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B03 precious memories

乙葉ルート編です。

 マネシスは封印の弱体化と共に少しずつ神の力を取り戻していくと、アクシスの領域内である向こう側の世界からの脱出を目指す。


 一番手っ取り早いのはアクシスを殺すことだけど、いくら神の力を取り戻しつつあるマネシスでも封印されたままではそれもできない。


 だけど、アクシスも長年の封印と世界の維持のために自身の力を使い続けていた関係で、もう戦える力がほとんど残っていない。


 だから、なんとしても封印を維持したい考えだ。


 弱まっているとはいえ、封印が解かれるまでにはまだ数百年の猶予があったらしいけれど、マネシスが私という存在を見つけたことでそれが崩れてしまったらしい。


 私にはアクシスやマネシスと同格である、光の神が眠っていると聞いた。


 その神の力は唯一闇の神であるアクシスに対抗できる力であり、アクシスが作り出した領域を破壊することができるらしい。


 だからマネシスは私を向こう側の世界に引き込もうと考え、少しずつ戻っていた力を全て使い、召喚術式を発動してあの爆発倒壊事故を引き起こした。


 それに気が付いたアクシスは、すぐにあのショッピングビルまでやってきた。

 だけど力の消耗が激しく、倒壊していく建物や死にゆく人々を目の当たりにしながら、どうすることもできなかった。


 諦めかけていたその時、建物の窓から飛び出して落下している私の姿を見た。

 すぐに受け止めようとするアクシスの頭に、私がそのまま落ちても助かること、そして桜夜の命がまだ間に合うことを告げる声が届いた。


 アクシスはその声の主をよく知っていたからこそ、迷わず桜夜を助け出してその場を離れたらしい。


 その声の主は神成ウラシス。

 アクシスやマネシス、それに私の中に眠る光の神と同格の、最後の神。

 それは桜夜の中に眠っていたらしい。


 ただ、助け出した桜夜の体の損傷はかなり激しく、アクシスの力を持ってしても人間としては再起不能な状態だった。


 そこでアクシスはウラシスと話し合い、桜夜の魂を保護したままで肉体を細胞レベルにまで分裂させ、無理やり幼児退行させて体の再生をはかった。


 だから今桜夜は記憶をそのままに、体だけは幼児からやり直しながら再生をしている状態だということらしい。


 ただ、それは世界の理にそむくやり方であり、表向きにはそれを実行することができなかった。

 だからアクシスの領域内へ桜夜を隠し、向こう側の世界へと転移させた。


 そうしたのには、ウラシスなりの理由もあったらしいけれど、そこはアクシスも教えてくれなかった。


「それなら、幼児の桜夜は今誰かに育てられているの?」

「いいえ。人間がいない魔物だらけの地下迷宮内に放り込んでおります」

「それは一体どういうことかな?」

「そ、それもウラシスの希望だったのですよ……お願いですから邪神のアタシよりも冷たい殺気を放つのはやめてくださいな」

「桜夜の体は……」

「大丈夫ですよ。サクヤちゃんの体の病も完全に完治しております。今は多分5歳くらいまで回復していますが、すでに常人からかけ離れた動きをしていると思いますよ」

「それは……『あの時』と同じようにということかな?」

「……えぇ。『あの時』にはまだまだ及びませんが」


 あの時……というのは私が初めて桜夜に出会った日のこと。

 このアクシスもあの時の出来事を知っているようだ。


 私が桜夜と初めて出会ったのは、隣町にある人が全く寄り付かない海岸のベンチで座っている桜夜に私が声をかけた時……ではない。


 桜夜自身はそう思い込んでいるようだけど、実はもっと前に私たちは出会っている。


 それは私が小学2年生の時、新しく買ってもらったばかりの自転車に跨り意気揚々と田舎道を走行していた時のことだった。


 ある踏切を越えようとしていたその時、突風に煽られて自転車の車輪が線路にハマってしまった。


 可愛いからと駄々をこねて買ってもらったその自転車は当時の私の体には大きくて、ハマった車輪を持ち上げることもできず、押しても引いても車輪が線路を滑るだけの状態だった。


 そうこうしているうちに電車が近づいて警報が鳴り響き、踏切が降りてしまう。


 大きな音にビックリしたのと、大事な自転車をどうにかしないといけない状況に気持ちだけが焦ってしまい、幼かった私の頭では逃げるという考えには及ばなかった。


 必死に重たい自転車の車輪を持ち上げていると、踏切の音に交じって小さく「逃げて」という声が聞こえた。


 その声のした方を振り向くと、知らない少女がこちらに向かって走っていた。

 急な電車のブレーキ音でふと我に返ると、もう私の目の前に電車が迫っている。


 あれ? これって……私死ぬの?


 漠然とそう思ったことを覚えている。

 避けようのない「死」というものがもうそこまで迫っている。

 急に恐怖と絶望の感情が込み上げ、体の芯から震えが止まらなくなった。


 いやだ……誰か助けて。


 必死にそう願った。

 さっきの女の子を見ると、こちらに向かって走りながら手を伸ばしている。

 だけど、その小さな手はあんなにも遠い場所にある。


 もうダメなんだと思った。

 私の人生はここで終わるんだって。


 そう思って私は目を閉じた。


 だけど、いくら待っても激突の痛みや衝撃など、なにも襲ってこない。

 でも目を開けることがとても怖くて震えていた。


 すると突然私の体がフッと宙に浮いたかのような不思議な感覚を感じた瞬間、やさしく体が包み込まれるような感覚と、その後にフワッと香るいい匂いがした。


 一体なにが起こったのかと恐る恐る目を開けてみると、さっきまで私がいたはずだった場所ではすでに電車が自転車だけを撥ねて通り過ぎ、遠くの方で止まりかけている。


 私はなぜか線路を越えて、踏切の外にいた。

 そして目の前には私を抱き抱えてほほ笑む少女の顔があった。


 この子はさっきの知らない女の子。

 ポカンとしている私を他所に、その子はボソッと「守れて良かったよ」と言った。


 私はその瞬間に緊張の糸が解けたのか、大声を上げて泣いていた。


 私が泣き出してすぐに、その子が突然倒れた。

 すぐに救急車がやってきて、私たちは同じ病院に運び込まれたはずだった。


 診察が終わった後、私は命の恩人であるあの子にお礼を言いたくて病院内を探したけれど、まるで存在が消えてしまったかのように、誰もその子のことを知らなかった。


 これが私と桜夜の最初の出会い。

 それから平凡な日常生活を送りながらも、私は桜夜をずっと探し続けた。


 そして3年後、たまたま親戚の用事で遠くに出かけていた時、何気なく車から見ていた海岸で、そこのベンチに座る桜夜を見つけたのだった。

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