表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/173

1-6 姉と妹

「え!? そこからですか!?」


 雷人の言葉にシンシアさんは驚いた表情をする。

 そして、訝しげな表情をすると雷人の顔を覗う様にしながら尋ねてきた。


「失礼を承知で申し上げますが、どちらのご出身で……?」


 この反応、やはりフロラシオン以外の知的生命体を持つ星はあるようだ。


 雷人はその手の話はあまり信じていなかったが、流石にこんな状況になってしまえば信じるしかなさそうだ。


「フロラシオンですが」


 雷人がこともなげに答えるとシンシアさんは微妙な笑顔のまま石にでもなったかのように動きを止める。


 少しすると、どこぞのおばちゃんのように手をひらひらと動かし、何を馬鹿なといった感じで尋ねてくる。


「またまたー、フロラシオンの方が能力を使えるわけ無いじゃないですか。フロラシオンは能力使用禁止特星になってるんですからね?」


 ……また初耳な単語が出てきた。

 仕方が無いのだが、情報過多が過ぎるぞ。


「その能力禁止……というのは何ですか?」


「恍けてもだめですよー? 能力を発現している者のいない星では、もちろん能力は周知されていないですから。パニックや宗教の元になりますし、力が無いって事は自衛力が無いって事でもあります。だから宇宙警察ポリヴエルが法を敷いて取り締まっているんじゃないですか」


 なるほど、そういう事なのか。

 あの子が能力を使ったからとか言って俺に手錠を掛けたのもそれだな? でも……


「フロラシオンでは邦桜だけですが、二十年程前からですかね。能力を持っている人は普通にいますよ?」


 雷人がそう告げるとシンシアはパッと後ろを向き、ブツブツと呟きながら何かを考え込んでいる様子である。


 そして、再びこちらを向くと自信満々に言い放った。


「あなたの言い分は分かりました。でもちょっと待って下さい。その話をすぐに信じるわけにもいきません。今回の件の依頼主は邦桜政府ですからね。確認をとれば一発で分かってしまいますよ? ふふふふふ」


 やっぱりすぐには信じて貰えないみたいだ。


 しかし、自分もなかなか受け入れられなかったからな。

 それも仕方ないというものだろう。


 そう思っていると後ろの扉が開き、誰かが中に入ってきた。

 フィアという少女が戻ってきたのかと思い振り返るが、そういうわけでは無かった。


「失礼しますよ。遅くなりました。暴れる生徒を帰すのに少々手間取りまして」


 入って来たのは夕凪先生だった。


 ここに来るという事はやはりただの先生では無いのだろう。

 邦桜の政府の人だったりするのだろうか?


「さて、では何があったのか教えて貰えますか?」


  *****


「なるほどそういう経緯でしたか」


 シンシアさんが夕凪先生に事の経緯を説明すると、先生は得心いったというように頷き顎に手を添える。


「どうやら誤解があったみたいですね。成神君が能力を使用した事は特に問題ありません。なので今回の件、成神君には特に非はありませんよ」


 先生の言葉にシンシアさんが溜息を吐き項垂れた。

 対する雷人は安堵の息を漏らす。


「そうですよね、ありがとうございます。先生」


「いえいえ、しかし成神君。君が今回巻き込まれてしまったこの件ですが、極秘の案件なんですよ」


 トーンを落として話し始める先生に背筋に寒気が走る。まさか……


「口封じに俺を消す気ですか!?」


 即座に身構える雷人に対して先生は首を横に振る。


「まさか、可能な限り内密にお願いしますという事ですよ。まぁ言いふらすようであれば話は別ですが、あなたはそんなに馬鹿ではないでしょう?」


 雷人はすぐにぶんぶんと首を縦に振った。


 はは……目が笑ってない。

 そして、先生はふと思い出したように言った。


「そういえば自己紹介がまだでしたね」


「え? 自己紹介ですか? 朝学校でされましたよね、夕凪先生?」


 すると先生はおもむろに立ち上がると、懐に手を入れ紋章のような物を取り出した。


「先生でない事は気付いてるでしょう? 私は宇宙警察ポリヴエル所属の警察官、ユーギナ・ハングウェイと申します。荒事はあまり得意ではありませんので、主に事後処理や監督官をしています」


 え! まさかの宇宙警察ポリヴエル!?


 雷人は椅子ごと後ろに動こうとし、危うく倒れそうになる。

 しかし、夕凪先生はそんな雷人を気にした様子もなく話を続けた。


「それでこの話ですが、今回フロラシオンに迫る危機に対して邦桜政府は宇宙警察ポリヴエルを頼ってきたわけなんですが、その際に能力者の学校の事が発覚しましてね。その調査のために私が教師として成神君の学校に来たわけです。フロラシオン全体の話ではありませんし、能力禁止特星である事は特に変わりません。ですので、フロラシオンの能力者と許可を受けた者以外は使用禁止で問題はありません。それと成神君、改めて自己紹介はしましたが、邦桜では先生である事には変わりないので、呼び方は夕凪先生で構いませんよ」


「そ、そうですか? それにしても宇宙警察ポリヴエルが能力禁止特星を守っているのなら、どうしてこの会社が対応しているんですか?」


 雷人が尋ねると先生は「痛い所を突きますね」と口に手を当てて難しい顔をしたが、すぐに手を放して雷人の顔を見る。


「実は宇宙警察ポリヴエルとは言ってもその規模にはやはり限界がありましてね。どうにも手が足りていないのですよ。そういうわけで、ホーリークレイドルのような民間の会社に一部業務を委託しています」


「あ、はい。その話はさっき聞きましたが」


「おや、そうですか。実はフロラシオンはそれなりに宇宙人達の間で人気がありまして、その取り締まりで宇宙警察ポリヴエル側は手一杯なんです。そんな中で、今回の件に関して邦桜政府は情報漏洩を避けるためになるべく自国の戦力は用いたくないと仰りました。そういうわけなので、下請けであるホーリークレイドルに委託しています。こちらも繁忙期で手はあまり余ってませんから、結果として現在はフィアさんと私のみが対応しているという形になっています」


「え? 二人だけなんですか?」


「はい」


「それで対応出来るんですか?」


「今の所は問題ありません。ただし、今後の状況によっては増員も視野に入れています。納得して頂けましたか?」


 先生がこっちを見てにこっと笑う。

 先生、その顔正直ちょっと怖いです。


 すると静かに聞いていたシンシアさんが口を開いた。


「あの、それでどうしてこちらには能力者が存在する事の報告が無かったのでしょうか?」


 シンシアさんの言う事はもっともだ。

 それがあれば俺は逮捕などされずに済んだだろう。


 雷人が少しじとっとした目で先生を見ると、先生は少し困ったような顔をした。


「それについてですがね。こちらの社長には話が通っていたはずなのですが、情報の行き違いでしょうか?」


 それを聞くと納得したようにシンシアさんがまた溜息を吐いて項垂れ、手で顔を覆う。


「……うちの社長が本当にすみません」


 すぐに認めたな。

 珍しい事では無いのか?


 シンシアさんが頭を下げてくるが、雷人としては別に怒っているわけでもないし、今回は助けて貰っている。むしろ感謝をする所だ。


「いえ、事情は分かりましたし、助けて貰って本当に感謝しているので、気にしないで下さい」


 そう言うとシンシアさんはありがとうございますと泣きそうになりながら何度も頭を下げる。


 何かトラウマでもあるんだろうか?


「じゃあ説明もしましたので私はこれで、送っていきましょうか? 成神君」


「いえ、大丈夫です。フィアさん……でしたか? 彼女にもちゃんとお礼言って行きたいので、まだ残ります。ありがとうございました」


「そうですか。先程も言いましたがこの話は無闇に口にしないように、時和君と朝賀さんは仕方がないので見逃しますが、次はありませんよ?」


 先生はそう言うと扉を開けて外に出て行った。

 だから一々怖いんだよ先生……シンシアさんと二人きりになると少し無言の時間が続いた。


 フロラシオンの危機がどうとか言っていた事を詳しく聞きたい気持ちはあるが、先生に釘を刺された手前聞くに聞けないもどかしい時間が続く。


 するとシンシアさんが耐えかねたのか突然立ち上がる。


「えっと何か飲み物でも出しますね。コーヒーでいいですか?」


「ありがとうございます、すみません。砂糖を二匙くらいお願い出来ますか?」


「分かりました」


 シンシアさんが部屋の隅にあるキッチンスペースへ向かって行くと後ろでドアの開く音がした。


 やっと帰って来たのかと思い後ろを見ると、例の少女の姿はなく見知らぬ二人の女性が立っていた。


 一人は長く少しカールした金色の美しい髪を持つ女性で、頭には羽付きのベレー帽、腰には服を巻き付けている。


 そして、下は長めのスカートを履いているコスプレ剣士といった風貌だった。


 上は短い肘くらいまでの外套と大きめの胸を隠すTシャツのような服のみでお腹を隠す物が一つも無い。


 ぱっと見は大人っぽい印象を抱かせるが、その瞳は爛々と輝いており、今にも跳んで来そうな印象を受けた。



 もう一人は雷人と変わらぬくらいの年の少女だろうか。


 少々背は低いようだが胸もしっかりと主張しているし、左目の泣きぼくろの所為か、少し大人びた雰囲気も感じられる。


 着ている物は簡素な着物のような服だが、下がかなり短く胸元も少し緩そうな感じで、雷人のように女性に不慣れな者は視線のやり場に困る。


 髪は少しだけうねっていて、肩より少し上ぐらいの長さの髪であり、耳には大きなイヤリングがつけられていた。


 一番の特徴は何と言ってもその耳である。

 いやあれは耳なのか?


 どちらかというと人魚とかの耳ヒレのようなイメージだろうか。

 いやもちろん足は普通にあるし人魚では無いのだが。


 俺の趣味とかは置いておいて、一般的に見てもこの二人は可愛い、綺麗の部類だろう。


 宇宙人って美人も多いんだろうか?


 そんな事を考えていると二人組の一人、金髪の女性が突然跳びついてきた。

 まさか本当に跳び掛かって来るとはっ……!


「うわっ、ちょっ!」


 彼女はそのまま雷人を押し倒し地面に倒れ込む。

 目の前がその顔と長い髪で一杯になり雷人の頭は真っ白になった。


「君は誰かな? 新入り君かな? 大丈夫だよー、マリエルお姉さんが一から教えてあげるからね」


「ちょちょちょちょ! ちょっと!? 何やってるんですかマリエルさん!? ストップストーップ!!」


 音を聞きつけたシンシアさんが叫びながら走ってきて、マリエルさんを俺の上から引っぺがした。


 た……助かった……。


 シンシアさんが何とか止めてくれているのを見ながらドキドキしている胸を撫で下ろし、何とか心を落ち着けようとする。


 そうしていると、もう一人の少女がやって来てこっちを覗き込んだ。


 雷人がびくっとしながらそちらを見ると、少女は雷人の顔の近くに手を持ってきて、落ち着いた様子で尋ねて来る。


「大丈夫ですよ。うちはマリエル姉さんみたいに初対面の人にスキンシップ取りに行ったりはしませんから。それで、お兄さんは一体誰なんですか?」


 どうやら、こっちの人はまともな人のようで良かった。

 俺は安堵し、手を借りて立ち上がると、その時またもやドアが開いた。


 今度は誰かと思いそちらを見ると、治療が終わったらしきフィアさんが「お待たせー」と言いながら入って来たところだった。


 そして、数歩歩くと棒立ちになる。

 今の惨状を見たからだろう。


 何があったのか想像出来たのか、顔を真っ赤にして叫んだ。


「何してるのかな!? マリエル姉さん!」


 フィアさんがそう叫びこちらを見ると、何を思ったのか着物の少女が雷人の腕に自分の腕を回してピタッと引っ付いてきた。


 えと……あの……胸が当たってるんですけど?

 腕に伝わる暖かく柔らかい感触にどうしても意識が持っていかれてしまう。


 それを見るとフィアさんは叫んだ。


「どうしてこうなるかなあああぁー!?」


 それは俺も教えて欲しかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ