プロローグ
プロローグは前半と後半で視点となる人が違います。
***** の前後で切り替わります。
宜しくお願いします。
目が覚めるとそこは木々が鬱蒼と茂る暗い森の中だった。
顔を刺激する熱と光を感じる。
ふと光の方角を見ると、そこには悪夢のような光景が広がっていた。
家は煤を飛ばしながら炎を上げ、人々は苦しみ藻掻き、助けを求めて喘いでいる。
僕の隣には、熊の人形を抱いた少女が倒れていた。
少年は目に映るその光景に、黒々とした感情が理性を飲み込んでいくのを感じた。
少年は悲しみを、悔しさを感じながらも邪悪な笑みを浮かべていた。
少年は誓った。
許さない。
許してはいけない!
必ず、復讐してやる!
その時、普段は優しく朗らかであった少年の心は、暗い闇に完全に包まれた。
微かに近所に住んでいた少女の顔が思い出されたが、それは今となっては心の闇を深くするものにしか成り得なかった。
そうして少年は倒れていた少女を抱えると、ゆっくりと立ち上がり森の奥へと歩き出した。
暗い、暗い闇の中へと……
*****
子供のような小さい体、幼さの残る顔立ち、だというのにそれに合わない大人びた雰囲気を持つ女性。彼女は、それを見ていた。
ぼんやりとしている。明瞭でない夢。
いや、それは夢であって、夢ではない。
「ごめ――さい。それでも――――――生きていて欲しいの」
「――ア! ――て、俺は―――――」
一人の少女が、涙を流しながら歩いていく。
その少女に向かって叫ぶ男、だが、その顔も、姿も、不明瞭で不確かだ。
ただ、その少女の姿ははっきりとしていて、それは、確かな存在だと感じられた。
少女が光る。
神々しいほどに、眩しい光。
光が闇を照らしていく、世界から闇を遠ざけていく。
「――――――――。さようなら」
「――。――――――。―――!!」
少女の体が、光の粒に変わっていく。
少女の体が、世界に溶けていく。
男はただ、何かを叫んでいる。
しかし、その内容も、それが誰なのかも、その女性には分からない。
そして、少女は最後に優しい、しかし、どこか悲しい笑顔で言った。
「愛してる」
男が伸ばした手は、腕は空を抱く。
ぼんやりとして不明瞭、しかし、その想いは伝わった。
そして、どれくらいが経過したのか、世界は滅んだ。
その女性は見ていた。
不明瞭で不確かで、時間さえも分からないが、確かに見た。
何という悲しい夢、何という恐ろしい夢、何という――。
「未来でしょうか……」
女性は、涙を流し、ゆっくりと瞼を開いた。