ神に迫っていた乙羽を止めた。
そしてここにいる四人と妹っ子にはボケ神や乙羽からある程度の情報は伝えた。
私たちの力が無事に戻ったことは教えたけど、さすがに私らの正体までは話さなかった。
それよりもこの四人は、今後どうしたらいいのかという部分を心配している。
それは私も気になっていたところだ。
この世界は本当に滅びゆく運命なのか、それを防ぐ手段はなにもないのか、自分たち人間はこれからどうしたらいいのか、聞きたいことは山ほどあるだろう。
それに対して淡々と質問に答えていくボケ神。
結論を言えばこの世界は滅びゆく運命であるということ。
それはこのボケ神の命が付きたその瞬間であり、そんな遠い未来ではない。
封印の生命エネルギーどころか、世界を維持するためのエネルギーもほぼ空の状態であり、「アタシも消滅寸前なのですっ! てへっ」とか、オチャラけ出した辺りで乙羽がまたキレそうだった。
そもそもこれは、ここにいるボケ神とあのクズ神が引き起こしたことであり、こちら側はただ巻き込まれただけだしね。
特に受けた苦しみが大きかった乙羽やこの四人のぶつけようのない怒りとやるせない気持ちは、はかり知れない。
『桜夜、一応あれでも私たちの友達なのでフォローしておきますが、一番この事態に責任を感じ、悲しみ苦しんでいるのは紛れもなくアクシス本人なのです』
「……そんなことは、わかっているよ」
「……そんなこと……わかっている」
同時に同じことを言った私と乙羽は顔を見合わせる。
他の人に私の声は聞こえていなかったようだけど、乙羽だけは私の声に気が付く。
それと同時にお互いが理解した。
今スマコが言った同じことをツキシスが乙羽にも言ったのだろうと。
そして、私たちは同じ言葉を返したのだと。