序章
私は名も無き考古学者。享年32歳のアラサーです。
輪廻転生を果たした今の私は、ウェストリア・ユリア・ルーベスト。前世の記憶を引き継いだスフィア王国の名門貴族、ルーベスト公爵家の長女です。
そして、乙女ゲーム「溢れる愛を受け止めて」の裏主人公。
この「裏」の意味を解説するには、まずこの乙女ゲームが何たるかを説明しなければいけません。
このゲーム、難易度が鬼畜すぎることで有名だったのです。
前世での私の友人が怒り狂いながら説明してくれました。今も元気でやっているでしょうか。
まず物語が長い。1人攻略するのに何十という選択肢を上手く選択していかないとクリアできませんし、少しでも選択肢を間違えるとあっという間にバッドエンド。
攻略対象が待ってましたとばかりに主人公を断罪して、悲惨なエンドを迎えてしまいます。むしろ攻略対象者の方々は主人公を殺したいんじゃないでしょうか。知りませんけど。
怒り狂った友人が何度もコントローラーを投げつけていました。血管、ちゃんとケアしてるでしょうか。
ご愁傷さまと主人公を哀れな目で見ていた私ですが、今は全然笑えません。せめて町娘Aとかに転生できていたら…。悔やんでも悔やみきれません。
存在するか分かりませんが神様、私は前世で大罪でも犯しましたでしょうか?ここは地獄ですか?
しかしこのゲームの鬼度合いはこんなものではありません。むしろここからが鬼畜ゲーと呼ばれる所以です。嗚呼目眩が…
先程までお話した攻略のお話はあくまで「表」の主人公のことです。
私が転生したルーベスト公爵家が長女「ウェストリア・ユリア・ルーベスト」は、難易度表の主人公のハッピーエンドを見て始めて開放される、表では所謂悪役令嬢と呼ばれる立ち位置でした。
ウェストリアが主人公となると案の定難易度はさらに悪化。一部では攻略不可と呼ばれるほど何をしても断罪エンドへまっしぐらの終わっている人物なのです。
前世が考古学者の私には畑違いもいいところです。
そんな絶望を抱えた私ですが、唯一救いがありました。
この世界の舞台は剣と魔法。未知なる世界で未知なる力、魔法が使えるのです。例にもれず私も「空」という属性の魔法が使えます。
空属性、なんと空を走ることが出来るのです。他にも色々と便利な機能があるんです。
私、習得に頑張りました。習得の過程が頭おかしいですが。全部攻略対象の皆さんのせいです。もっと楽しみたかったです。
空属性の魔法は移動や利便性に特化した魔法らしく、生活の利便性は飛躍的に向上したように思います。
今すぐこの狭い貴族社会を飛び出して、広い世界へ走り出したいものです。
更に前世考古学者であった私には嬉しいことに、この世界にはまだまだ知られざる秘境や遺跡があるというではありませんか。
公爵邸にある図書館に何度も通い、沢山の民話や神話、地図などを読み込みました。この世界の事前知識はばっちりです。
たくさんの絶望と未知の世界への少しの希望をぎゅうぎゅうに詰め込んだ私の心を奮い立たせ、私はこの絶望のゲームの攻略に乗り出しました。
まあ、失敗したようですけどね。