011 むてきじゃね?
冷静に周りを見渡してみると、地面も天井も壁も全部岩だらけのエリアみたいだ。
ただ、他の場所に比べると気温が異常に低く、アイレンズに映る外気温度は氷点下に近い。
ある程度の気温なら全く影響を受けないはずの転身機を身に付いている状態でも寒さを感じてしまうほどに。
それが影響しているのか、壁や地面の壁が妙に青っぽく光沢を放っており、特に青みが強い岩と岩の間の壁からは湧き水が少し出ていた。
この湧き水で小さな川ができており、その近くの小さな植物には果実が実っていた。
スマコ、あの水と果実は口に入れて大丈夫よね?
《アトラス深層水:豊富なミネラルを含みながらも、その他の余分な不純物は少なく、とても奇麗で美味しい澄んだ水。アトラス大迷宮のみで入手可能な高級飲料水》
《ウルルの実:とても奇麗な水の傍で育ち実を成すウルルという植物の実。味は濃厚で口当たりが良く、糖度も高い》
おぉ……ぉおおおお!
美味しい水に美味しい果物!
いやぁ~死ぬ思いをした甲斐があったもんよぉ。
まさかこんなご褒美が待っているなんてね!
えへえへえへ。
さてさて、それではまずお水をゴクリ……。
うおおおぉぉぉ……うん、普通。
いや、ごめん。
普通に美味しいんだけどさ、高級なんていうからちょっと期待が大きすぎたわ。
私には家で飲んでいたミネラルウォーターと同じ味に思える。
まぁ、いいや。
水分補給は生きる基本よ。
今度は、ウルルの実とやらを食べてみますか。
おなかが空いていたから、ちょうど良かったわ。
ではいざ、パクリ……。
うん、うまうま。
これは……あれだ、マンゴーみたいな味だ。
正確には結構水気が多くて、熟ったマンゴーって感じかな?
パクパクパクパク……ゴクゴクゴク。
パクパクパクパクパクパク……ゴクゴクゴクゴク。
パクパクパクパクパクパクパクパクパク……ゴクゴクゴクゴクゴク。
ふぅ~食べたぁ。
これで体力も忍気も回復だわ。
この世界の不思議なところがさ、なにか食物を飲み食いすると体力も忍気も回復するってとこなのよ。
これはマジで謎。
スマコの話じゃ、この世界の食物はアイテム的な力が働くらしいよ。
食べたら体力回復的なやつね。
最初はゲームかよってツッコミを入れたけどさ、これはこれで結構便利だった。
もちろんその食物によって効果はさまざまだし、寝ても体力や忍気は回復するんだけどね。
しかし、われながら5歳児とは思えない食欲だわ。
結構いっぱいあったウルルの実がもう残り少ないけど、転身機で作り出したこの腰に巻いたポーチに入れておけば保存はばっちり。
実はこのポーチ、冷凍冷蔵保存が可能な優れものなんだな。
それに、その隣にあるこのボトルには水を入れて保存できるから、超便利なの。
それにしてもホントこのエリア寒いなぁ。
魔物はさっきダニ団子につぶされたヤツだけなのかな?
私が周辺のエリアを探索していた時は、大抵エリア毎に魔物は群れて生活をしていた。
だからここにもさっきの魔物の群れがいると思っていたんだけど、この周りにはいないみたいだね。
ここなんか寒いけど比較的安全そうだし、少しだけ横になって休んでから次のエリアに向かおうかな。
よっこいしょっと。
ふぅ……はっ?
え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!
私が地面に横たわって岩の天井を見上げると、そこには岩々の隙間から私を見つめている無数の赤い瞳がこのエリアの天井を覆い尽くしていた。
……ないわ――。
これ、さっきあのダニ団子でつぶされた魔物と一緒よね?
赤い瞳それぞれにあの色が付いた2本のゲージが見えるし。
スマコさんや?
あれはなんぞ?
《アトラス・ブックアイス:アトラス大迷宮内に生息するチャタテムシという昆虫型の魔物。カビや汚れなどの不純物を好んで食べる。それにより、この魔物の生息地は自然と奇麗な環境が整い、高級な水と高級な果物が育つ。物理的な攻撃手段はあまりなく、氷属性の魔法を得意とする。個体の中には空間支配術を扱うものもおり、物理攻撃と炎属性に弱い》
いやいやいや、なんだよチャタテムシって。
聞いたこともないよ、そんな昆虫。
この世界に住んでいる虫なの?
《チャタテムシ:地球上、サクヤ様が住んでいた日本でも生息している体長1~2mm以下の微小昆虫であり、建屋内の壁の隙間や天井裏などに生息している。人の目では見つけにくいが、どこの建屋内にでも生息している可能性が高い昆虫。ちなみにサクヤ様の住宅の天井や壁の中には約数百匹ほど生存しておりました》
いやいや、そんな説明はいいから!
いきなりのカミングアウトとこの状況に恐怖が喧嘩しちゃってるから!
それに氷属性の魔法ってなによ!
アイツ魔法使いなわけ?!
てか、この世界は魔法なんてあるの?!
《氷魔法:特殊属性に位置付けられている珍しい魔法属性の一つ。あらゆる物質を氷結状態にすることができる非常に強力な魔法。魔法レベルに応じて効果は変動する》
いやいや、ないわ――。
このありえない数の魔物全部が魔法使いだっての?
魔法使いってさ、もっと美少女的な人たちがキラキラのステッキとか杖とかをぶん回したりするもんじゃないの?!
ムリムリムリムリ!
凶悪な魔物が魔法を使うなんて、そんなんもう敵うわけないじゃん。
早く逃げよ。
私はそう思い、足を動かそうとして……止めた。
なんかアイレンズ越しの映像が一部ダブって見える。
これってさ……もしかしてこれから起こることだったりする?!
《スマコ、アイレンズ、転身機の能力を合わせることにより『未来視』を可能にしました。あらゆる状況下において、アイレンズによるスキャン、転身機による感知、スマコによる解析により、「事」が起こる前のシミュレーション映像を投影できます》
マジか、これ凄いわ!
これから少し先に起こることが事前にわかるわけじゃん!
もしかして私って今、無敵じゃね?
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