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1-5 SSC-ホーリークレイドル

 突然視界が光に覆われ、雷人は咄嗟に目を瞑った。

 光が薄れゆっくりと目を開けると、そこはどこかの室内のようだった。


 無数にモニターやキーボードのような物が存在する。

 目の前には椅子が三つ程あり、それぞれには誰かが座ってモニターを見ながらキーボードを打っていた。


 すると突然少女の顔が目の前に現れる。


「うわっ!?」


 周りの状況に注意を向けていた雷人は素っ頓狂な声を上げて尻もちをついてしまった。


「ようこそSSC、『ホーリークレイドル』へ! 大丈夫?」


 少女が微笑みながら手を差し伸べてくる。

 雷人はその手に捕まり引っ張り起こして貰った。


「ありがとう。えっと……SSC? ここはどこなんだ?」


 雷人が困ったような表情をすると少女は不思議そうな顔をする。


「SSCのホーリークレイドルって聞いた事無い? やっぱりまだ知名度高くないのかしら」


「宇宙は広いからな。この会社を知ってるのなんて、悪党やこういう業界関連の奴らがほとんどだろ」


 突然飛んできた野太い声にそちらの方向を見ると、椅子がくるりと回ってこちらを向いた。


 その姿を見て雷人は凍り付いた。

 自分の目がおかしくなったのかと思い瞬きをしても、頬をつねってみても結果は同じだった。


 インカムを付けた太った……というレベルでなく、もはや卵型の形状に短い手と足が生えた風貌の生物?がこっちを見ていた。


 肌とかピンク色だし、何だろう俺は悪い夢でも見ているのだろうか?


「やっぱりそうよね。もっとこう、大手柄でもあげて大手の新聞にでも載れば違うんだろうけど」


「しかし、うちのやり方に知名度は必要無いだろ。それよりそこの少年は誰だ? 怪我もしてるみたいだし、犯罪者でも捕まえたのか?」


「そうと言えばそうだけど、違うかしら。厳重注意ってところよ」


「そうか、お嬢が居合わせるとは運が悪かったな少年。まぁ、厳重注意ならそんなに時間も掛からないだろうから、我慢してくれ」


 そう言うとピンク色の彼? は椅子をくるりと回すと作業に戻った。


 よく見ると隣の二人も触覚? が生えていたり、やけに背が小さかったり、人間にはとても見えない……異世界にでも来てしまったのだろうか……?


「ほら、ボーっとしてないで早く行くわよ。私達の行く部屋は向こう」


 少女に手を引っ張られ、横にスライドして開いた金属製の扉を通って廊下に出ると左に曲がり、道なりに沿って歩いていく。


 廊下も全て金属で作られているらしく、その様子はまさに近代SFに出てきそうな宇宙船や研究所の内部といった様相である。


 雷人は前を歩く少女に視線を移した。


 これまで周りの真新しい物に目が行ってしまい気にならなかったが、女の子と手を繋いでいるという事に漸く気が付いた。


 その手は男のものと違って柔らかく、なんだかすべすべしている気がする。


 こんな状況で何を考えているんだと自分を律し、目を逸らすと少女の体に付いている血が目に留まった。


 どことなく少女の歩みもふらふらしている気がする。


「そういえばその傷、早く治療した方が良いんじゃないのか? 少しふらついてるぞ」


「心配してくれるの? ありがと、でもこのくらいなら大丈夫よ。それにうちの治療設備は凄いから、傷跡だって残らないわ。腕が飛んだってくっつけられるのよ?」


 雷人が少女を心配して言うと、少女はこともなげにそう言った。


「腕をくっつける!? 本当か? それは……凄いな」


「そうでしょう、そうでしょう。うちの会社は凄いんだから」


 少女は歩きながら器用に胸を張り、まるで自分が褒められているかのように得意げな顔をする。


 歩いていると何人かの人にすれ違い彼女は挨拶を交わしている。


 さっきは驚いたが雷人達と変わらない見た目の者も多いようだ。

 これは幻覚なのか現実なのか。


 空達に言ったら馬鹿にされそうな気がする。

 特に隼人。


「それにしても、ここは本当に会社なのか? さっきからすれ違う人達が社員だって? 変な格好しているが、今日はハロウィンでもしてるのか?」


 ふと思った事を口にすると少女は少し呆れた様子で答える。


「失礼ね、ちゃんと会社よ。まぁ、変な恰好なのは認めるけど。パパの趣味でね。コスプレみたいだってよく言われるわ」


「コスプレ、まぁ、確かにそんな感じだよな」


 コスプレみたいだとは思ったけど、自覚あったんだな。


 それにしても、パパの趣味?

 趣味を社員に押し付けるって、なかなかやばい人じゃないか。


 それと、それが出来るほどの人が父親って、この子結構お偉いさんなのでは?

 ……色々気になるけど考えても仕方ないし、深く考えるのは止めておこう。


 とにかく、信じられない事が多過ぎるものの、伝わってくる感覚は鮮明で、夢と思うにも少々無理がある。


 雷人はもうなるようになれといった感じで、このよく分からない光景を受け入れることにした。


「さて、着いたわ」


 そんなことを考えていると、ようやく目的の部屋に着いたらしく一つの扉の前で止まる。

 少女が手を翳すとドアが横に開き、部屋の中へと入っていく。


 中には後ろで髪を一本に縛った女性がいて、モニターの前の椅子に座ってこちらを見ていた。


 どうやら彼女はコスプレをしていないらしく、制服らしい服を着ている。


 年齢は二十代前半くらいだろうか?

 先程のピンクの人と同様に彼女もインカムを付けていた。


「ただいまシンシア。この人が惑星フロラシオン内で能力を使っちゃったから連れてきたわ。厳重注意で済ませたいんだけど、良いかしら?」


「おかえりなさい、フィア。状況は把握してますよ。情状酌量の余地ありってやつですね。大丈夫だと思います。それよりも、怪我をそのままにしておくのは頂けませんよ。今すぐ治療室へ行って下さいね」


 シンシアと呼ばれた女性は笑顔で出迎えたかと思うと頬を膨らませ、怒ってるような、怒ってないような微妙な態度でフィアと呼ばれた少女の背中を押していく。


「ちょ、ちょっと、押さないでって。このくらい気にしないで良いってば」


「だめったらだめなんです。ほら早く行って下さい!」


「ちょっ、皆そう言うんだから。もー分かった、分かったから。申し訳ないけどすぐに戻って来るから、ちょっと失礼するわー」


 少女は喋りながら廊下へと押し出されて行った。


 シンシアさんは戻って来ると椅子を一つ持ってきて俺に座るように促し、俺が座ると手錠を外してくれた。


 手錠地味に痛かったし邪魔だったから嬉しいけど、外しちゃっていいのか?


「お騒がせしました。私はシンシアって言います。こんな所まで来て頂いてすみません。フィアを助けて頂いてありがとうございました」


 シンシアさんは頭を下げてお礼を言ってくる。

 その動作はとても綺麗で、さっきまでの光景が嘘のようである。


「いや、頭を上げて下さい。今回助けて貰ったのは俺の方ですし、むしろ足を引っ張ってすみませんでした」


 今度は雷人の方が頭を下げる。

 すると彼女は慌てたように言った。


「あっ頭を上げて下さい。こちらは仕事なので、助けるのは当たり前の事ですから」


「仕事……そういえばここは会社だと聞きましたが、何の会社なんですか?」


「あ、ご存じなかったですか? 弊社はですね。ホーリークレイドルという名前で、SSC、つまりスペース・セキュリティ・カンパニーなんです。その名の通り治安維持を行う業務を本業とする会社の一つです。とはいえ、業務は必ずしも治安維持ばかりではなくて、便利屋みたいな仕事をする事も多いんですよね。一応一般からの仕事も受けてはいるんですけど、基本的には宇宙警察ポリヴエルから仕事を貰って動いています。今回の仕事もそれですね」


「今回の仕事ってもしかしてあのロボットの?」


 雷人が聞き返すとシンシアさんは困ったような表情になる。


「えっと、すみません。詳しい事はお話し出来ないんです。こういった情報は機密事項なので、むやみに話せないんですよ」


「あっ、そうですよね。すみません。えっと……じゃあ宇宙警察ポリヴエルというのが何なのかを聞く事は出来ますか?」


 雷人がそう聞くとシンシアさんはキョトンという感じの表情になった。

 なんとなく分かってはいたが、やはり常識レベルの事なのだろうか?


「知らないんですか? 宇宙警察ポリヴエル。そう言えば、さっきもそんな事言ってましたね。てっきり恍けてるんだと思ってましたけど、ポリヴエルは宇宙警察のことです。宇宙全体の治安を守るために活動する組織ですね。でもやっぱり宇宙は広いですから、どう頑張っても手が回りません。そこで私達SSCが必要な時に治安維持のお手伝いをしているんです」


 それを聞いて雷人は手で口を覆った。


 薄々は分かっていた。

 考えないようにしていただけで、気付いていた。


 そうでなければ説明のつかないものも幾つも見た。


 これが仮に作り話だとしても、雷人一人を騙すには大仰に過ぎる。

 それにそこまでして雷人を騙す必要性だってない。


 そう考えると、考えないようにしていたこれまでの疑問は、認められていなかったもののほとんどは氷解した。


 その事実を飲み込むように雷人は自然と口に出していた。


「宇宙人は……存在するんですね」


 その一言は、まさに一連の疑問の確信を突いていた。

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