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110 ぱっくんちょ

 乙羽に散々「おとしまえ」を付けたみんなはとても満足気だった。

 文字通り、今まで乙羽がしてきたことはあれで水に流されたみたいだ。


 あの四人と乙羽の仲はすっかり以前のまま……ではなく、さらに仲が良くなったとさえ思えてしまう。


 それが乙羽とってはどれだけ救いになったことか。


 しかし、あの四人があれで満足したとして、それをこの領土の人たちは認めないだろう。

 乙羽の罪は決して許されるものではないし、許していいものでもない。

 乙羽が直接手を下していなくてもそれは同じこと。


 それが自分自身でもわかっているからこそ、姿を隠したまま誰にも気づかれないようにみんなの力になろうとしている。


 この領土は今、魔物たちに受けた被害を復興しようと妹っ子主導のもとに、みんなが一丸となって頑張っている。


 もちろん四人も日中はそれを手伝っている。

 その間、私らはというとアトラス大迷宮にやってきて食料・飲料の調達を妹っ子に特命で指示されている。


 すっかり魔物の数も減っていて以前よりは比較的安全な方ではあるけど、それでも力を消耗してまともに戦うこともできない私と乙羽には結構荷が重かった。


 はぁ……ないわぁ。

 ちょっとメリドの実につられてフラッと近寄っただけなのにさ、いきなりヘビみたいな魔物に巻き付かれて丸のみされそうになっている。


 さて困った、今にも私は食べられそうだ。


『アンタがフラフラ無防備に近寄るからでしょうが! 誰がどう見ても罠じゃないのよ! バカなの?! 死にたいの?! それともアホなの?!』


 散々な言われようだ。

 ネコってばそこまで怒ることはないと思うんだよ。


「桜夜? 私もネコちゃんに同感だよ? 私たちは今力を失っているんだから、もっと慎重になるべきだと思うの」

「誰がネコだ! ていうか、なんでアンタにワタシらの会話内容がわかるわけ?!」

「だから桜夜は私から離れちゃダメなんだよ? ほら、私のお膝に戻っておいで?」

「聞けよ、おい!」


 仲良いな、この二人。

 まぁぶっちゃけさ、私ら二人が力を失っていたとしてもこの世界で最強クラスの四神獣に四方を囲まれていればねぇ……。


 さっきのヘビみたいな強い魔物もネコが瞬殺しちゃうわけで、気を抜くなって言われる方が無理な話なのよ。


 この迷宮で旅をしていた頃の私だったら、さっきの一瞬でパックンチョよ?

 それを瞬殺されちゃあ、私はテクテクと優雅に食べ物を探すしかないじゃない。


「桜夜ってば、まだおなか空いているの? フフフ、本当に食いしん坊さんなんだからぁ。はい、あーん。この細いおなかのどこに入っているのかな? フフフ、プニプニ……フフフ」

「これは……あの子もあの子だけど、天使様も天使様だね」

「あぁ……同感だ」


 何やら失礼な会話もされながらも、私らは十分な食料や水を補充してみんなのもとへと戻っていった。


「メイナちゃん、アトラス大迷宮から食料とお水持ってきたよ!」

「そう、ご苦労さん。早速みんなに支給するわ……オスさん、お願いできる?」

「……あぁ。天使様、紅茶でいいか?」

「うん! 桜夜にもお願いだよ!」

「あぁ」


 魔王?!

 いやいやいや、なんでアンタが優雅に紅茶なんか入れてんの?!

 それに、なにその格好?!

 執事なの?!

 いやいや、オラオラ系なアンタにできるわけが……なん……だと?!

 かなり手慣れていやがる!

 しかも繊細だ……おかしい……なにかがおかしい。


「ウフフフ、オスさんね……メイナちゃんを陰ながら手伝うことを決めたんだよ?」

「天使様、頼むからそいつに余計なことは言わねぇでくれよ。俺はカスとの約束を守るだけだ」

「うん! 私はそれがうれしいの!」

「なぁ天使様……そいつ……少しだけ貸してくれねぇか?」

「それはヤダよ」


 即答……魔王があからさまにしょんぼりしているじゃない。

 なにあれ、ちょっとかわいそう。


 まぁ食料を配るのに、私の力を借りようとしたのかもしれないけれど、おあいにく今の私はなにもできないただの凡人だからね。


 すまんな魔王、自力で頑張りたまえよ!


 そう思ってとりあえず魔王の方をポンポンとしておいた。


「ブアイソ、あんたねぇ……」

「桜夜はあれでいいんだよ」


 なぜか妹っ子に呆れられているような気がするのは気のせいかな?

 まぁいいか、魔王も妹っ子に付いてくれるなら安心できる。


 あの時、乙羽が泣いているところをそれぞれに陰ながら聞いていたアンタら二人が、何を思い、何を考えたのか私にはわからない。


 だけど、きっとその結果が今のこの状態なんでしょう。

 妹っ子は乙羽を受け入れ、魔王は妹っ子を守ることを決めた。


 この世界がもう限界を迎えていて、時間がないことは乙羽の話でわかっている。

 クズ神の封印を維持できるほどのエネルギーもこの世界には残っていない。

 それはもうこの世界の人々、全ての命を使ったところで無駄なことだということ。


 妹っ子は自分たちが今後生き残っていくためにできることを必死に考えながら頑張っている。

 それをサポートすると決めた魔王がいる。


 それなら私はマイカを助け出すことだけを考える。

 それが妹っ子との約束だから。


 もし、クズ神の封印が完全に解かれたら、マイカは完全にマイカではなくなってしまうことになる。


 神邪アクシスとかいうボケ神が力を使い果たして封印が解かれても、マイカが完全にクズ神から侵食されたとしても、どちらでも世界は終わる。


 そんな未来は誰も望まないし、絶対に認めない。

 マイカは私が助けるんだ。


「クックックックッ……このアタシをボケ神だと呼ぶ声が聞こえましたよ。いいですねぇ~その邪心」

「……えっ?!」

「なっ……あ、あなたが……なぜここに?!」

「……神邪(かみじあ)……アクシス」


 私の背後にいきなり姿を現したのは、見た目が小学生くらいの黒いセーラー服を着た妖艶な笑みを浮かべる少女だった。

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