085 おもいのこうさ
アズサ視点です。
ミサキとホノカはお互いに励まし合いながら苦痛だけの毎日を過ごした。
アタシとハズキの命を守るという、それだけのために。
それから数年後にやっとその貴族の家を離れて魔王城で働くことを許された。
城での生活は、それまで感じていた苦痛はなかったようだ。
魔族軍という立ち位置で魔法訓練や勉強などを受け、まるで学校のような場所だったらしい。
ただしそれは日常だけの話であって、裏では魔王から直接使徒としての命令を下されて強制的に働かされていた。
任務の一環で長期間アトラス大迷宮内でも生活をさせられたらしいけど、そこで初めてアタシらと遭遇したらしい。
その前にマイカとサクに合っていたけど、まさかそれがオトハとサクヤだとは思っていなかったらしい。
その時は初めて遭遇した人族に戸惑いはあったようだ。
それはお互いに殺し合うという運命にあるはずの人族が、牙を向けてこなかったから。
ただ、その時に感じた2人の異常な強さだけは印象に残っていたようだ。
そして、アタシら2人とも奇跡の再会を果たす。
わざと魔族を罠にハメてアトラス大迷宮の魔物に襲わせるという使徒の使命を実行していた時に、たまたまアタシらと遭遇してしまった。
姿形が違っていてもすぐに2人はアタシらだと気が付いた。
2人の地獄のような日々とは違い、恵まれた環境の中でぬくぬくと育ったアタシらを見たミサキは……泣いて喜んだそうだ。
それまでは一切ふざけることもなく、シリアスな雰囲気だったミサキが初めて泣いて、ふざけて喜んだそうだ。
「そん……な」
アタシらはそれを聞いて言葉を失った。
気が付いたら頬を涙が伝っている。
「あの後……魔族を逃がした自分たちは、2人が戦う様子を見ていた。危なかったら助けるつもりだったからね……でも2人はやりきった。それを一番喜んでいたのは、ミサキなんだよ?」
「……」
「さっきもオトハ氏とサクヤ氏を見殺しなんてしたくなかった……でもあの2人は正直自分たちより遥かに強い。しかも魔王はあの2人をターゲットにしていた。なら目の前で倒れて殺されようとしていたおまえたち2人を……救いたいと願うミサキは、間違いなのか?」
「……」
「それでもあの2人を見殺しにしたという事実にはなるのかもしれない……それはずっと傍で魔王の強さを見てきた自分たちが一番わかっている。唇をかんで血を流しながらもその事実を背負おうとしているミサキを……どうか責めないであげてよ……」
泣きながらそう言うホノカに、なにも言えなかった。
アタシはミサキの気持ちも考えないで感情のままに怒鳴ってしまった。
取返しのつかないことをしてしまったと思う。
なにもわかっていないのはアタシの方だった。
そんな自分自身にとても腹が立つ。
まさかミサキがここまで大切に想ってくれているなんて思わなかった。
いつもふざけて悪ノリばかりして、突拍子もないことをいきなりやらかして怒られて……その後に4人でバカ笑いして……楽しかった。
ミサキに謝りたい……。
「アズサ……行こう」
ハズキが涙だらけのくしゃくしゃ笑顔で手を差し伸べる。
「……あぁ。ホノカ、ありがとう」
アタシはハズキの手を取り、ホノカの体を抱きながら一緒に立ち上がった。
そして、ミサキが走り去った場所へと向かう。
しかし、そこにミサキはいなかった。
「まさか……」
多分みんなが同時に同じことを思ったことだろう。
「あのバカ……」
アタシらは全力で走り出す。
体がまだ少し痛いけど、こんなものミサキが感じている痛みに比べたらヘでもない。
「アズサがあんな怖い顔するからやで?」
「う……わかってるよ……ちゃんと謝らせろっての……」
「しかしどうする? ギアメタルなしじゃウチら戦えへんで?」
「あの魔王と同等に戦えるのは勇者のみであると思うやつがここに約1名」
「お、ホノカがいつもの口調に戻ったな。確かに……あいつ嫌いだけど、魔王の相手は勇者に決まってるもんな」
「決まってるんか?! まぁ他に手はないもんなぁ……あのおっさんどこにおんねん!」
「いた……」
「はっ?!」
ホノカの言葉にアタシとハズキは立ち止まる。
ホノカが見つめるその方向には、一人で仁王立ちしているおっさんの姿があった。
アタシらはそこへ駆け寄って、この世界の言葉で話しかける。
「カミキ様! あちらの方に魔族の王、魔王がいます!」
「今マイカちゃんとサクちゃんが戦っておりますの! 早く手を貸してほしいですの!」
おっさんは一点を見つめたまま微動だにしない。
思わずアタシは声を荒らげる。
「カミキ様!」
「……マイカが……死んでしまった……」
「え……」
おっさんの言葉に心臓が締め付けられる。
間に合わなかった……のか?
いや、信じない!
アタシは再び走り出した。
「アズサ、待つんや!」
「アズサ!」
2人も後を追って来る。
しばらく走り続けるとさっきの場所まで戻ってきていた。
そしてアタシが目にしたのは、地面に横たわるマイカとその場に声を出しながら泣き崩れているミサキ、それと生気を失って座り込んでいる前世と全く同じ姿のサクヤだった。
「そん……な」
間に合わなかった。
それが事実なのだとこの目で確認してしまった。
気が付いたらアタシらもマイカを囲んでその場に膝から崩れ落ちていた。
「マ、マイカ? おい、冗談だろ? 目を開けろよ、な? お願いだからよ……」
「アズサ……」
「クソやろうが……自分で死にやがったか」
声のした方を見ると片腕の魔王が立っていた。
こいつが殺したんじゃない?
自分で死んだ?
わけがわからない。
「まぁいい……おまえらも全員殺して、それで終わりだ」
発動された風の魔法。
誰もそれには見向きもしない。
そんなアタシら全員に風の刃が迫った瞬間、それをバチッと電撃が弾き飛ばした。
魔王とアタシらとの間に忽然と姿を現したのは、このルドラルガの守り神で四神獣の1匹である白虎だった。
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