111 またおふろかよ
こいつ……いつの間に私の背後に……。
「とても失礼な口を利いたのは、あなたですか? ウフフフフ、そんな子は……こうです!」
なっ?!
ちょっと、どこさわってんのよ!
も、もむな! つまむな! ツンツンすなっ!
妊娠させる気か! コノ、その手を離せ!
なっ……ビクともしない。
なにこの力は……。
「アクシス、今すぐその手を離せ……この外道」
「アラアラ……だから邪神であるアタシよりも邪悪な殺気を放つのはやめてくださいよ、オトハちゃん。ちょっとした冗談ではありませんか」
あ、やっと離れやがった。
ん?! これは……。
「アナタがなにをしようと私の知ったことではないけれど、桜夜に触れることは絶対に許さない」
「相変わらず嫌われたものですねぇ。アタシはこれでも力をわけてあげようかと……」
やっぱりそうか……不本意だけど、少しだけ体が軽くなった。
「い、いたたた?! ちょっとオトハちゃん?! それ以上首を曲げられたらアタシ死んでしまいますよ?!」
「……死ね」
「ひぃいい?! 人殺しぃいい?!」
乙羽が邪神より邪神みたいな顔をしていると思っているのは私だけではない……ね。
妹っ子もあの魔王まで引きつった顔をしている。
「て、天使様。もうその辺で……」
「ちっ……オスさんに感謝するんだね」
「ホゴ……このアタシは本体ではないですけど、ここで死んだら本当に消滅しますからね?!」
「それで? どうしてアナタがこっちに来ているのかな?」
「サラッと流さないでくれます?! はぁ……マネシスの力が低下したのを感じましたので、やってきました。マネシスを葬りさるなら今がチャンスですから」
「具体的にはどうしたらいいの?」
「まずはアナタたちの力をもとに戻します。まぁ、それがここまでやってきた理由のほとんどですね」
「また桜夜にいやらしいことをするわけ?」
「だからその顔怖いですよ?! しょ、しょうがないではありませんか! 女の子にはその辺りに力のリンパが集中していますので、あれしか方法が……」
「……いい」
「桜夜?!」
思わず声が出ていた。
確かにさっきのあれで体が楽になったのは実感したからね。
このボケ神の言うことはウソじゃない。
今の私は一刻も早くマイカを助けることを一番に考えている。
それをするには今のままじゃ到底無理だ。
力を戻せる方法がこのボケ神にあるのなら、それを利用してやる。
「いい判断ですよ、サクヤちゃん! あなたは賢く、自分が今なにをすべきなのかがよくわかっている!」
うるさいクソ外道。
乙羽をこんな危険な目に合わせたことも、辛い思いをさせたことも私は絶対に許さないから。
「グハッ……溢れんばかりの邪悪に満ちたその想い、とても美味ではありますが、サクヤちゃんからしたら初対面のはずなのに、そこまで嫌われているのは悲しいですね」
「ふん……なんかよくわからないけど、少しだけスッキリしたかも」
「あなた方お二人ともかわいい顔をして考えていることが怖すぎですよ? この邪神ちゃんもビックリです」
「無駄口叩いてないで、やるならさっさとしてくれないかな」
「それもそうですねっ! では、お風呂場に参りましょう!」
「はぁ? なんでよ」
「肌を温めながらの方がよく効きますので……オトハちゃんのハリのあるスレンダーボディもなかなかでしたが、見た目に反して以外な膨らみと柔らかさを兼ね備えたサクヤちゃんの体も……グフ、グフフフフフ」
ないわぁ……引くわぁ。
この顔、マジで無理だわぁ。
ここまで私たちに寒気を感じさせるあたり、さしずめ邪神というのも納得できる。
卑猥に両手を動かしているその姿は、もう小学生のロリ少女には見えなかった。
それから私たちは、寮の部屋にあるお風呂場にきた。
大浴場ではまたあの四人の餌食になりかねないと思ったからだ。
それなのに……。
「よっ、勝手にお邪魔したぜ……と胸を張る奴がここに約1名」
「この部屋に来たばかりの私が言うのもあれだから、桜夜の代わりに言うけれど……人の部屋のお風呂で一体なにをしているのかな? ホノカとアズサ」
「い、いやそれはだな……あの……」
「フムフム、なるほど! この前見たサクヤちゃんのお胸が意外にも大きかったものですからお二人は危機感を覚えた……と」
「ふぇ?! まだ、しゃべってねぇのに!」
「ホウホウ……なにか特別な秘密があるのではないかと密かに二人でやってきたのはいいものの、それらしきものがなにもなくてガッカリし、今度は二人の内どっちが大きいかと言い争いになり、裸で胸を比べ合っていたというわけですね」
「このガキ誰だよ! なんで全部知ってんだよ!」
「アタシは邪神ちゃんです! 人間の心の奥に潜む腹黒い思いはアタシの大好物ですの」
「はぁ?! こんなちっこいのが邪神だぁ?」
「この子には余裕で勝ったと自信を付けるやつがここに約一名」
「なるほどぉ~、アナタがここに来た真の目的は、オトハちゃんとサクヤちゃんが入った後の残り湯……美容エキスをこっそりいただくおつもりでしたか」
「なぜバレたのだ?! あ……いや、なんでもないとシラを切るやつがここに約一名」
「ホノカ……おまえそんなこと考えていたのか……」
「あらあら、アナタだって真の目的はお二人の下着ではありませんか。特に使用済みのものをお探しのようですが?」
「オ、オイ! そんな言い方やめろよ! 勘違いするだろうが! いや、確かに下着は目的だったけど、それはあの……ほら、いつも二人とも着替えがないからみんな謎に思っていてだな……」
「もうやめてアズサ……ちょっと怖いんだよ」
「そんな顔をしないでくれよ、オトハ! なぁ、サクヤはわかってくれるだろ? おい、アタシから遠ざかるなって!」
こ、これはたちが悪い。
アズサたちが、というよりはこのボケ邪神が。
こいつは私たちの声が聞こえるわけじゃない。
私たちの腹の内にある、真っ黒な欲望や野心に満ちた声を聞いているんだ。
だからあえてこんなに人をイライラさせるのか……これがこのボケ神という存在。
「クックック、それでは美味しいエネルギーも少し頂いたところで始めますかね、アタシ特製地獄のマッサージを」