102 さいかいのとき
少し向こうでは激しい戦いが始まっていた。
さすがに、同じ四神獣相手に3対1というのはムチャが過ぎると思うのだけれど、頑なにネコは譲らなかった。
自分の力を増幅させるあの4人が一緒なら、まず負けることはないと。
ネコが意外にもあの4人のことを気に入っていることにビックリだったけど、あの3匹を自分だけで引き受けるのにはなにかネコなりの理由があるんだと思う。
もとは同じ四神獣だったわけだし、友達だとハッキリ言ったからね。
そもそもネコがこちらの味方をしてくれるのは、私の中のスマコがいてくれるからだと思っている。
スマコはそう思っていなかったみたいだけど、もともと師弟関係みたいなものだったわけだし、スマコを心から崇拝しているのはあの態度をみればわかる。
だからこそあの神成の力にこだわり続けている。
その証拠にネコはあれ以外の力を一切使わないしね。
でもそれだけで倒せるほど他の四神獣は甘くない。
だからこそあの4人の力がネコの力になる。
あっちは大丈夫……任せよう。
私らは魔王と天使と対峙する。
最初から全力全開だ。
『忍気、発動』
「キミはやる気満々か……それに引き換え、背中に隠れてビクビクしながら怯えているおまえの方は卑怯者だね」
「っ……」
マイカが今一番気にしていることを的確に刺激してくる。
心理戦だ。
背中に背負うマイカの様子が明らかに変わる。
呼吸は乱れ、体の震えが強くなっている。
「マイカ……」
「ご、ごめん……なさい」
「……私たちは2人で一つ……だよ」
「サク……ありがとう」
「……いくよ」
私はそういうと、強く地面を蹴る。
それと同時に魔王だけが動き出して、途中で私らは衝突した。
「火炎魔法、業火爆裂」
「風神魔法、暴風壁」
背中のマイカが魔王に向けて魔法を放つ。
魔王がそれを風の壁でガードすると、炎が消えてしまった。
私らはマイカの炎に紛れて魔王の視界から姿を消し、いまだに立ち尽くしている天使に向けて走り出していた。
こちらが不利な状況下では早期決着が必須。
私は最初からこの天使にしか用はない。
全ての元凶であり、全ての人間を裏で操りながらその命を弄んでいた張本人。
私は今、あなたを全力で倒そう。
『忍気、フルバースト』
私は忍気を流すのではなく、体内で煉りあげた。
回転させた忍気の渦はもの凄い勢いで自分の全身へと流れていく。
これで私の動きは全てギアが一段上がる。
背中のマイカが落ちないように自分の体とマイカの体を特殊糸できつく固定する。
マイカ自身もそれがわかっているから、私へしがみついている手に力を入れた。
さっきよりも格段にスピードを上げて天使の背後の視界外から拳を突き上げる。
それを見向きもせずに片手だけで受け止める天使。
まるで鉄でも殴っているみたいな感覚ね。
纏わせた雷撃も全く効果がないみたいだし。
全身を甲冑で覆っておきながら背中に目でもついてんのかと思うわ。
「いくらキミが早く動こうが、どれだけキミが視界から外れようが、私には通用しない。絶対にキミは私に勝てない」
くそ……このおっさんの強さの秘密はなんだ?
どうしてここまで言い切れる?!
「火炎魔法、業火爆裂!」
「っ?!」
マイカが超至近距離で魔法を放った。
ネコと同じ要領で、マイカの業火が私の雷撃と合わさり威力が上がっている。
マイカの炎が背中の鎧へと直撃したら、明らかに動揺した。
その瞬間に体の底から感じた悪寒により私はすかさず距離を取る。
「ぐぅ……」
私の背中で小さくうめき声を上げるマイカを見てみると、肩から血を流している。
「マイカ?!」
「だ、大丈夫」
一体なにが?!
天使は微動だにしていないというのに、どうやって攻撃された?
魔王は最初の衝突位置に胡坐をかいて座っている。
あいつはもう全く動く気配がないようだ。
だとしたら一体マイカの肩の傷は?!
《光の剣……ですね》
光の剣?!
天使のおっさんがそれをやったというの?
《光は一瞬で現れ、一瞬で過ぎ去ります。もう一度来ますよ、全力で右に避けて下さい》
スマコの言う通りに全力で右に走り出す。
「うっ……」
またしても後ろのマイカから苦痛の声が聞こえる。
今度は左腕に少しかすったみたいだ。
傷は深くないけど、斬られたというよりも焼き斬られたというような傷口だ。
それでもほんの一瞬だけ眩しい光が見えた。
ただ、その光が見えた時にはもう攻撃をされた後なのだ。
完全に狙いはマイカただ一人……。
私には一切見向きもしていない。
多分、私を殺そうと思えばいくらでもチャンスはあった。
私がそれに気が付くよりも先にその光の剣とやらで私の心臓なり脳天なり貫いてあの世に送ることもできたはずなのだ。
そして私を殺してその後にマイカを殺せばいい。
それをせずにわざわざ狙いにくいマイカだけを狙っているということは、私がこの子の盾になることができるということ。
私は大きく手足を広げ、後ろのマイカを庇うように構えながらもう一歩下がった。
これでさっきと同じ速度で躱せばとりあえずは当たらないはず。
「左腕を落としたつもりが躱され、今度は右腕を落としたつもりがかすり傷か……キミは一体どこまで」
「……この子は……ダメ」
「どうしてキミがそこまでしてその子を守る? その子がキミになにをしたというのだい?」
「……」
「気が付いていると思うけれど、私はいつでもキミをを一瞬で殺せるよ。キミが背中に背負っているそれは、キミの命よりも大切なものかい?」
「……」
「それの中にある凶悪な力は全てを滅ぼしてしまう力なんだよ? この世界の住人や地球で生きる人々全員の命……それがその子1人の命よりも大切だと言うのかい?」
「……うん」
天使が言うことは多分間違っていないんだと思う。
マイカの力が最終的には世界を滅ぼす力だということは何となくわかる。
それでも……それでも私はこの子を守りたい。
だから自然としっかり返事をすることができた。
「まったく、相変わらずなんだよ……桜夜は」
え? こ、声が女の子に?!
それよりもこの声は……まさか……そんな……まさか。
「お……おと……は?」
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