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B05 Teleport

 桜夜がいる向こう側の世界へ私も行くことを決めた。


 こちらと向こう側では時間の経過が違うらしく、先に転移して0歳だった桜夜がもう5歳を過ぎているらしい。


 さらに、私が今から転移して目覚めると向こうの時間では、もう5年以上過ぎる計算だという。


 その事実を聞いた私は絶賛へこみ中だ。


 どうやら、向こう側に生きる人類の人生サイクルを速める目的でそうしているみたいだけど、私としては0歳児から9歳児までの桜夜の姿を見ることができないことのショックが大きすぎる。


「そろそろ立ち直っていただけませんか? オトハちゃんも転移したら今の姿から幼児退行してしまうので、同じくらいの見た目にはなりますから」

「……一刻も早く私を転移させて」

「オトハちゃん、まず先に言っておきますが、向こうに転移してもサクヤちゃんと接触するのは絶対にダメですからね?」

「断るよ」

「即答ですか?! 何度も言いましたが、あなたが向こうにいることをマネシスが知れば、その瞬間に世界は終わりなのですよ?!」

「桜夜が目の前にいるというのに、私がなにもしない自信はないよ」

「マネシスは何らかの方法でサクヤちゃんに接触しているのです。あなたがサクヤちゃんに接触すれば必ずバレることになります」


 アクシスの言いたいことはわかる。

 桜夜が命をかけてまで私を救ってくれたというのに、私がそれを無に返すのかということだろう。


「……わかったんだよ。じゃあ、私は向こうでなにをすればいいの?」

「単刀直入に言います……向こう側の人類全てを、滅ぼしてください」

「……え? なんで?! 封印の維持は?!」

「もちろんこれは最終目的です。それにはいろいろと準備が必要ですので、その間は封印をしっかりと維持しておく必要があります」

「人類全てを滅ぼしてどうするの?」

「その生命エネルギー全てを使って、マネシスもろともその世界を消滅させます」


 現役JKの私に、とんでもないことをやらせようとしている邪神。

 いくら桜夜のためだとはいえ、人殺しをやれと言われてすぐに「はい」とは言えない。

 本当にそれが桜夜のためになるのかと躊躇してしまう。


 怖い……自分にできるだろうか。


「その善意は間違っていませんよ。やることは残酷非道の大量殺戮です。ただ、それはあなたの力を借りなければ不可能なことなのです」


 このまま手を貸さなければ、いずれ封印が破られて桜夜が殺されてしまう。

 私がマネシスに見つかっても結果は同じ。


 それなら……私も覚悟を決めないといけない。

 大切な1人を守るため、どれだけいるかもわからない大勢の人たちを犠牲にする覚悟を。


「心配しなくても、実際に人々を手にかけるのは全てアタシの眷属がやります。それがアタシたちの役目ですので」

「……それでも、私がそれに加担することに変わりはないよ」

「あらあら、あなたも意外と頑固者なのですね。とりあえずあなたにはアタシの眷属のトップに立ってもらいます。そして、サクヤちゃんが封印を解こうとするのを邪魔してほしいのです」

「この私に、サクヤの敵になれということかな?」

「だからその冷たい殺気を向けるのはやめてください……本当に怖いので。あくまで表向きは、ですよ。サクヤちゃんから見たら、あなたは敵の黒幕という立ち位置になってしまいますが、あなたから見たらずっとサクヤちゃんを見守ることができる位置だということです」

「堂々と……ノゾキができる」

「まぁ、間違ってはないですが……その言い方大丈夫ですか? ともかく、サクヤちゃんは徐々にウラシスの力を使いこなしつつあるのです。アタシが作り出した迷宮内の弱い魔物たちではもう抑えられないくらいまでは成長しています。このまま成長を続ければいずれアタシの眷属たちにも届く勢いなのですよ……って、アタシの話聞いてます?」

「一応。さすがは私の桜夜なんだよ」

「うれしそうにしないでくれます?! 結構困っているんですから。ですから、オトハちゃん自身も力を開放させていってくださいね。まぁ、向こうの世界であなたに勝てる者はほぼいないでしょうが……」

「そうなの? それよりも、私が向こうで力を使っても大丈夫なの?」

「それは問題ないですよ。アタシ特製の特殊な甲冑を身に付けていただきますので、それがある限りバレることはありません」


 なるほど、それで存在を隠しながら生活しないといけないのか。

 それにしても、マネシスが一体どうやってあの桜夜を信用させたのかは謎だ。


 よほどのことがない限り、他人に無関心な桜夜が人を信用することは絶対にないはず。

 その理由も気になるところだけど、今は封印を守ることが先決だね。


 今から私は桜夜の敵にならないといけない。

 そう思うと、とても心苦しい。

 だけど、それが桜夜のためになるのなら私は一切迷わない。


 あの子を守るために私は行くんだから。


「ウフフ……覚悟を決めた女の顔になりましたね。それでは、今からあなたをアタシの領域である、向こう側の世界へ転移させます。ですが……」

「ですが、なに?」

「生きたまま肉体を作り替えるようなものです……おそらくそれはこの世のものとは思えないほどの苦痛になるでしょう。オトハちゃんはその苦痛に精神力のみで耐える必要があります」

「そんなことなら、心配ないよ」

「覚悟してくださいね。精神を強く持たないと魂ごと消滅します。そうなったら全てが終わりです」

「わかったよ」

「それでは良い旅を、オトハちゃん。 ……あとは任せたよ、ツキシス」


 唐突に私の視界は真っ暗になった。


 途端に襲ってきた全身を襲う激痛。

 それは確かに今まで感じたことのないような痛みと苦しみだった。


 例えるのも難しいけれど、全身を火であぶられているような痛みだと言えばいいのか、体の内部を手でかき出されているような痛みだと言えばいいのか、よくわからない。


 それと呼吸ができない状態にもがき苦しむことも許されず、気を失って楽になることも許されず、永遠とこの苦痛に耐え続けている。


 どれくらいの時間が経過したのかもまったくわからない。

 まだ数秒なのか、1時間なのか、それとも数日、数ヶ月経過しているのか……。


 私の中に桜夜という存在がいなかったら、とっくに心が折れていた。

 あまり覚えてはいないんだけど、ずっと桜夜が守ってくれていたような気がする。

 あの時と同じように、やさしく私を包み込んで微笑みかけてくれていたような気がする。


 そして、地獄のような苦しみに耐えた私は目を覚ました。

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