098 ひわい
遅くなりました。
「な……な……なぁああ?!」
さっきからどうしたの?
その外れている顎は大丈夫?
「なんで……なんでウ……ウラシス様?! だってあなたはあの時……」
《あ、私という存在は間違いなく消滅していますよ。ただこの力だけがこの子に受け継がれているだけなので》
「え……でも……え?」
《まぁこれには深い理由があるのですよ。こうやって会話ができているのはたまたまなのです。うれしいですか?》
「う……うれしくなんかないもん! 勝手に置いていったくせに!」
急に子どもっぽく泣き出しやがった?!
《私は結構うれしかったですけどね。迷宮で久しぶりにあなたとじゃれ合って》
「あ、あれメッチャ痛かったんですからね! 折られた爪もなかなか戻らなかったし! あなたはいつもじゃれ合うなんていいながら無表情でワタシを殺そうとするのをやめてくださいよ!」
黙って会話を聞いていると白虎……このネコが少しだけ気の毒に思えてきたわ。
ねぇネコ、アンタまだ動けないの?
「誰がネコだ! ワタシは誇り高き白虎だ! まだ動けない!」
《嘘ですね。もう動けるくらいには回復しているはずですよ、サクヤちゃん》
そうだろうと思ったよ。
私まだ無理だから背中乗せてってよ。
《いいですよ》
「どうしてあなたが答えるんですか! いやですよ! ワタシだって疲れているんですから」
《私の好きだったあの誇り高き猫ちゃんはどこに行ってしまったのでしょうか……》
「す、すき……し、しかたがないですねぇ。今回だけですよ?」
ちょろいわね。
《はい。昔からこの子はちょろいのですよ》
「な、なにか話していませんか? 今一瞬会話が途切れましたけど?」
なるほど、こうやって会話を制限したらいいわけね……。
なんでもないわよ。
はやくのせてよ、そろそろ背中が痛い。
《そうよそうよ》
「この……はぁ、本当にウラシス様が2人いるみたいだわ」
それから戸惑いまくっているマイカと一緒に白虎の背中へと乗り、私らはみんなのもとへと向かった。
途中でマイカが妹っ子に連絡してくれていたから、学園寮でみんなが待ってくれていた。
部屋へと私らを運んだ白虎はすぐに立ち去ろうとしている。
「じゃあね」
どこ行くの?
「別にどこでもいいでしょ」
ここにいればいいじゃない。
「……」
白虎はプイッとそっぽを向くとそのまま部屋の中で伏せて寝てしまった。
「これは……味方と思っていいのかしら?」
「いいと思うで、先生!」
「あぁ、焼き鳥とヘビからアタシらを守ってくれていたし」
「白虎がいなかったら自分たちも含め、ここは壊滅させられていたと言いたいヤツがここに約1名」
「そう……アンタらの話はまったく信じられなかったけど、こうして実物を見ると信じるほかないようね」
「あ、今のひっでぇ」
「まったく信用されていないヤツらがここに約4名」
「それよりもあれは大丈夫なんか?」
「絶対に白虎をペット扱いしているよなあれ……」
「ミサキ、さすがにリボンを付けるのは怒られると思うぞ?」
「まぁいいわ。ワタシはとりあえず本部に戻るから、アンタらは体を休めなさい」
妹っ子はそういうと教職塔へ向けて歩き出した。
よく働く子だよ……あの子自身も相当疲れているだろうに。
体のダメージは、まぁあのくらいなら大丈夫かな。
無理しないといいけど。
でもあの子は今の方がとてもイキイキとしている。
自分の居場所をちゃんと見つけることができたんだね。
アイレンズ越しに見る妹っ子の頼もしい背中を見ながら私はそう思った。
「サク……ボロボロ、お風呂いこ? 洗ってあげるから」
「……ぅん」
「アンタ……その子とは会話するのね」
この子は……特別なのよ。
「ふん……別にどうでもいいけど」
なんで不機嫌になるの?
ネコとの方が普通に会話していると思うんだけど。
《猫ちゃんは時々こういう時があるのですよ》
ネコには聞こえない電子パルスの信号でスマコと会話する。
もともと桜飾の通信やスマコ、白虎との会話はこの電子パルスで行っていた。
スマコはその信号を変えて私と話していただけだから、信号を別のものにしてあげれば2人だけの会話も可能というわけ。
まぁチャンネルの切り替えみたいなものね。
ところでマイカさん……2人でお風呂のはずじゃなかったの?
どうして大浴場に連れてこられているのかな?
私まだあまり動けないから抵抗もできないんだけど?
あれ、これまずくね?
「フッフッフッフ、サクはまだ動けないんだって?」
「ハッハッハッハ、さてどう料理してやろうか」
やっぱり出やがったなこいつら……クソ、まだ動けん。
卑猥な指の動きをさせた4人が、ニヤニヤしながら近づいてくる。
《ワクワク》
いらん効果音自分で言うなし。
それよりも困った、今にもひ弱な裸体の私がイジクリまわされそうだ。
一体なにをされようとしているのか想像もつかないけれど、絶対にろくなことではないはず。
私はマイカの体にしがみつく。
「ダ、ダメですよ! サクの面倒はアタシだけがみるのです! おさわり禁止です! 見るのも禁止です!」
「ちょっとくらい、いいじゃねぇか」
「ほんのひと触り、いや、ほんのひと抓りでもかまへんで」
「自分は遠くから眺めているだけでも鼻血を出せると自信のあるやつがここに約1名」
「アズサちゃん流、アクアシャワー!」
「「「ウギャアアア?!」」」
「冷たいわボケ!」
「なにすんだコラ!」
「サク、あぶな……あっ……ぅぎゃん?!」
シーン。
ないわぁ……。
おそらく自分では気が付いていないんだろうけど、必死にミサキの冷水シャワーから私を守ろうとしたマイカは、足を滑らせて壮大にズッコケて大事な部分をみんなにさらけ出してしまっている。
私は今、体に力が入らないからいつもみたいに支えることができず、そのままマイカの裸体の下敷きにされたことで、みんなの視線からは隠されたのだった。
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