B09 Worst reunion
乙葉ルート編です。
次からは本編に戻ります。
カスさんがいなくなってしまった。
それは私を含めてみんなが悲しんだ。
特にオスさんの悲しみははかり知れず、静かに泣いているであろう後ろ姿を見守ることしかできなかった。
カスさん自身もマネシスを滅ぼすための生命エネルギーへと成り替わり、今ここにはその抜け殻だけが残っている状態。
魔物のみんなには、さらにショックを重ねる現実が待っていた。
行方知らずだった白虎が突然姿を現し、人間の味方をしたというのだ。
私がカスさんたちの危険を察知して、姿を消した直後の出来事だったらしい。
もう私たちには一刻の猶予も無くなってしまった。
カスさんという偉大な存在をなくし、アクシスの力も弱まりつつある。
早く人々を滅亡させ、そのエネルギーを使ってマネシス諸共全てを滅ぼすため、総戦力を持ってして最終決戦へと駒を進めよう。
私たちはみな、それぞれに違う想いを抱きながら同じ目的のために行動する。
もはや桜夜を抑えられるのは私しかいないだろう。
オスさんもどこか魂が抜けてしまったかのように元気も覇気もない。
魔物のみんなは白虎のことで頭が一杯みたいだし。
《いよいよ直接対決になっちゃうね》
「うん」
《大丈夫かい? キミがあの子に攻撃できる?》
「できない」
《相変わらずの即答だねぇ……まぁわかっていたけどさ。でも、あの子を止めないと目的も果たせないよ? どうするの?》
「……正体を明かすよ」
《え?! なんで?! そんなことをしたら……》
「うん、多分桜夜には嫌われると思う。全ての元凶が私だということになるからね……」
《なら正体を明かす必要はないじゃん。元凶は全身を甲冑で包んだ天使という人物だということにしておいたらさ……》
「それじゃあダメだと思うんだよ……私は、私なの。これは自分の意思で決めたことだし、自分の意思で今を行動しているから」
《あきれた……まったくキミという人はどこまで不器用な人間なんだい? でも……その決意はみんなにも届いたみたいだね》
「ふぇ? み、みんな……聞いていたの?」
「天使様……我々もお供いたします。目的は違えども、目指す道は同じであります」
「う、うわぁ……は、恥ずかしいなぁ。みんなにはツキシスの声が聞こえないんだよね? なら私独り言をしゃべっていたみたいじゃん!」
「まぁ、それはそれなりの頻度で見ていたから今さらというか……」
「独り言よりも体全体で表現されるリアクションの方に実は驚いていたというか……」
「それに我々は天使様の素顔もお声も知っているので、その兜から発せられるお声と口調のギャップに違和感しかないというか……」
「……私って実はかなり痛い子に見られていたのかな?!」
《まったく、オイタワシイ主だよ、キミは。でも……だからこそ周りの者たちがキミに寄り添ってくれるんだ》
気が付けば私もここに来て長く月日が経っていた。
今日に至るまで落ち着いていられる日なんてなかったせいもあって、あまり気にしていなかったけれど、ずっとみんなに支えられていたことに気が付いた。
身の回りのお世話から、私の話し相手、それに作戦のための準備……思い返せばここにいるみんなに助けられてばかりだった。
知らず知らずのうちに私はここのみんなと触れ合い、信頼関係を築いていたようだ。
「あなた様はあなた様の目的のために、どうか突き進み下さいまし」
「僕たちはそれを全力でカバーするよ」
「それが私たち、アクシス様の眷属である宿命であり祈願でもありますので」
「みんな……」
ここに来てからの私は、ずっと自分のことだけしか見ていなかった。
桜夜さえ守ることができれば、他のことはどうでもいいと。
無理やりにでもそうやって自分を納得させないと前に進めない気がしていたから。
ふと、立ち止まってしまいそうになりそうだったから。
もちろん一番は桜夜が大事。
今でもそれは変わることはない。
だけど、それ以外にも大切な繋がりというものができたと思う。
それぞれ最終的には違う方向を向いているけど、大切になった仲間たち。
私はもう止まるつもりもない。
もう迷っちゃいけないんだ。
桜夜にも、この子らにも悪いと思うから。
そう思ってやってきた最終決戦。
予想通りに桜夜に背負われたマイカちゃんと、前世でも仲が良かったアズサ、ハズキ、ミサキ、ホノカが白虎に背負われてやってきた。
この4人についてはカスさんとオスさんに少し無理を言って、面倒を見てもらっていたのだ。
一応は前世でも仲が良かった友達、最終的には殺すことになるとしてもやっぱり気になってしまった。
特にこの4人は、他の人と違って表面だけの付き合いじゃなかったというのも理由にある。
なぜならこの4人は桜夜もきちんと同じ友達として見てくれていたから。
本当ならそんな友達を死なせたくないのが本音。
でも、この4人は特別に生命エネルギーが強すぎた。
1人で数百、数千人分をまかなえてしまえるほどに。
それを入れてもギリギリな状態であるなら、私が迷うことも許されない。
友達を名乗る資格はないのだ。
だからせめてあの子らは魔物さんたちに任せよう。
幸いにもあの子らは白虎と一緒に戦っている。
卑怯ではあるけど、自らの手で友達を殺す必要はなくなる。
そして私は今、桜夜を相手に戦っている
相変わらずの無表情でも、前世より感情が行動に出やすくなっている桜夜。
だから桜夜の動きは手に取るようにわかる。
「いくらキミが早く動こうが、どれだけキミが視界から外れようが、私には通用しない。絶対にキミは私に勝てない」
思わずそんな言葉を発してしまうほどに。
桜夜のことなら私が一番知っているんだ。
桜夜のことは私が一番理解できているんだ。
桜夜のことなら私が……と考えている時に、桜夜の背中に乗っていたマイカちゃんに攻撃された。
正直その攻撃は痛くもかゆくもない。
だけど、今まで感じたこともないような怒りが込み上げる。
どうしてあなたが桜夜の背中にいるの?
どうしてあなたが桜夜に守られているの?
どうしてあなたが桜夜の後ろに隠れているの?
考えるよりも先に、体が勝手に動いていた。
全力で突きつけた私の光の剣は、気が付けばマイカちゃんの体を貫いていたのだ。
それを見た桜夜は明らかに動揺した。
そして自らが盾になろうとマイカちゃんを庇うように身構える。
私がいくら挑発しようが、説得しようがその姿勢は変わらない。
もう……私の心が限界だった。
「まったく、相変わらずなんだよ……桜夜は」
私は頭にかぶっていた兜を外し、自分自身の声でそう言った。




