出会い -港町編-
ウェストリアの旅立ち前の出会いと観光、波乱編です。
一夜を過ごした町を出て、地図を確認しながら2時間ほど空と大地を歩き分けながら進みます。
途中、"深き林"という清流の流れる美しい林の中で休憩をしていた時のことです。
突然辺りに響き渡る大きな音がして、何かが近づいてくる気配を感じました。
どうしましょう。魔物だとしたら今すぐ逃げないと間に合いません。とりあえず空へ逃げますが、飛ぶ魔物だったらまず追いつかれてしまうでしょう。久々に命の危機を感じながら音の正体を確かめます。
ガサガサと草木を掻き分け出てきたのは…コウモリ?
コウモリのような魔物?がフラフラと飛んで来ました。よく見ると怪我をして血を流しています。
私が敷物を広げていた地点くらいまで頑張って飛んでいましたが、とうとう地に落ちてしまいました。
…助けた方がいいのでしょうか?
しかし、コウモリ(?)からは魔力を感じるので、どうやら魔物のようです。魔物だったら私が襲われてしまいます。他にもあの子を襲った魔物がいたら私は逃げるしかありません。
散々迷った挙句、助けることにしました。
気配を探ると周りに襲った何かはいなさそうですし、たとえ魔物であっても弱った子を見捨てる訳にはいきません。
コウモリが倒れた地点まで飛び戻り、旅行鞄から救急セットを取りだして応急処置をします。私はよく無茶をして怪我をしていたので持ってきたのですが、意外な所で役に立ちました。備えあれば憂いなし、ですね。
消毒液で傷口を消毒し、傷を癒す薬草をガーゼで固定して包帯で巻きます。
可哀想に、羽が破けてぼろぼろになってしまっています。特に何か強い力で引っ掻かれたような傷が深刻で、応急処置は気休め程度にしかならないでしょう。早急にお医者さんに見てもらう必要がありそうです。
この世界に動物医の方はいらっしゃるのでしょうか?
コウモリはぐったりとしていて意識を失っているようです。私が触ってもピクリともしませんが、辛うじて息はあります。しかし、いつ死んでしまってもおかしくないくらい弱っているように見えます。
港町へ急がなければいけません。
『虹の起動印:マッハ』
魔法を唱え、自分の体にブーストを掛けてフルスロットルで空中を駆け抜けます。周りの景色が目まぐるしく変わっていって目が回りそうです。こんなにスピードを出したのはイーライ公爵家ご子息の暗殺未遂を防いだ時以来でしょうか。
あの時、自分の限界を超えてブーストを掛けたおかげで魔法に磨きがかかった気がします。3日ほど死神さんと攻防を繰り広げていましたが。
川を越え、小さな村を超え、やっとのことで港町に着く事が出来ました。まだ周りの景色が動いているような感覚が残っていて、少しふらふらします…
優しそうな門番さんに身分証のプレートを確認してもらいます。
実は前の町も入口で身分を確認して貰わなければならなかったのですが、身分証を持っていなかったので問題事を避けるため、こっそり空から入らせていただきました。これは内緒です。
無事身分を確認出来たところで、この町に動物医がいらっしゃるか聞きます。
「町のどこかに動物医の方がいらっしゃるかご存知ですか?動物の怪我を治してもらいたくて。」
「それならマカシャんとこの医院がいい。あそこは腕が確かだから安心だよ。早く見せに行っておいで。」
門番さんは丁寧に場所を教えてくださいました。お礼を言って別れ、教えて貰った場所へ急ぎます。
賑やかな大通りから外れた細い路地を走っていくと、ログハウス調が目印のお洒落な建物が見えてきました。間違いなく教えていただいた医院です。
扉を開きましたが、誰もいません。
もしかしてお休みなのでしょうか?そうだとしても、扉の施錠を忘れているのが不自然です。開いていることを祈ります。
「すみません!マカシャ先生はいらっしゃいますか?怪我をした魔物を治療して頂きたいのですが!」
「はいはい、今行きます。」
声を張り上げると、奥の方から灰色の髪をした美丈夫の方が出てきました。どうやら教えていただいた先生のようです。良かった…
「お待たせしたね。それでは早速、治療したい魔物を見せてくれるかい?」
私がコウモリを見せると、マカシャ先生は少し驚いたあと深刻な顔をします。
「この処置は君がしたのかい?応急処置とはいえ上手に出来ている。しかし酷い傷だね。なにか強い魔物にやられたのかもしれないな。」
「はい。私が見つけた時は既に傷だらけで、何かに追われている様子でした。」
「ふむ…とりあえずこれはすぐにでも治療した方が良さそうだ。しばらく預からせてもらうが、いいかい?」
「もちろんです!この子を救ってあげてください。お願いします!」
「わかった。治療をしている間はそこのソファに座っていてくれて構わないよ。大丈夫。これくらいなら何とか治すことが出来そうだ。」
深く頭を下げると、マカシャ先生は優しく私の頭を撫でてひとつ頷き、奥の部屋へ入っていきました。
それにしてもかなり深い傷だったのですが、これくらいと言ってのけるなんて、本当に凄い先生なのでしょう。
少し安心してソファで待ちます。
どれくらい経ったでしょうか。先生が部屋から出てきました。
「先生!コウモリは?」
「大丈夫。かなり回復して今は眠ってる。」
「よかった…ありがとうございます。」
「助けられてよかったよ。怪我の処置が的確でそこまで深刻な状態にはならなかった。君は応急処置が上手なんだね。」
「いえ、私がよく怪我をするので何度もやっていたら慣れていただけなんです。」
「そうか。君も怪我をしないよう気をつけるんだよ。跡が残ったら大変だ。」
そんなことを言われた事がなかったので、少し照れてしまいます。
何だか暖かい目で見られて更に恥ずかしくなってしまいました。
「ああ、それとあの子はどうやら魔物のようだ。体から魔力を感じた。見たことのない魔物だから少し驚いたよ。」
「やっぱり魔物でしたか。先生でもご存知ない種類なんですね。」
助けた時に魔力を感じましたが、やはり魔物でした。
ある程度公爵邸の図書館で魔物の種類は勉強していたのですが、大型のコウモリのような魔物はいても、あの子のような小さくて角が生えた種類はいなかったはずです。
「ああ、長年動物医をやっているがあんな種類は見たことがない。どこで助けたんだい?」
「"深き林"です。地図で確認したのでおそらく間違いないと思います。」
「結構遠い所から来てくれたんだね。ここまで来るのに時間がかかっただろう?確かあそこからは1日ほど歩かなければならないはずだ。危なかっただろうに、よく頑張ったね。」
「そ、そうですね。でもかなり急いだので早く着くことができました。」
マカシャ先生は女の子の一人旅ということでかなり心配して下さっているようです。また頭を撫でてくれました。マカシャ先生に撫でられると不思議と落ち着きますね。
何だか空を走って1時間ほどで着いたとは言い出せない雰囲気です。少し目を逸らして同意しておくことにします。
「ああそうだ!君の名前を聞いていないし、僕もしっかりとした自己紹介をしてないね!うっかりしていて申し訳ない。
えっと、改めてまして僕はマカシャ。動物や魔物を専門とする医者をやっている。君はどこで僕のことを知ったんだい?ここはなかなか知っている人は少ないはずだ。」
「私の名前はオリエンタです。先生のことは門番さんに教えていただきました。」
「オリエンタちゃんか、可愛らしい名前だね。そうか、門番か。きっとシルーラの事だな。」
「ご存知なんですか?」
「ああ、あいつは僕の古い友人でね。長い付き合いなんだ。あいつが担当の時に来てくれて本当に良かった。」
「シルーラさんには今度お礼をしなければいけませんね。」
「そうだな。あいつには感謝しなくちゃな。」
マカシャ先生はそう言って楽しそうに笑いました。きっと本当に仲良しなのでしょう。なんだかほっこりします。
「そうだ、あの子はまだ回復するまで時間がかかるだろうから、せっかくだしこの町を観光してきたらどうだろう?僕が見ておくから。」
どうしましょう。船の下見をする予定だったので、有難く甘えさせていただきましょうか。
「ではそうさせていただきます。何から何までありがとうございます。」
「いいんだよ。生き物に優しい君なら大歓迎だ。楽しんでおいで。また明日、いつでもいいから来てくれたら嬉しいな。」
「わかりました。あの、この町の美味しいご飯屋さんはありますか?お腹が空いてしまって。」
前の町の宿で食べてきた朝ご飯から何も食べずに全力疾走してきたので、お腹がぺこぺこです。
「うーん。それならこの家を出て、路地を抜けたら右に曲がって2つ目の道を左に曲がったところに "ナラード"という食堂があるんだけど、そこの魚を使ったサンドイッチがおすすめだよ。あそこのサンドイッチは本当に美味いんだ。」
「ありがとうございます。行ってみます!」
「せっかくこの町に来てくれたんだ。楽しんでおいで。」
マカシャ先生に見送られながら美味しいお昼を求めて"ナラード"を目指します。