A27 大切なもの
別ルート編です。
救急室を出ると、私らが座っていたベンチでサクが横になっていた。
「この子はいつもアタクシの大切なものを守ってくれます……アタクシはこの子に何を返したらいいのでしょう……」
眠ったサクを優しく抱きかかえながらそんなことを言うマイカ。
「やはりサクちゃんがメイナ様をお救いしたのですの?」
「はい。アタクシがなにも考えずにお願いしたばかりに……また無理をしたのだと思うのです」
「そうだったのですか……やっぱり優しい方ですね」
「はい……アタクシはこの子に甘えてばかりなのです」
マイカの部屋へと戻り、ベッドへサクを寝かす。
サクが起きるまで話を続けていた。
そこからマイカのサク愛が爆発して、終いには寝ているサクを抱きしめ出してしまった。
するとその瞬間にサクが目を覚ました。
……本当にこの2人は。
一体アタシらに何を見せつけてくれているんだろうか。
こっちが恥ずかしくなるわ。
まぁだからこそ懐かしくて落ち着くんだけどな。
それからアタシらはギアバトル闘技大会を順調に勝ち進めていく。
そしてついに待ち望んでいた瞬間を迎える。
今日はアタシらマキシム学園とあの魔族の子らの学園、センテロス学園との決勝戦を迎えた。
いつも通りの選手紹介が始まる。
「なんと、ここまでたった2人だけで勝ち上がって参りました、圧倒的な強さを誇るセンテロス学園のブリブロ選手とダルダン選手のお2人です」
「対して、こちらは選手全員が圧倒的な……」
「ブリブロにダルダン……間違いありませんね」
「はい……慎重にいきますの」
「えぇ、確かめましょう!」
そう、この戦いでしっかりと白黒をつける。
あの子らの目的とその正体を。
と、折角盛り上がってきたところでいきなりデモンストレーションが始まりやがった。
なんかこの国の国王とかいうデブのおっさんが饒舌にしゃべり出した。
そいつが指さす方向を見ると、とんでもないものが空に浮かんでいた。
実はアタシ、戦艦マニアという隠れた趣味を持っているからわかる。
あれは日本の戦艦ヤマトだ。
あの形に砲台の数々……う、美しい!
アタシが目をキラキラさせているところにハズキが腕を引っ張る。
『うぉ?! いきなり引っ張るなよ、ハズキ!』
『おまえアホか! 今がチャンスやないかい! みんながあれに気を引かれとるうちにあいつらと話すんや!』
『そ……そうだな』
あれをもっとよく見たいと思っているのは内緒にしておこう。
そしてなぜか糸でグルグルに拘束されている魔族の子2人に近寄る。
「お久しぶり……と申し上げてもよろしいですわよね?」
「あ、あなた方は……」
「これはどういうことですの? 説明していただけますの?」
「それは……え?! ちょ、あれ落ちてきているであります!」
「え? え? えぇえええ?!」
『おい、やっぱあれ戦艦ヤマトだよ! マジかよ、超カッケェェよ!』
『おま、アホか! どこに興奮してんねん! あれ落ちてきたら死ぬで!』
『見てみてホノカ~! あの船、顎がしゃくれてるよぉ~? すご~い!』
『あれはバルバス・バウという正式名所であると知っているヤツがここに約一名』
『だからどこに興奮してんねんミサキ! それにそんな豆知識いらんねんホノカ! ……あれ?! 思わず自然にツッコミが出てもうたけど……』
『……え? ミサキとホノカ……なのか?!』
『……あ』
『……バレちった。えへへへ』
『『えぇええええええええ?!』』
ちょ、ちょっと待て……どういうことだ?!
『2人には秘密にするという約束はどこにいった?』
『だってまさか記憶があると思っていなかったんだもん。ってかなんでアズサもハズキも記憶があるの?』
『い……いや待て、おまえら……本当にミサキとホノカなのか?』
『そだよぉ~! よ、久しぶりっ!』
『いや軽いわっ! なんでおまえら魔族やねん! いろいろツッコミどころが多すぎてウチでも捌ききれへんわ!』
ハズキが叫ぶ中、それをかき消す騒音に意識を持っていかれる。
さっきの戦艦がガラスドームを突き破ったのだ。
その巨大なガラスドームが私たちの頭上へと迫っている。
『アカン……これもう死んだやん!』
『せっかくこの4人が揃ったっていうのになぁ……死にたくねぇなぁ』
『ここにも、もう死にたくないと思っていたヤツが約1名。でもこの4人一緒ならまぁいいか』
『あっ、死ぬならもう一回あそこのコロッケが食べたかったなぁ』
『いや、せっかくのいい雰囲気台無しにすんなや!』
ハズキがツッコミを入れたところで、アタシらは糸でグルグルに巻かれた。
『なんやっ?!』
『なんだっ?!』
『う~わぁ~』
『あっ……』
ビックリしたけど、この糸のことをアタシらはよく知っている。
サクだ。
多分またあの子がアタシらを助けてくれようとしているんだと……おぅ?!
いきなりデカい繭みたいなものの中に放り込まれた。
そして、真っ暗でなにも見えなくなったかと思ったら急激に体にGがかかる。
しかもそれは上下左右と、ものすごい勢いで振られる。
正直酔う。
いやメッチャ酔う。
そろそろ吐きそうだと思っていたところに、アタシの唇と誰かの唇が重なった。
プルプルと柔らかく、この弾力溢れる唇。
いつも一緒にいるからわかるこの甘くて良い匂い……ハズキだ。
それに右手と左手に感じるこの手の感じは間違いなくミサキとホノカ。
この子らの温もりを感じるといつの間にかアタシの震えは止まっていた。
やっと見つけることができた。
アタシのかけがえのない大切なもの。
急にこの世界にやって来て、不安でいっぱいの夜を過ごした。
一人になるのがこんなに寂しいと思ったことがなかった。
なんども挫けそうで負けそうで泣きそうで苦しい日々を過ごした。
それでもまた会えた。
時を超え、時空を超えてもまた巡り合えた。
聞きたいことも話したいこともいっぱいある。
だから今からそれを命一杯にやってやるんだ。
これからまだ戦いも起こる。
危険なこともいっぱいある。
だけどアタシらは負けない。
この4人が揃ったら最強なんだ。
みんながいるだけでアタシは強くなれるんだ。
アタシはその大切なもの全てをギュッと抱きしめた後に意識を手放した。
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