001 じぇーけーのたわむれ
うぎゃぁああああ?!
……ぁ、うえっ?
なに今の一瞬だけ体に走った激痛は。
ないわ――。
あまりの激痛に思わず叫んでしまったと思ったのに声すら出やしない。
ないわーー。
目を開けてみればそこは見知らぬ洞窟だし。
ここはどこ?
私は誰?
オーケー、落ち着け私。
とりあえず冷静に状況を観察してみようか。
えっと、今私の体はピクリとも動かないし声も出ない。
目だけはなんとか動くけど、首が動かないから体の状態を確認することもできやしない。
これは一体……どういうこと?!
まさか、植物状態ってやつ?!
この先ずっとこの状態なわけ?
ないわ――。
しかもなにこの場所……洞窟?
私捨てられましたか?
マジですか?
それはさすがに泣いていいですか?
無視ですか?
あぁそうですか。
オーケー、もう一度落ち着け私。
もう少し冷静に思い出してみようか。
確か、朝から普段通りに学校行って、授業中はいつも通りに寝て過ごしていたはず。
そして放課後に、新しくできたっていうオシャレなカフェの評判を聞いたクラスメイト4人の女の子と、親友の乙羽と一緒にみんなでそのカフェに向かったんだっけ?
その後にとんでもないことが起こったようなぁ……。
*****
「はぁ……明日の説教は確定だな、アタシら」
「もう諦めや。その場のノリだけで、部活よりも新しいカフェに行くことを選んだ、ウチらの敗北やで」
「うわぁ~雪凄~い。あれにシロップかけたらかき氷だよね?! ワタシ、天才?」
「クソ能天気なクソアホ野郎がここに約1名」
「あぁもう! ウジウジすんのやめだ、やめ! こうなったら思いっきり楽しんでやるぞ! もうメニュー決めたか?」
「あ、この店のアプリあったんやなぁ。まだ見てなかったわ! クーポンある?!」
「かき氷は?! みんなで一緒に食べないの?! もうシロップ準備したよ?!」
「この真冬に、雪をかき氷にして食べたいと本気で訴えかけているヤツがここに約1名」
「そのシロップはどっから出したんだよ……とりあえずしまっとけ」
「ウチこれ食べたいわっ!」
「それはアタシが狙ってたから却下だ!」
「なんやてぇ?! そんなんありかいな……ほんならこれや!」
「それも先に目を付けてたヤツがここに約1名」
「おいっ! ウチはなにを食べたらええねん!」
「後ろのお二人さんはもうメニュー決めたか?」
「……」
「お~い、オトハ?」
「ふにゃい?! ご、ごめんごめん! 聞いてなかった!」
「ふにゃいてなんやねん」
「アンタらはまた人目も気にせずイチャイチャして、どんだけ仲が良いんだよ」
「ちょっと目を離したすきに二人だけの世界に入っとるもんなぁ」
「えへへへ。私は桜夜がかわい過ぎるのがいけないと思うんだなぁ」
サクヤこと私、服部桜夜は、親友のオトハこと、光月乙羽と共に前を歩く四人の後ろを歩いていた。
「それはもう何百回も聞いた。しかし、サクヤは相変わらずの鉄仮面だな」
「それな! 誰もが学校一番の美少女と認めるオトハに抱き付かれても、表情一つ変えへんし」
「いやいや、桜夜ってば今カフェに行くこと凄く喜んでるんだよ?」
「「「「……えぇええ“?!」」」」
「その顔、喜んでんの?!」
「いつもの無表情にしか見えへん……」
「桜夜のことならなんでもわかるよぉ。私よりもカフェのことばっかり考えているのが不本意だけどぉ」
「まぁオトハが言うんだったら、そうなんやろな」
「そのワクワクしているサクヤはどれを食べるんだ?」
なにやら外野がうるさいけど、私は今それどころではない!
久しぶりに行くカフェ、本当ならメニューの全てを制覇したいところ、おなかと金銭面に全く余裕がない私は、どのデザートを食べるべきか苦渋の決断をしなければいけないのだよ!
おっ?
メニュー見してくれんの?!
この子気が利くわぁ―。
名前なんだっけ?
まぁいいか。
やっぱ無難にこのあたりのケーキ系で攻めるべきか……
いやいや、ここは思い切ってこのスペシャルメニューを……
「おいおい、サクヤ画面近すぎだろ! それ見えてんのか?」
「桜夜~私にもそのくらいの至近距離で顔を見せてよぉ。そしたら間違って唇同士が触れても事故に……」
「オトハ! それ以上はやめとけ! せっかくの美人が台無しや」
「サクヤちゃん! それよりもかき氷はどう?!」
「おまえはかき氷から離れんかい!」
「サクヤ氏と同じものにしようか悩んでいたヤツがここに約1名。一口だけ所望する」
「あ、ならウチも!」
「みんなでシェアしようぜ」
「ア~ンはダメだよ? ア~ンはダメだからね? 絶対にダメだよ?」
「わかったからオトハはそのマジな真顔をやめろ! 怖すぎるわっ!」
私は、無口で無表情な完全無反応の無愛想人間だと、他人にはそう思われている。
ここまでの会話でもわかると思うけど、私一言もしゃべってねぇんですわ!
誰から話しかけられても、愛想笑いも一つもできず、声を発することも、表情を変えることもできない無愛想なやつ。
それが私という人間だ。
こんな人間になってしまったのにも、実は理由がある。
自分でいうのもなんだけど、私は小さい頃からなんでもできる子だった。
それは、うちの家柄にも関係しているんだけど、物心ついた時からさまざまな教育をさせられたことで、小学校に上がる頃には勉強やスポーツ、簡単な機械やコンピューターの製造に至るまで、幅広くなんでもできてしまう子になっていたのだ。
自分があまりに他の子と違うことに気が付いた頃にはもう手遅れで、それから私はどんどん孤立していくことになる。
数ある作品の中からこの小説をお読み頂きまして、本当にありがとうございます!
序章は現実世界の話が続きますが、第一章からは異世界の話に入っていきます!
引き続き楽しんでもらえたら嬉しいです。