101 まえをむく
なんとか私らは魔物の軍勢を突破していく。
いくらネコの電磁波が強力でも、それを突破する程の魔物も中にはいて、途中でネコの足が止まることもあった。
しかし、背中に乗った4人が思いのほか力を発揮して魔物たちを圧倒していく。
あの四神獣たちと戦っている時から思っていたけど、この子らの魔法はネコと相性がいい。
アズサの水はネコの雷撃を魔物から魔物へと感電させて広範囲のザコを蹴散らし、ミサキの植物を操る能力で防御態勢を整えつつ魔物の動きを止めたり誘導したりと翻弄している。
さらに、魔物の群れの中へ無数に放たれるホノカの黒い槍がネコの雷撃を誘引する役割を果たし、その雷撃にハズキの炎で過電流を起こして大爆発を引き起こしていた。
ネコの消耗を最小限にしながらも、有効的に強力な技を連発している。
昔私が散々苦労していたチャタテムシや6本腕のゴリラ、それに大砲を背中に乗せたカメたちが次々に瞬殺されていく姿には、「ないわぁ」としか言えない。
私とマイカの方にも、懐かしいヤツが現れた。
あいつは、四災岳の内部を中から登っている途中で現れたコウモリみたいな魔物。
あの時はマイカを落っことして泣かせちゃったのよね……その後はマイカが瞬殺しちゃったけど。
マイカも昔のことを思い出しているのだろうか。
私の首に回された腕にとても力が入っている。
もう少しこれ緩めてね?
窒息しそうなのと、息が耳にかかってくすぐったいから。
「アタシも……火炎魔法、豪華爆裂!」
私が手裏剣に手をかけようとしていたら、それよりも先にマイカが魔法を発動する。
あの時と同じように……いや、あの時より強力にコウモリを巻き込んで燃え盛る豪華の炎。
「大丈夫……アタシも戦うよ」
無理やりに作ったような笑顔。
あれ以来、マイカはこの笑顔しか見せなくなった。
みんなの前では普段通りに振る舞っていたけれど、多分不安なんだと思う。
怖くて怖くて仕方がないんだと思う。
夜も部屋で寝ている時は、常に震えながら泣いていた。
誰に向けてなのかわからないけど、静かにずっと謝り続けていた。
おっさんを自らの手で殺したこと、それほどまでに強大な力を手にしてしまったこと、その恐ろしい力に支配されてしまいそうになっていること。
自分の中でいろんな恐怖に支配されてしまっているんだと思う。
それは全てマイカの中にある、あの神機の力という存在が原因。
スマコにこの力のことを聞いても、詳しいことはわからないとしか答えてくれない。
同じ神様なら何か知っているはずだと思うんだけど、スマコが言わないってことは言えない何かがあるんだと思う。
その話をするとスマコ自身から戸惑いや焦りが少し感じられる。
だから私もそれ以上は聞かない。
ただ、今私が背負っているこの子は自分なりに前を向こうとしている。
深いトンネルの中でなんとか出口を見つけようとしているんだと思う。
それがさっきの「大丈夫……アタシも戦うよ」という決意表明。
あなたが前を向くなら、私はその背中を押そう。
あなたがどこかへ向かうなら、私はそれに付き添おう。
あなたが闇の中に落ちたなら、私はその手を離さない。
あなたを守るためならば……私は……。
《サクヤちゃん!》
突然のスマコの声にハッと前を向くと、眼前に炎が迫っていた。
「ちぃ! ライホウ!」
私がその炎を相殺するよりも先に、ネコが雷撃を放ったことで軌道が変わり私らのすぐ横を通り過ぎていく。
「すぐへばるくせに、無駄に力を使うな!」
ネコが怒ると本当に毛が逆立つのね。
まぁ、そんなことはどうでもいいけど、いよいよお出ましか。
気が付けば私らは魔物の軍勢を突破していたようだ。
まず目に入ったのは、さっきの炎を放ったであろう朱雀とその横に浮いている青龍。
その下には砲台が何本もついた甲羅を背負い、2補足歩行で歩いている巨大なカメの魔物がいた。
それはおそらく最後の四神獣の1匹、玄武だと思う。
そしてその横には大剣を肩に担いでいる魔王と、あの時と同じように全身を白い甲冑に身を包んだ天使の姿。
ただやっぱり魔王からは以前のような覇気が感じられない。
「まさか本当に寝返っていたとは……この目で見るまでは信じたくなかったのだが」
「……」
「なんとか言ったらどうだい? 白虎、今からでも遅くはないよ。こっちに戻っておいでよ」
「……断る」
「一体どうしてしまったというのですか? 一体なにがアナタを間違った道へと導いたのです?」
「……」
「朱雀、もういい。これ以上は無駄だ」
「し、しかし……」
「玄武の言う通りだよ。多分お互いに譲ることはないと思う」
「白虎……」
「お互いに引かぬのならば、せめてかつての友であるワレらが全力で葬ってしんぜよう」
「こんなことになるなんてね……」
「白虎……」
「……」
いいの?
「なにが?」
友達なんでしょ?
「ふん……友達だからよ」
そう……。
ネコはそういうと、みんなにも聞こえるチャンネルに切り替えてしゃべり出す。
「アンタたち、力を貸しなさい」
「おわっ?! これ、白虎はんの声かいな?!」
「会話できるのか……ビックリしたぜ」
「尻尾に揺られていたら酔ったよぉ……うぷっ」
「ここで吐いたら白虎に殺されると心配するヤツがここに約1名」
「……ということで、行くわよ」
どこかで聞いたことのあるようなセリフをはいたネコとその背中に乗った愉快な仲間たちは、3匹の化け物目掛けて飛び出していった。
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