073 せんかん
2人は自分たちの宿泊施設へと帰って行った。
あの化け物が持っている発信機にも反応はないし、音声も聞こえない。
だから私は宿泊施設に全力で急行している。
どうして急行しているのかというと、私の分身体の両肩に手を置き、真っすぐに睨み付けてプルプルと怒っている顔が見えたからだ。
宿泊施設に戻った私は、慌てて分身体と瞬時に入れ替わる。
「おかえり、サク」
「……は、はぃ」
え、笑顔がとても怖いですよーー?
「どこに行っていたのかなぁ?」
「ちょっと……そこまで……」
「ど・こ・に・行っていたのかな?」
ひぃぃぃ?!
い、威圧が半端ではございません……。
「……城」
「何があったの? ちゃんとアタシにも教えて」
「……うん」
さっきあった出来事をマイカに伝えた。
「まさかこの開催国であるテンガラスが魔族と手を組んでいたなんて……でも魔族の襲来はどこから来るのかわかんないんだよね?」
「ぅん」
そうなのだ。
私はここ数日の夜間で分身体をばらまいて地下に通じる場所を探しまくったというのに、全くそれらを見つけることはできなかった。
それがわかれば事前に手を打つこともできたんだけど、どこから来るかもわからない敵を相手にするのは厄介ね。
それに、あの魔族の子2人が国王たちを狙うことは聞いている。
それが戦争の合図になるのなら、まずはそれをなんとしても阻止しなければならない。
でもその後が問題よね。
絶対にあの化け物がやってくるはずだし……今の全力を出したとしても、できてせいぜい時間稼ぎくらいかな。
いくら魔族がやって来たとしても、この魔動兵団の警備体制なら国王たちや生徒たちを守れるはずだ。
今はそれを信じるしかないね。
「また自分だけが危ない目にあおうとか考えていないよね? それはダメなんだよ? アタシもいるんだからね? 今度置いていったら本気で怒るよ?」
「……ぅん」
この子は頼りになる。
本当の実力を出せれば、あの勇者のおっさんにも引けを取らないかもしれないと思っている。
だからこそ、アンタがみんなを守りなさいね。
「朝日だ……すっかり夜が空けちゃったね。少し寝る?」
「いや……ぃぃ」
私らはそのまま決勝の時間を迎える。
「アンタたち! ここまできたら絶対に勝ちなさいよ! 負けたら承知しないんだからね!」
「え、えぇ……頑張りますの」
「すっかりこのチームの鬼監督になってしまわれましたの……年下なのに」
「なんか言った?」
「いえいえ! なんでもありませんわ! さて、参りましょう!」
相手チームの残りはあの魔族の子2人だけ。
こっちは4人残っているから、2人を倒せば勝ち。
向こうは2人で3勝すれば勝ちだ。
でも向こう側も今は試合なんてどうでもいいはず。
2人は緊張の面持ちで時が来るのを待っている感じね。
「それではこのギアバトル闘技大会もこの試合で大詰め! 今日は、決勝戦ダァ――!」
ナレーションのおじさんの元気な掛け声で会場が大いに盛り上がりを見せる。
そしていつも通り、ウグイス嬢が両チームの紹介を始めた。
「ブリブロにダルダン……間違いありませんね」
「はい……慎重にいきますの」
「えぇ、確かめましょう!」
アズサとハズキがコソコソとそんなことを言っていた。
「それでは決勝を始める前に、このギアバトル闘技大会の開催国であります、テンガラスの現国王、キリサメ・ジオルド様よりお言葉を頂戴いたします」
ウグイス嬢の案内でこの国の国王が姿を見せる。
すると、魔族の子2人が即座に動きを見せようとしていた。
私はその前に2人を特殊糸で拘束し、動けなくする。
焦っている2人を他所に国王は会話を始めた。
「みなさま、本国でのギアバトル闘技大会はお楽しみいただいておりますでしょうか。ここでさらにみなさんにお楽しみいただくために、ちょっとしたデモンストレーションをご用意いたしました! それでは上空をご覧ください!」
国王が指さす上空へと全員が視線を移す。
すると、その先には本来空に浮かぶはずのないものが、この国のガラスドームよりも更に上空へ浮かんでいた。
『うっそだろ……』
『船……ちゃうわ、戦艦やんけ!』
こいつらツッコミは日本語じゃないとできんのか?
まぁでもいきなりあんなものが出てきたら突っ込まずにはいられない
あっちの魔族の子らまでポカーンと見入っているけど……これはあの子らも知らない?
周りの観客たちも驚きの声を上げている。
「あれは我国テンガラスが誇る移動要塞です! あれは……」
自信満々に長々としゃべり出してしまったけど、本当にあの巨大な戦艦には驚い……た?!
ちょ、ちょっとぉ?!
冗談じゃないよ!
私は今、未来視で少し先の悲惨な未来を見た。
スマコ、あれが落ちてくるまでの時間は?!
《約30秒弱です》
「お、おい! あれこっちに落ちてきていねぇか?!」
「本当だ! やばいぞ! 逃げろ!」
観客たちが慌て出した。
「な、どういうことだ?! し、知らんぞ! ワシはこんなの聞いていない!」
ついには国王までが慌て出してしまった。
「総員、退避ぃい!」
「「はっ!」」
マイカの父親であるあのおっさんが大声で魔動兵団全員へ声を掛けるけど、もう遅い。
くそっ……さすがに想定の範囲を超えすぎよ。
いくら私でも、ここにいる全員を守ることはできない。
そればかりか、私1人でも残り数十秒ではこの国を出ることすらできないと思う。
だから今の私にできる最善を尽くそう。
お読みいただきありがとうございます。
もしよろしければブクマや評価をしていただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。