010 だにだんご
天井を蜘蛛みたいに……ではなく、忍者みたいに移動しながら必死にダニの体液から逃げ回っている私。
こっちは制限時間付なのに、アイツってばMPゲージが少し減るくらいでガンガン体液放出してくるんだもんなぁ。
マジで勘弁してほしい。
一回の放出ごとに少しタイムラグがあるから、今のところなんとかなってはいるんだけど、天井まであちこちドロドロネバネバの体液だらけになってしまった。
あれに捕っちゃうと一巻の終わりだ。
動けなくなったか弱い私に、その気持ち悪い体液を集中砲火で粘液まみれにしたあげく、好き放題にむさぼり食われてしまうに違いないわ。
なにそれ、マジでキモイ。
それにあいつさ、あの体液で自分の体中までベトベトにしてんのよ。
ありえなくない?
その辺の石を全力で投げつけてやったのに、体にあたった瞬間「ベチョッ」って……。
当然HPもたいして減ってないからアイツなりの防護服みたいなもんなんだろうけどさ。
マジ萎えるわぁ。
うおっと?!
あっぶな――。
もう逃げられる範囲がかなり限られてきてるわ。
こうなったらやるしかない!
『忍法、桜華乱舞の術』
私は天井にぶら下がったまま、忍気の発動時と同じように、忍者独特のポーズを取ってヘアピンの桜飾を起動させた。
そして、ヘアピンに付いている桜の花が回転を始めたと同時に桜の花びらを次々に放出していき、あっという間にダニがいた周辺の地面を大量の桜の花びらが覆い尽くしていく。
ちょっと出し過ぎちゃった?
ダニが花びらの中に埋もれてごそごそと、うごめいているけど……まぁいいか。
忍気を発動させた状態で、右手のひらをそのダニの方向へ向け、拳を握りながら心の中で念じる。
「忍気忍法、桜華爆裂の術」
すると、地面を覆っていた桜の花びらたちは、そこへ埋もれていたダニを巻き込む形で、たちまちピンク色の光を放ちながら爆発を起こした。
お、おぉ……跡形もねぇ。
威力強すぎだよ、マジで。
もう少し近かったら爆発に巻き込まれていたかもしれないね。
今度は気を付けなきゃだ。
一応、爆発させる花びらは指定もできるから、ダニが埋もれていた周辺だけを爆発させている。
それにより、爆発による爆音や爆風、熱風などを大量の花びらが受け止めて舞い上がり、それらを最小限に抑え込んでいたのだ。
よっと、やっぱり地面は落ち着くね。
しかしいきなり危なかったなぁ。
最初からこんなんで私やっていけるのかな?
だんだん自信がなくなってきたよぉ……。
それよりも早くここから逃げなきゃだね。
ダニの大群がすぐそこまで近づいてる!
一匹でも大変なのに、こんな数相手できるかってのよ。
さて、逃げ道はあるかな?
私が登って来た通路側はもう他のダニが迫って来てるね。
となると奥に進むしかないから行くけど……ここら一帯もひたすらダニの体液だらけ。
マジで夢にまで出てきそうだから勘弁してほしい。
あ、こっから先はまた下り道なのよねぇ。
ん?!
あ、あれ?!
ちょ、ちょっと待って?!
なんで地鳴りがしてんの?!
なんで天井が崩れそうなの?!
《先ほどの大規模な爆発の衝撃派が地盤を揺らし、通路が崩れかかっております》
う、うそぉおお?!
誰だよ、そんなアホなことしたヤツはっ!
今すぐ出てこいっ!
《親愛なる我主、サクヤ様にございます》
それはどうもありがとね!
あ…………ぎゃあああああああ?!
崩れたぁああああ!
ヤバいヤバいヤバい!
今度は土砂に飲まれて窒息死なんてシャレにならん。
それはマジで勘弁してよぉおおお!
ち、ちょっと、ストップストップ!
ストップだってばぁああ!
あんぎゃあああああああああ?!
うわっぷ……土砂の流れが……止まん……ない。
大量の土砂と一緒に奥の通路へと流されていく私。
このままじゃマジで埋もれちゃう。
なにか方法は……て、おうっ?!
な、なにこの巨大な団子みたいな土砂の塊?!
これに魔物と一緒で2本のゲージが見えるんだけど?
え、まさかこいつ、ダニ?!
なんでそんな巨大団子みたいな姿になっているわけ?
あぁ、自分の体液に土砂がくっ付いて団子みたいに丸まってるんだ!
これに乗ればよくね?
忍気発動、3スロットル!
よっと、この転がってる団子の上に乗ってみたけど、思ったりもこいつ回転が早いわ!
私が乗ったのもあるけど、土砂の流れよりも早く転がり始めたじゃん。
あぁぁ、止まんないよぉおおお!
ん?
この先は……なんか広いエリアになってるじゃん!
チャ――ンス!
なんか魔物がいる気配もするけど、とりあえずそのエリアに入ったらすぐにこの団子から飛び降りよう。
よし、通路の入り口だ!
よっと、あばよダニ団子!
アンタのおかげで命は助かったけど、お願いだからもう目の前に現れないでね。
えっ?
なんか転がるダニ団子の先に変な魔物がいた!
ダニと同じくらいの大きさの、アリみたいなフォルムをした魔物。
つぶらな赤い瞳で顔だけみたら愛嬌があるように、見えなくもないこともないこともないけど。
アンタそんなところにいたら……あ、グシャ。
魔物がダニ団子に容赦なくつぶされたと同時に、その2つのHPゲージがなくなった。
哀れな魔物さん。
まぁ、私を恨まないでくれたまえよ。
たまたまそこにいた君も運がなかったんだ。
それにしてもなんかここ……寒くね?
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