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B04 strong willed

 私は桜夜に命を助けられた。

 そのことを忘れることは一度もなかった。

 またあの子に会いたいと心から願い続けた。

 そう思っていろんな場所を探し回った。

 なんの手がかりもない、自分の記憶だけが頼りの人探し。

 町内、市内、県内、そして県外にも探しに行った。

 持前だったコミュ力を活かして、使えるものは人でも物でもなんでも使った。


 もう一度あの子に会えたなら、こんな話をしようかと書き留めていた日記帳も気が付けば数十冊になっていた。


 そしてようやくその願いが叶った。

 溢れ出そうになる涙を抑えつつ、精一杯の笑顔で一番言いたかった言葉を言った。


「やっと見つけたよ! 私とお友達になってくれませんか?」


 だけど、いくら待ってもその子から返事が返ってくることはなかった。


 あの頃のようなかわいい笑顔を見せることもなく、濡れている服や髪型は乱れたまま、まるで捨てられた人形のように無表情で海を見つめていた。


 私の存在なんてまるで無視したままその場を去ろうとしているその足取りも弱弱しく、ふらっと倒れそうになったところに私は慌てて肩を貸す。


 私の命を救ってくれたあの頃の姿は、もう見る影もなかった。

 だけど、なぜか私はこの子があの子で間違いないという確信を持っていた。


 だから私は一切引き下がらなかった。

 そのまま家まで付き添って行った時に、初めて桜夜のお母さんのシズちゃんと会った。

 私の存在にすごく驚いた顔をしていたけれど、桜夜についてやさしく話してくれた。


 桜夜は3年前から体が弱体化する謎の病気にかかっていること、学校で酷いイジメを受けていること、それで心を完全に閉ざしてしまっていること、全てを聞いた。


 3年前……私たちが初めて会ったのも3年前。

 偶然だとは思えなかった。

 それにシズちゃんの話では、確かに桜夜は3年前に私の地元に来ていた。

 そこから帰ってきてから体の不調が起こり始めたという。


 シズちゃんはその時のことを知らないようだ。

 桜夜自身、なにも覚えていないとしか言わなかったらしい。


 多分、私のせい……なのかもしれない。

 今ならわかるけど、あの時私は確実に死ぬ運命だった。


 あの時の私と電車との距離、それに桜夜が走って来ていたあの位置は、確実に人間が走って間に合う距離じゃなかった。

 その証拠に、電車を運転していた車掌さんは確実に私を撥ねてしまったと思っていたらしいし。


 だけど、実際に桜夜は電車よりも早く私を抱きかかえて踏み切りを超えていた。

 その時の桜夜の黒髪が、綺麗な桜色に輝いていた。

 当時は一瞬のことで見間違いかと思っていたけど、多分間違いなかった。

 不可解なことだけど、桜夜はあの時私を守るために不思議な力を使ったんだと思った。


 つまり、今桜夜に起こっていることは全て私を助けたことが原因……。

 それがわかるとまた涙が止まらなかった。


 でも同時に決意した。


 私は今後、なにがなんでも桜夜から離れない。

 ずっとこの子の隣で一生をかけてでも守り続けていく。

 今度は私がこの子の支えになるんだと。


 決意を固めた私はとても頑固だった。

 次の日には地元へ帰る予定を無理やり先延ばしにし、毎日のように桜夜がいるあの海のベンチまで行って、同じ言葉を繰り返した。


 それは地元に帰った後でも変わらず、親に頭を下げてでも電車で2時間かかろうとも、毎日学校終わりに桜夜のもとまでやってきた。


 そうしているうちに少しずつ……本当に少しずつだけど桜夜が私の方を見てくれるようになってきた。


 それが私にはたまらなく嬉しかったのだ。



「あの時の出来事をあなたが知っているということは、どこかで見ていたの?」

「はい。何を隠そう、あの電車事故であなたを殺そうとしたのは、アタシですからね」

「っ?! なんで! どうして! ……どうして……桜夜を巻き込んだのよ! 私を殺すことが目的だったなら、桜夜を巻き込む必要はなかったじゃない!」


 気が付いたら私は叫んでいた。

 その声にビックリしたのか、誰かがこの病室へ駆け寄ってくる音が聞こえた。


「落ち着いてくださいな。少し場所を変えましょうか」


 アクシスはそういうと、私の手を掴み一瞬であの桜夜といた海のベンチまで移動した。


「はぁ……はぁ……あまり力を使わせないで下さいよ。消滅してしまいます」

「あなたなんて消滅してしまえばいいんだよ」

「嫌われたものですね……確かにアタシはあの時、あなたの中に眠る光の神の力を感じていました。闇の神であるアタシは光には敏感ですからね」

「……」

「あなたの存在がマネシスに知れれば、いずれ利用されるとアタシは考えました。そうなる前に人生を終わらせてあげる方があなたの幸せになると思ったのです……しかし、まさかあの場所でたまたまサクヤちゃんが通りかかりました」

「……」

「サクヤちゃんはあろうことか、あの幼い体で神成の力を発動させ、奇跡を起こしてあなたを守り抜きました。ただその代償は大きく、自らの寿命を大きく縮めて体はどんどん衰弱していき、人間としての日常生活をまともに送れなくなるほどに」

「うっ……ぅぅ……」

「そうまでして守った尊い命をアタシはもう奪うことはできませんでした。だからせめてマネシスの目からあなたを遠ざけてきたつもりだったのです……しかし、残念ながら結果的にあなたは目を付けられてしまった」

「……」

「同時にアタシも諦めかけていました……もうここまでかと」

「でも……また桜夜が守ってくれた……今度は命と引き換えに……」

「はい。そして今、あの子はマネシスに騙されて封印を解こうとしています。そして、その役目を終えたら間違いなくサクヤちゃんを殺すでしょう。それを聞いてオトハちゃん、あなたはどうしますか?」

「……私を桜夜のもとへ連れていきなさい」

「ウフフフ、それでこそオトハちゃんです」


 最初から私がそう答えることがわかっていながら、わざわざ問いかけるこの邪神が本当に嫌い。


 でも、一生をかけて守ると誓ったあの子に、また自分だけ助けられたままの私はもっと嫌いだ。


 桜夜、今行くよ。

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