088 てきにんしゃ
各所にある桜飾からいろんな音を収集して情報をかき集めた私。
すると、四災岳が突然消滅してそこから魔物があふれ出し、各国が壊滅状態だという。
それは人族全土に限らず、魔族領土でも同じことだったようだ。
ただ、魔族の人たちに関しては避難用の空飛ぶ船を用意していたようで、それを使ってこの人族領土へと向かってきている最中らしい。
魔族の人たちが魔族専用の通信機で話している内容を聞いたからそれは間違いない。
向こう側は、人族と魔族を殺し合わせるという目的が果たせなくなった今、アトラス大迷宮内の魔物たちを解き放って殺戮させるという作戦に切り替えてきやがった。
鬼畜!
こんなん、ひ弱な人間たちはどうすることもできないじゃん。
ふざけんな!
その状況は今この国を取りまとめているトップたちの耳にも入っている。
この学園にある教職塔は、もともと各国の様々な情報が入ってくる魔動兵団幹部たちの作戦本部だった場所。
元勇者だったおっさんがいない今でも、そこを拠点にいろいろな会議が行われ、各国に指示を飛ばしていたのだ。
それをやっているのは、魔動兵団の幹部と魔族軍の幹部たち。
今ではお互いに協力をし合って助け合おうという動きから連合軍が結成されていた。
それらが会議をしている教職塔に桜飾を忍ばせておけば、大体の情報が入手できる。
また、ここ数日ダラダラ寝転んで過ごしていた間にも桜飾を作り続け、この国のいたるところにバラまき続けていたのだった。
今ではこの私に情報量で勝つことはできないと思う。
そして今、魔物の軍勢がこの国に迫っていて、一刻の猶予もないと言った状況だというのに、ノンキにいつまでも会議を続けている幹部たち。
全くつかえねぇ……さて、どうしたものか。
一応まばらに国中を連合軍の人らが警備をしているけど、あまり連携も取れていないし何より人数が少ない。
防御態勢が整っていないこの国もあっという間に他国と同じようになるだろう。
まぁ不幸中の幸いなのが、他国も壊滅状態だと言いながらまだ結構な生き残りがいるということ。
おそらくそれは人族と魔族を均一に殺さないと封印の力が強まらないという謎の理由があるからだろうね。
魔物が一方的に殺戮を繰り返しているわけじゃないから、明らかに行動を操られているようね。
つまり向こう側としてはいつでも人族と魔族を殺戮できる体制ができているわけよ。
でも逆に考えれば向こう側も切羽詰まっている状態だと捉えられる。
これは向こう側としての最終手段だと思うからね。
だから、これを乗り越えればなんとかなるかもしれない。
でもどうする?!
こっちが不利なのは変わらない……。
魔物相手はこちら側が不利過ぎる。
それほどまでにこの世界の人たちは弱い。
私が1人で頭を抱えていると、マイカたちが声をかけてくる。
「サク、なにが起こっているのかわかるの?」
「……山……消えた……魔物……国……壊滅」
「全くわからへん……」
「四災岳が消滅して、そこから魔物があふれ出して、国が壊滅状態なの?! それは大変だよ! すぐ助けに行かなきゃ!」
「いや、なんでわかんねん!」
「実際それが本当ならマジで大変なことだぞ! 連合軍はなにやってんだ?!」
「……くる」
「ここにもその魔物が向かって来ているの?!」
「マジかいな! 他の国にも応援に行きたいねんけど……どうしたらええねん」
「まずは連合軍のトップに話を付けるのがいいと思うやつがここに約1名」
「そうだな! それに賛成だ!」
「おまえはいつまで寝てんねんミサキ! はよ行くで!」
「すぴぃ……すぴぃ……」
私らは全員で教職塔へと急ぐ。
魔族に残されていた避難用の船、それは間違いなく魔王の罠。
そんな都合よく全員が乗れる船が残っているとも思えないし、わざとこちら側に集結させて一網打尽にする気なんだろう。
《そうでしょうね。しかし、バラバラではこちらも守れません。むしろ一緒にいた方が守りやすいので、わざとこの罠にハマって差し上げましょう》
確かにそうかもね。
この国に人間たち全部を集めて、守りながら戦い抜く。
でもどうやって?!
いくら私やマイカでもこの国中を守ることなんてできないよ?!
《それは適任者にお任せしましょう》
適任者って?!
《マイカちゃんのお隣にいるではありませんか》
え?!
それって大丈夫なの?!
いくらスマコの言うことでも、絶対に上手くいかないと思うんだけど……。
《ふふふ、さぁサクヤちゃん頑張ってください》
まじですかぁ……しょうがないなぁ。
「妹っ子」
「……はっ?! 今ワタシに話し掛けたわけ? ポンコツにじゃなくて、ワタシに?! 突然なに?! 今から天変地異でも起こるの?!」
いや、失礼!
確かに天変地異が起っちゃっているけどさ……。
私が言いたいことをほとんどマイカが補足してくれながら妹っ子に伝えていく。
というか、私が喋っても伝えたいことが全く伝わらないわけよ。
マイカはわかってくれるのに……。
《それは言葉が少な過ぎるからですよ、サクヤちゃん》
「はぁ?! その指揮をワタシに取れっていうわけ? アンタバカァ? ワタシの言うことなんて誰も聞くはずがないじゃないのよ! あの勇者の娘なのよ?」
確かにその通りだ。
今民衆は今ぶつけようのない怒りを勇者と魔王に向けている。
その娘である妹っ子が先頭に立つことなんて誰も納得しないと……私もそう思っていた。
しかし、スマコの目論見通りに妹っ子はそれを覆すことになる。
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