094 わたしはしれいかん
前話093の表記を少し修正しました。7/28
封印は四神獣と天使が持っている残り合計4つ。
メイナ視点です。
ブアイソたちと別れたワタシらが、砦周辺の警戒を厳重にしていたらすぐに動きがあった。
ワタシの予想通りに魔物の軍勢が押し寄せて来ていたのだ。
それは今までと比べ物にならないほどの数。
多分こちら側の最強戦力であるお姉ちゃんとブアイソの2人をあっちに引き付けておいて、こっちは魔物で一気に攻め込むという作戦なんでしょう。
だけど、それはこっちもわかっていたこと。
ワタシは1人、元国王の城だった場所の天辺に立ちそれぞれに指示を出して兵を動かしている。
作戦本部の教職塔にいるよりも、ここから直接見た方が戦況の把握がしやすい。
なにせ、国の全方向を見ることができるからだ。
この場所を最初に教えやがったのはあのブアイソがきっかけ。
アイツ本当に何者なのよ……マジで不気味。
不気味なくせに初めて見せた素顔が可愛くてマジでムカつく!
お姉ちゃんにはまだまだ程遠いけど、その次くらいには可愛いと認めてあげるわ。
ワタシはここ最近、自分の在り方について迷っていた。
力がこの国の中ではトップレベルでも、あの4人よりも下。
さらにいえばあの憎きブアイソよりもお姉ちゃんよりも格下。
なにもかもが中途半端なワタシという人間。
それに加えて、決して許されない父親の裏切り。
今や世界の頂点にいたカミキ家はなく、一時期は裏切り者の家系として人から白い目で見られもした。
ワタシはこの世界で生きている意味があるのかと本当に悩んでいたのだ。
でもそんなワタシの背中を押してくれたのはあのブアイソだった。
あれだけいつもアイツを殺そうとしていたというのに、ワタシが本気で悩んでいる時にフッと背中を押しやがる。
全く以て気に入らない!
ブアイソのくせに!
ワタシのお姉ちゃんに好かれているアイツが大嫌い!
みんなに信頼されているアイツが大っ嫌い!
だけど……感謝している。
アイツのおかげで、嫌われ者のワタシが今ここに立っている。
この世界に生きる人たちを守りたいというワタシの想いを活かすことができる。
今こそワタシたち人間の底力を見せる時だと思うから。
「アズサ、そっちの部隊はもう任せていいからハズキの方に回りなさい!」
「了解、先生!」
「ハズキ、そこの固定式長距離砲の使用を許可するわ。全力でブチかましなさい!」
「はいな、先生!」
「ホノカ、ハズキがそれをぶっ放したら戦況が大きく変わるわ。魔族軍の長距離魔法で追撃を用意させて!」
「任された、先生! と気合を入れるヤツが……」
「コラ、ミサキ! アンタもそこは任せていいから北側に走りなさい! 全力よ!」
「しょ、しょんなぁ~ワタシだけさっきから走りっぱなしで死んでしまいますよ~」
状況はまぁまぁ。
本当ならワタシも戦闘に付きたいところなんだけど、軍隊を率いる以上はこうやって戦況を把握して指示を出す人が必要なのよ。
ここはぐっと我慢して見守ることしかできない。
それは連合軍の人たちみんなに言われたことだ。
「自分たちがきっちりあなたの指示で動きます! だから、あなたは自分たちに指示をください!」
全員でそうお願いされてしまったら、それに従うしかなくなる。
今では昔と違ってみんなに好かれたいと思わなくなっていた。
建前なしで、自分が思うことをそのまま口にしているだけ。
それなのになぜかここの人たちはワタシを頼ってくれる。
ありがとうと感謝されてしまう。
それはやっぱり……うれしかった。
だからワタシは全力で自分にできる最大限のことをやる。
たとえ力がなくても、知恵がある。
それに応えてくれる仲間たちがいる。
ワタシはそんなひとたちを守りたいと強く思っている。
お姉ちゃん、ブアイソ……こっちはみんなの力でなんとかしてみせる。
だからちゃんと無事に帰ってきなさいよ。
ワタシがそう思って南の方角を見ていたその瞬間、一際大きな爆発音が起こった。
一体なにごと?!
すぐに音がした方を振り返ると、北側の砦の一部で大きな爆発が起こっていた。
煙や土埃が舞い上がり、状況を確認できない。
魔族の人たちによる強力な魔法障壁も問題なく機能していたはず。
それなのにこの爆風や砂埃が国の中側まで届いているということは、それを貫通した攻撃を受けたということだろう。
待って!
北にはワタシの指示でミサキが……
「ミサキ! 無事なの?! 返事しなさい! ミサキ!」
返事がない……まさか……いやよ!
ワタシが指示したばかりにあの子が……
「ふぇ~ん! 頭打ったよ~痛いよ~」
聞こえてきたミサキの声に心底ホッとする。
「ミサキ?! 無事なのね?」
「無事じゃないですよ~! いきなり爆発するし、瓦礫がふってきて頭打つし、散々ですよ~!」
ミサキがそう返事していた頃には砂埃が収まり、視界が開けてきた。
その砦の壁の一部は奇麗に消滅しており、その部分だけが外側にさらされている状態になっている。
そこで戦っていた、たくさんの兵士たちは残念ながら跡形もない。
ワタシが指示したせいで……と反省している暇があったら頭を回せ!
まだ戦いは終わっていないのよ!
めげるな!
前を向け!
今のワタシは……この国を守るための最高司令官だ!
幸いにもミサキが広範囲の大地魔法を発動していて、たくさんの兵士たちが瓦礫などから守られていた。
「ミサキ、今直ぐに魔法で壁を作り直しなさい! 魔物が入り込んでくるわ!」
「さすがにもう魔力切れですよ~! 今の全力でも元の3分の1くらいしか修復できましぇ~ん!」
「わかった、それでいいから早くやり……あれは、なに?」
「先生?! どうしたんですか~?!」
「ミサキ! 全員そこから今すぐ逃げなさい! 早く!」
ワタシは思わずそう叫んでいた。
壁の奥から見えたもの……それは存在していることがありえない伝説上の生物。
燃え盛るような赤い体と、その巨大な翼に炎をまとっている巨鳥。
それと、青く長い胴体で優雅に空を泳いでいる龍。
それは伝説上の生き物とされてきた四神獣、朱雀と青龍の2匹だった。
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