009 たいえき
と、いうことでやってきました細い道。
私は極力足音や気配を消した状態でその細い道をゆっくりと先へ進んでいく。
まぁ細いっても、5歳児の私には十分すぎるくらいに広いけどね。
周りの通路が広すぎるおかげで、そう見えているだけだし。
うんしょ、うんしょ。
ちょっと上り坂なのが地味につらいわぁ。
今は忍気を発動していないからね。
どんな危険が待ち受けているかわからないから、あまり無駄使いもできないし。
結構進んだけど、この通路は暗いなぁ。
まぁ道がかなり枝分かれしているから、逃げ道がそれなりに多いのが救いではあるけど。
この迷宮内の光ってさ、壁の中とかその辺に埋まっているクリスタルみたいなやつが光を出しているんだけど、そのクリスタルがこの通路にはかなり少ないのよ。
奥に行けば行くほどさらに暗くなっているような気もするし……。
アイレンズなかったら絶対に見えてないわこれ。
うん?
遠くになんか魔物みたいな気配を感じる。
まぁこんだけ距離が離れていれば、気配を消して隠密行動をしている私には気が付かないから大丈夫でしょ。
もう少し奥に進んでみようっと。
え、なに……ちょ?!
なんかこの辺の地面がべちょべちょしてんだけど?!
思いっきりふんでしまった……え、うそぉっ?!
う、動けないじゃん!
正体不明のベトベト粘液に足が捕まり、全く動けなくなってしまった私。
あ、あれ?
これって、やばくねっ?!
かなり遠くにいたはずの魔物がもの凄いスピードで私の方に向かって来ている。
しかもなにこの数?!
冗談きついわ――。
枝分かれしてた道からどんどん集まって来てんじゃん。
ないわ――。
スマコ、このキモい液体はなんなの?
《アトラス・ティックの体液。粘着性が高く、一度触れてしまうと容易に外れない。水に弱い》
アトラス・ティック?!
それは魔物なの?!
《アトラス・ティック:アトラス大迷宮内に生息するダニの魔物。粘着性の高い自らの体液を地面にまき散らし、それに捕まった獲物を鋭い牙で吸血する。水に弱い》
ひぃいいい?!
これダニの体液なの?!
だめだ、アカンやつや。
旅立っていきなり大ピンチじゃん。
水に弱いっていっても私水なんて扱えないし……。
ふんぎぎぎぎ!
やっぱ抜けないなぁ。
がっちりこの体液に吸着しちゃってるし。
そこへダニの魔物が姿を現す。
「ミシミシミシミシミシ」
うわぁお……引くわ――。
なにこのバカでかいダニ……私の身長を遥かに超えてんだけど?
ダニって布団とかに実は何百匹もいるとかいうあの小さな虫のダニよね?
なにこの大きさ、バカにしてんの?
こんな化け物があと13匹もこちら向かっている反応がアイレンズに映し出されているんだけど?
まだかなり遠い位置だけどさぁ……。
ないわ――。
いや、マジでないわ――。
アイレンズ越しにこのダニを見ると、ダニの横に緑と黄色と赤のゲージが2本見える。
これは、この魔物のHP、MPの残量を示すものらしい。
HPのゲージがゼロになると魔物は死ぬ。
そして、MPは特殊な攻撃や魔法などを使用する時に使うゲージらしい。
最初にこれを見た時は、もちろんゲームかよって突っ込んだよ?
でも実際に今、現実で起こっていることだと無理やり自分を納得させた。
「ミシミシミシミシミシミシ」
おぅふ……キモい。
ダニってこんな鳴き声なの?
てかそもそも鳴くの?
私これに血を吸われるの?
ていうか、普通に食われるくね?
ないわ――。
さて困った。
か弱き私は今にも食べられそうだ。
あれ?
前にも似たようなことが起こったと思うんだけど。
なんかこっち来てからこんなんばっかりやん……。
とりあえず上半身だけはかろうじて動くね。
あ、こいつ突進してきやがったよ!
これはもうしょうがないか……忍気発動、20スロットル!
私が今出せる最大出力の忍気を発動すると、制服姿から忍者装束へと転身する。
これはお母さんが作ってくれていた私専用の忍者装束。
全身を黒で統一させ、背中に桜の花びらが散ったような模様が施された、動きやすい着物風のワンピース。
なんで忍気を発動するとこの姿になるのかはよくわからない。
でもこれが私の戦闘スタイルっていうことなんだろうね。
そして思いっきり足を引っこ抜き、そのまま3mほど垂直にジャンプして天井の岩にしがみ付いた。
ダニの魔物がそのままの勢いで岩壁に激突すると、HPゲージが5分の1くらい減った。
このダニは、そこまで防御力が高くないようだからこれを繰り返せばいつかは倒せるかもしれないけど、私の忍気継続時間がそれまでもたない。
忍気の継続時間が切れてしまうと反動でしばらく動けなくなってしまうのは実証済み。
5歳児の私でも6時間くらいは全く動けなくなってしまったほどだ。
今そんなことになったら……一滴残らず血を吸われてボリボリ食べられてお終いね。
なにそれ、超怖い。
その前になんとかしなくちゃいけないけど……うぉっと?!
あっぶなぁ!
口から体液吐いて来やがったよこいつ!
ないわ――。
自分の体液を放出するなんて、どこぞの変質者だよ……。
さて、このままだと無駄に忍気を浪費してしまうし、忍気継続可能時間を過ぎてしまう。
まぁこんだけ天井で動き回っている状態だから無理もないけどね。
私、蜘蛛とか名乗れるんじゃないか?
ヤバい、逃げるのに必死で気にしてなかったけど、これビジュアル的にセーフ?
やっぱアウト?
……ですよねぇ~。
はぁ、それにしてもどうすんのこれ?
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