100 かいせん
――それからまた数日後、その時はきた。
「敵襲! 敵襲!」
突然指令室に並べられた大量のモニターから異常を知らせる警報が鳴り響く。
「ついにきたわね……ブアイソ」
シュタッと妹っ子の背後に現れる。
「みんなを連れて来てちょうだい」
なにも言わずにその場から消えて、みんなを迎えに行く。
私は妹っ子たちよりも先に危険な気配を察知できていたから、事前に教職塔までやってきていたのだ。
ついにこの時がやってきた。
この世界での存続をかけた命がけの戦いが今始まろうとしているんだ。
私にとってもここで全てが決まると思う。
乙羽の命を守るため、そしてマイカがもう戦わなくてもいい世界にするために、今一度私は全力で暗躍するとしよう。
「……ということで、行くよ」
私は外で待っていたマイカを抱きかかえるのと同時に、ネコとあの4人に聞こえる信号を使ってそう口にした。
その後あの4人を分身体で拉致する。
「おわっ?! ビックリした……サクか」
「オンガッ?! 毎度思うねんけど、もうちょっとやさしくしてぇなぁ」
「ワタシ今お手洗いに……あぁ~ん、ワタシのパンツ~」
「ついにこの時が来たか……気合十分のヤツがここに約1名」
「おまえは全裸でなに言うてんねん! 服着てからカッコつけろや」
「着替え中だったのだ……心配するな、服は持ってきた。ミサキのパンツもある」
「あ、さすがホノカ~ありがとう~」
「どうしてホノカがミサキのパンツを持っているのかは聞かないでおこうか」
分身体たちに拉致されたうるさい4人が私とマイカもとへやってきたとほぼ同時に、ネコも姿を現した。
「アンタね……主語が抜けてんのよ。考えるのに3秒も使ったじゃない」
ネコにまで小言を言われてしまう私はとても可哀想だ。
全員が揃ったところで妹っ子のもとへと向かう。
「揃ったわね……状況報告」
「はっ! この領土全方を囲うように、今までに確認されていない魔物の軍勢が迫ってきております」
「その数……ざっと万単位です! 監視レーダーではさらに増え続けていることを確認しております」
「未確認の魔物? 特徴は?」
「黄色い体に赤い瞳をした魔物、腕が6本もある2補足歩行の巨大な魔物、それに背中にバズーカ砲を搭載している4足歩行の魔物などが確認されています!」
「いずれもデータベースには存在しません!」
「悪い方に考えるなら、おそらく下層付近にいる中級……いや、上級魔物かもね。おね……ポンコツ。さすがにこいつらと遭遇したことはないわよね?」
「あるよ」
「そう……やっぱりそう簡単には……はっ?!」
「あれはサクと一緒に旅をしていた時に戦った魔物だよね?」
私は静かに頷いた。
「確かサクが言うには、赤い瞳の魔物が「チャタテムシ」で、6本腕がある魔物が「ゴリラ」、背中にバズーカ砲を乗せている魔物が「カメ」って言っていたかな?」
「チャタテムシはようわからへんけど、ゴリラとカメは確かにそう見えへんこともないわ」
「アタシらの知るゴリラやカメとはかなり違いがあるけどな」
「あのカメ、ペットにほしいと思うやつがここに約1名」
「いらんわ」
「ならせめてゴリラの方でも……」
「だからいらん言うてんねん! 話が進まへんからおまえら黙っとけや!」
「……出し惜しみはなしよ。この日のために作り上げた対魔物撃退用長距離砲を用意しなさい!」
「はっ! 対魔物撃退用長距離砲、用意!」
「……撃て」
「てぇえええい!」
砦へ設置されていた新兵器から、強力な砲撃が魔物の軍勢めがけて撃ち込まれた。
豪快な爆発とともに大量の魔物が巻き上がり、やがてそれらは地面へ落下した後、起き上がることはなかった。
「魔物には通用しているようね。戦闘員は直ちにこの砲撃を全方向に展開しながら第三種戦闘配備につけ! 連合軍の名に懸けて、1匹残らず消滅させなさい」
「はっ!」
モニター越しに砦の頂上から大量の魔動兵器が姿を現し、それら手にしながら戦闘配備へと付いていく連合軍。
そして机に座っていた妹っ子は立ち上がり、私らの方を向く。
「……この場所はワタシたちが何としてでも死守する。アンタらは生きてこの場所に帰って来なさい。それが絶対条件の命令よ」
妹っ子の言葉に珍しく真剣な顔をするこの子たち。
アズサが妹っ子へ向けておもむろに手を伸ばすと、すかさずハズキ、ミサキ、ホノカが手を重ねる。
私とマイカも同時にその4人の手の上に自分の手を重ねた。
ついでだったから嫌がるネコの手も無理やり引っ張ってのせてやる。
びっくりした表情をした妹っ子が、一瞬だけ口元を緩ませて最後に全員の手の上に自分の両手を置いた。
一度だけ全員で頷き合った後、私たちは走り出す。
妹っ子は連合軍を指揮してこの場所を守るため、そして私らは別の場所で待っている四神獣や魔王、そして天使がいるその場所を目指して。
防壁を超えると、魔物の大群が迫ってきているのを目で確認することができた。
「そのまま行きなさい!」
その頼れる声を聞いた私らは、魔物の大群へ向けて思いっきり走り出した。
「火炎魔法、砲火爆裂!」
妹っ子のド派手な砲撃で魔物の大群の中に一本の道ができた。
私らはそこを目掛けて走り抜けようとしたけど、すぐに魔物が押し寄せてくる。
「アンタら遅い……乗れ」
走っていた4人をネコが背中にのせると急加速する。
私は背中にマイカを背負ったまま空中へと駆け上がり、そのスピードになんとか付いていく。
最近気が付いたけど、柔らかい地面を蹴るよりもこの固い壁を蹴る方が速く走れるのだ。
「ライゴウ」
ネコは自身を強力な電磁波の膜で覆い、そのまま魔物の大群を突き抜けていく。
ネコの電磁波に触れた魔物は瞬く間にその身を焼かれて灰にされている。
なにあれ、えぐいんだけど。
ないわぁ……。
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