074 ふるばーすと
ここから第三章に入ります
こちらに向かって一直線上に船首を向け、真っ逆さまに落ちてきている戦艦。
あんなものが落ちて来れば、この国は壊滅だ。
問題なのは、この国全土を覆っているあのガラスドーム。
本来それは、この国をいろいろな外敵から守ることが目的だと思う。
だけど、今回ばかりはそれのせいで国が亡ぶことになる。
あの戦艦は簡単にガラスドームを突き破る。
すると、その巨大なガラスの破片はこの国全土に降り注ぐことになる。
それは巨大なビルが空から落ちてくるのと一緒のようなもんだ。
これでなんとかなるかな?!
いや、なんとかしてみせるしかない!
ムチャでもなんとしてでも守りきる!
私は屋根付きベンチの骨組みと特殊糸で自家製の緊急シェルターを作った。
さながら見た目は繭そのものだけど、背に腹は代えられない。
しかも、もう時間はギリギリ……いや正直間に合わない。
だけど、今こそ限界を超えろ私!
忍気爆発100%!
フル……バースト!
私は全身にほとばしる桜色のオーラを纏い、全開の力でいまだに放心状態のマイカを抱きかかえる。
「きゃっ?! サク?!」
そして、同じように唖然と立ち尽くしている妹っ子、それにアズサとハズキ、それにあの魔族の子2人を瞬時に特殊糸で引き寄せる。
『なんやっ?!』
『なんだっ?!』
『う~わぁ~』
『あっ……』
状況を掴めていない芋虫くん4人とマイカ、妹っ子を引っ張って一緒に繭のシェルターへと入り込んだ。
《サクヤ様、きます! ショックに備えて下さい!》
スマコがそう言ったと同時にとんでもない衝撃波が襲ってきた。
おそらく落下してきた巨大ガラスが地面に当たり、その衝撃で私たちが入ったシェルターが吹き飛ばされたのだろう。
この繭の中はクッションのように柔らかく作ったけど、それでも並大抵のことではこの衝撃に耐えることはできない。
だから私は転身機であるこのマフラーを中にいる全員の首に巻いていた。
真っ暗の中、まるで無重力のような状態で上下左右にものすごい勢いで振られ続ける。
しばらくそれが続いた後、やっと落ち着きを取り戻した。
アイレンズで危険がないことを確認した後、私は繭をほどいて外に出た。
時間にして数十秒間のことだったけど、おそらくこの子らにしてみればかなりの長時間苦痛を味わい続けたと感じていることだろう。
その証拠に、繭から出たこの子ら全員がグロッキー状態だ。
マイカは口を押さえて悶え、アズサとハズキ、そして妹っ子は白目を剥いて失神。
魔族の子2人はピクピクと痙攣しながら、見てはいけないものを口から豪快に吐き出していた。
まぁこの子らの命を助けるため、あの時にできた最善の方法を取ったつもりなんだけど……これはさすがにないわぁ――。
そのグロッキーな6人を他所に、周りを確認してみる。
会場となっていたスタジアムは完全に倒壊。
そればかりか、この中央都市全土が上空から降り注いだガラスドームの破片の雨で悲惨な状態になっている。
建物などの建造物は全てが倒壊し、原型を留めているものはなにもない。
ここにいた他の国の生徒たちや先生、それに国王やその側近たちも全滅ね……。
中央都市以外のところはかろうじてガラスの雨の被害にあわなかったところもあるようだけど、死者の数が尋常じゃないのは確かだ。
あんなものがいきなり空から降ってきたせいで、この国が一瞬で崩壊したといってもいいわね。
私が見るその先には、国全土を覆うガラスドームとこの中央都市を覆うガラスドーム2枚を貫通し、地面にその長い艦首を突き刺した状態で止まっている巨大な戦艦がある。
魔族はこんなものを作り出して、あの山を越えてきたとでもいうの?
いいや……おそらくは使徒であるあいつらの仕業だろうね。
連中の目的は戦争……というよりも殺し合いによる大量殺害のためだろう。
この大惨事で大量の人たちが命を落としてからというのも私が持っているこの封印のクリスタルの力が強まった。
考えたくはないけど、やっぱりその事実は変わらない。
そしてあの使徒どもの狙いは人族と魔族の戦争だ。
ということはこの世界の人々が大量に死んでしまう……それであのクズ神の封印を強めようという狙いなんだろうね。
《残念ながらサクヤ様の推測通りでしょう》
「こ、これは……サク……ここはさっきと同じ場所なの?」
「うん……」
「そんな……これじゃみんなは……」
「……うん」
少し落ち着きを取り戻した様子のマイカが、今度はこの状況に困惑しているようだ。
そして魔族の子ら2人もノソノソとやってくる。
「あなた方は……あの時はどうも……」
「ご無沙汰しております。アトラス大迷宮で出会った時以来ですね……これがあなたたちの目的だったのですか?」
「ちがっ……う、とも言い切れません。これはワタシたちが引き起こしたようなものですから」
「はい……こんなことになったのも自分たちのせいであります……自分はどうなろうと構いません! しかし、この子だけはどうか見逃してくれませんか?!」
「ホノカ?! 1人で罪を被るなんて許しませんよ」
実際この子らはなにも知らされていない。
あの国王1人を殺すことですら全身をビクビク震えさせて躊躇っていたからね。
「そんなことよりもまずは、あれをどうにかすべきじゃないのかしら?」
おぅ?!
いきなり起きてきたと思ったら、すごくまともなことを言い出した妹っ子。
妹っ子が向ける銃口の先の戦艦からは続々と魔族が降りて来てきて、この辺り一帯を占領しようとしている。
その先頭にはあの使徒の化け物が持っている桜飾の反応がある。
確かに今はあれらをどうにかするしかないようね。
じゃないとこの国から出られないし。
私はマイカにアイコンタクトを送り、頷き合う。
「アタクシはアズサちゃんとハズキちゃんの大切なお友達であるあなた方をどうこうするつもりはありません。しかし、まずはここを脱出するためにあの魔族軍へ攻撃をさせていただきます。よろしいですか?」
「それは仕方のないことであります……それに自分たちは……」
「本当の魔族ではありません」
そういうと魔族の印になっていた角をネジってスポンと引き抜いた。
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