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旅立ち

「ウェストリア・ルーベスト!私は今ここで貴殿との婚約を解消する!」


王子殿下の朗々たるお声が華やかな学園卒業パーティーの会場に響きわたります。


今ここで、私のささやかな努力は風の前の塵と化したわけです。こんなに熱い目を向けられたのは初めてのような気がします。燃え上がってしまいそうです。物理的に。


「貴殿は私の婚約者という厳粛な立場にも関わらず、シャリア・イースティウム嬢に度重なる悪事を働いてきた!」


殿下の言葉の半分も耳に入らず、私は感動とほんの少しの虚しさでむせび泣いておりました。これで私は無事バッドエンドとなり、晴れて自由の身となるのです。


途中で攻略失敗を示すイベントが発生したので早々に諦め、逃亡の準備をしたかいがありました。


「これまでに沢山の陰口を叩き、取り巻きを扇動してシャリア嬢を虐めるよう唆したり、お前の暴挙は最早未来の王妃とは程遠い醜いものだ!さらにお前はーーー」


あ、貴殿からお前呼びに変わりました。愛するシャリア様を貶めるような真似に、余程ご立腹だったようですね。表主人公のシャリア様は王道ルート攻略という厳しい道のりを見事制覇なされたようです。

おめでとうございます。イバラの道を抜けた先の輝かしい未来を是非堪能していただきたいものです。


それにしても殿下のお話は長いですね。私早く旅立ちたくて仕方ありません。


「ーーこれによりシャリア嬢が受けた心の痛みは計り知れーー」


「はいかしこまりました。婚約を破棄いたします。殿下とシャリア様には返す言葉もございません。今この場でシャリア様への度重なる非礼をお詫び申し上げ、私は貴族の資格を返上致し、皆様の前から永遠に姿を消すことを約束致します。」


「なっ!」


私の発した言葉に殿下は目を見開き、シャリア様は何か言いたげにしています。

それもそのはず。私は一切シャリア様のことを虐めてはいないのです。つまり私は嵌められたのです。


以前から殿下に「取り巻き」と呼ばれた方々に私は虐められていました。

ある時はシャリア様を階段から落とした犯人に仕立てあげられたり、またある時はシャリア様のドレスをずたずたにした濡れ衣を着せられたり、またまたある時はシャリア様のお命を狙った犯人にされてしまったり、私を婚約者から引きずり下ろすために、殿下お気に入りのシャリア様への虐めの罪をなすり付けてきた彼女らですが、私は一切濡れ衣を否定しませんでした。


殿下のお気に入りの令嬢の暗殺を企てたとなれば殿下は堪忍袋の緒が切れるでしょう。完全にアウトです。


しかし、あえて私は罪を認めることでこの状況を利用し、婚約破棄エンドに持ち込めるよう誘導したのです。


お優しいシャリア様は私の濡れ衣を否定してくださいました。


……………………………



「ウェストリア様はそんなことをしていません!私が保証します!ウェストリア様のお優しさは私が一番知っています……お願いですから、罪を否定なさって!」


「ありがとうございます。嬉しいですわ、シャリア様。ですが私は、シャリア様の幸せを一番に祈っているのです。そのためには殿下の婚約者である私は退場する必要があります。シャリア様に殿下をお支えして欲しいのです。どうかお分かりになって。」


「でも!」


「私のことはお気になさらないで、シャリア様。シャリア様が私のことを庇っても、殿下はシャリア様のお慈悲に感激するだけでございましょう。ですからどうか、お願いを聞いてくださいませんか?」


「どうして…どうしてそこまでウェストリア様は私に尽くしてくださるのですか?ウェストリア様は殿下のお隣に立てるほど素晴らしい方なのに…」


私は軽くウインクしながら言います。


「私は、悪役令嬢ですから。」



……………………


シャリア様は涙をいっぱいに溜めて何度も私を引き止めてくださいました。その度に私は彼女を説得し、なんとかハッピーエンドに持ち込ませたのです。そうしなければ、シャリア様と私は共倒れバッドエンドになってしまいます。


これがきっと、最善だったのでしょう。


私は優しく思いやりがあり、清らかなシャリア様のことが大好きでした。


シャリア様を守るためには私がバッドエンドになり、彼女がハッピーエンドを迎える必要があるのです。


私が断罪されている今も、シャリア様は殿下のお隣で泣きながら何度も私の罪を否定なさろうとするので、その度に私は彼女に大丈夫という気持ちを込めて微笑みます。


あなたに無実だと知っていて頂けるだけで、私は十分なのです。


さあ、あと一押し。これでピースは揃いました。


「で、ではお前は罪を認め国外追放を受け入れるのだな?」


「はい。謹んでお受け致します。では私はこれにて失礼致します。さようなら皆様、永遠に。シャリア様、どうかお幸せに。」


早口でまくし立てた私は殿下とシャリア様に最敬礼をとり、涙をぼろぼろ流しているシャリア様にウインクしました。


そして、皆が呆気に取られている中颯爽と舞踏会場を後にします。

最後だけはかっこよく去りたかったので大成功です。


扉を曲がったところで窮屈なピンヒールを脱ぎ捨て、魔法を発動させます。


『空の起動印:空の扉』


魔法陣が出現し、その中に手を突っ込んで歩きやすい靴を取り出します。この魔法は自分だけが取り出せるポケットのようなものです。他にも色々詰め込んでいます。

ついでに髪を留めていた綺麗な髪飾りも放り込んでおきましょう。

高く売れそうですしね。


家を叩き出される前に全速力で荷物を取りに帰ります。

速く速く、もっと速く。走れ私。


『空の起動印:空歩』


魔法を起動して空を走り、ものの5分で王都の公爵邸に着いた私は

メイドに気づかれないようこっそり窓から自室へ浸入しました。

気分はいつぞやの暗殺者です。殺害対象はいませんけど。


無理やりイブニングドレスを脱ぎ捨て、用意していた魔法の旅行鞄の中からシンプルなワンピースを取りだします。

重たいドレスから解放されて爽快です。


長い髪をばっさり切り落とし、目立つアメジスト色の髪を真っ黒に染めます。この染料、なかなか落ちないのでとても優秀です。お忍びで街を歩く時や、変装をする際に大活躍しました。


軽量化と容量増加の機能がある旅行鞄と、家族で唯一優しくしてくださった亡きおば様の形見のペンダントを取りだし、再び窓から出て空を走り出します。


私はもう自由。なにをしても誰にも咎められない旅へ、さあ出かけましょう!


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