089 さくらふぶき
勇者と魔王がいない今、代わりに指揮を執っていたのは魔動兵団の軍隊長たちと魔族軍の幹部たち。
それらが集結しているのはあの教職塔の中。
ここでは各国の様々な情報が入るようになっており、現在でも作戦基地として使われているのだ。
私らは、ズカズカとその中に入り込み。
上層部の会議中に飛び込んだ。
「なにごとだ! 今は大事な会議中だぞ?! なっ……おまえたちは」
「そちらの方々は?」
「この者たちは、この学園の生徒で……」
「おまえたちはあの魔王の側近ども! おのれノコノコと現れよって!」
一人の魔族軍の人がミサキとホノカに向けて魔法を発動しようとしたのを、ミサキとホノカ以外の全員で止める。
私は一瞬で喉元に手裏剣を突き付け、マイカと妹っ子は両脇から拳銃、アズサは背後から剣、ハズキは眼前に拳を突き付けた。
「なっ?! お、おまえたち……なんのつもりだ?」
「それはこちらのセリフですが?」
「一体なんのおつもりですの?」
「ひ、ひぃいい……」
その魔族の人は腰を抜かしてしまった。
シーンと静まり返る室内。
その静寂をぶち壊したのは妹っ子だった。
「はぁ~、アンタら加齢臭臭いおっさんらが揃いも揃ってバカの集まりなわけ? 今がどんな状況かわかっているんでしょ?」
いきなりひどい罵倒が始まったよ?!
これ大丈夫?!
今ここにいるおじさまたち全員に突き刺さったよ?!
「か、加齢臭……」
「も、もちろんだ! 一刻も早く打開策を見つけなければ、我々は全て魔物に滅ぼされてしまう」
「我々は? はぁ? この期に及んで己の心配? そんなバカが連合軍の幹部なわけ? アンタ死ねばぁ? ここの2人を責めるより、まずやるべきことがあるでしょうが!」
死ねは言い過ぎです!
そろそろその辺でやめてあげて……おじさんたち涙目じゃないのよ。
「そ、それはこいつが勝手に……」
「おい! ワタシだけの責任にするつもりか!」
まぁよくある大人たちの責任のなすりつけ合いね。
全く……私の嫌いな人間らしくなってきたじゃない。
「うるさいってのよこのクズどもが! 全然状況がわかっていないじゃない! 今にも魔物に殺されそうな人たちがたくさんいるのよ?! それをまず救うのが最優先事項でしょうが!」
「し、しかし我々連合軍だけの力では、今ここに向かっている魔物の軍勢を相手にすることは不可能です」
1人のおっさんが指さすたくさんのモニターには、魔物が大量に押し寄せてきているのが映っている。
どうやらこの国の外側を映している様子らしい。
「それならもう大丈夫よ。コラ、ブアイソ!」
ビクッ?!
はいっ?!
いきなりそこで私に振る?!
「アンタ、あれどうにかしなさい!」
はぁ?!
いきなりすんげぇ命令出してきたよ?!
「アンタの戦闘、なん回も見てんだからね? あれ全部、爆発させなさい」
うわぁ……この子よく他人のことを見ているんだ。
普段なら誰も気が付かないようなところまでしっかりと。
まぁ、私が言い出した手前ここはなんとかしますかね。
「高い……」
「高い? ……ポンコツ、通訳!」
「この国で一番高い場所に行きたいみたいだよ!」
「いや、だからなんでわかんねん」
私らはすぐ近くにあったこの国で一番高い建物である、国王の城の屋上までやってきた。
「ここで一体なにを……」
「もう魔物が直視できるほどに迫っております!」
「このままでは……」
「キモいおっさんどもが、みっともなくうろたえるんじゃないわよ! ブアイソを信用しなさい」
おろ?
なんか信用されているっぽいぞ?
てっきり嫌われていると思っていたんだけどな。
それなら私も少し、頑張っちゃおうかな!
「舞い上がれ桜……『忍法、桜華乱舞の術』」
私は印を結び、透明にして国中にバラまいていた桜の花びらたちを一斉に舞い上がらせた。
すると、辺り一面を桜の花びら一色に染め上げる。
「わぁあ! サクの花がいっぱい!」
「す、すげぇ……桜だ」
「アカン、これは乙女として……ヤバいなぁ」
「と、とても綺麗であると感動しているヤツがここに1名」
「お菓子とジュースもらってこよ~っと!」
「花見する気満々かいな! ちょっと待てやミサキ!」
日本でも見たことがないほどの桜吹雪かな。
さすがの私もこの数の花びらは初めてだったわ。
ここにいる人たちだけじゃなく、国中の人たちがこの桜を見ているみたい。
私は国を囲うよう外側の広野に、その全ての花びらたちを散らせる。
そこへ魔物がやってきた。
「舞い散れ桜……『忍気忍法、桜華爆裂の術』」
私は忍気をフルバースト状態で開放し、花びらを爆発させた。
すると、この国の外側で大量の魔物たち全てを巻き込んで大爆発を起こした。
遅れて爆発音と衝撃波がやってくる。
ふぅ、さすがの妹っ子もこれで満足でしょ。
あら?
目元と口元がピクピクしているのはなんで?
なんか私間違った?!
そう思ってチラッと他の人を見てみる。
マイカは目をキラキラさせて抱き着いてきた。
アズサとハズキ、ホノカは顎が外れそうなほどに口が開いている。
大丈夫かな?
ミサキは今戻ってきて、「お菓子もらってきたよ~あれ? 桜は?」と言っていた。
これはどう捉えたらいいのだろう。
「ふん……まぁまぁね」
うん、まぁまぁらしいです。
「これでとりあえずの危険は去ったわね。次は……コラ、ミサキ!」
「ひゃいっ?!」
「アンタの大地魔法でこの国の領土を木の根で囲いなさい」
「こ、この国の領土……全部ですか?」
「そうよ、アンタならできるでしょ? 知っているわよ?」
「あ、あれぇ~なんかおなか痛くなってきちゃったかも~」
「あぁん? そう……それならワタシが一発癒やしの鉄拳をぶち込んであげるわ。それで治るでしょ?」
「あぁ~ん、この人怖い~!」
「お、鬼やなぁ……」
「なんか前世の部活顧問を思い出しているヤツがここに約1名」
「確かにっ! 雰囲気全く一緒だわ!」
「そやからミサキが怖がっとるんかぁ……あいつ苦手やったもんなぁ、あの鬼監督」
泣きべそをかきながらもミサキは言われた通りにこの国を円状に囲うように木の根を張り、高い壁を作っていく。
これにも人々から歓声が上がっていた。
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