オスカーの思い
そろそろストックがなくなったので配信スピードが落ちるかもしれません。
「ルイ!遅いぞ」
ソフィーが応接間に入った瞬間オスカーがパッと顔を赤らめて言う。
「オスカー。お前…人んちに押しかけて侍女口説くとか本当にやめてくれよ」
「だってミューゼル家の侍女ともなれば優秀な人材だろ。懇ろになって我が家に招ければタナボタだなって」
「そういうことは思っていてもいうもんじゃありません。」
オスカーはルイとのじゃれあいを楽しんでいた。
「公爵家では侍女はもちろんのこと下男でも大切な家族の一員と思っているから変なことしたら暫く遊びたいなんて思えなくしてやるからね。」
ルイから忠告を受けたオスカーははあいと肩を竦める。
「それより、こっちに来たら建国祭出られないじゃないか」
「それはルイもだろう」
「私はいいんだ。家族同然の人の結婚式の方が大切なんだから」
「ルイがそんなにご執心とはさては昔なにかあったな?」
…ソフィーにとっては迷惑かけたけど小さい頃から一緒に育った可愛い友人みたいなつもりだ。
「…姉のような人だ。
それはそうと、我が領地にも建国祭に合わせて小さなお祭りをするから、オスカーも出てくるといい。」
「それはいいな。この辺は門外漢だから、お前案内してくれよな」
―――山賊の拿捕は、尋問の時間を鑑みても明日にでもしたい。
お祭りに繰り出す時間は自分にはないが。
待てよ。確かオスカーの領地でも山賊による被害が増えてると言っていたな…
こいつを巻き込んで戦力にして、尋問の結果によってはどこか繋がっているかもしれないからそうすれば互いの利益には繋がるか。
「オスカー。
私が領地に戻ってきて分かったことがある。山賊が思っていたより武力化を強めている。
だから、これを明日にでも拿捕して原因分析をしたいと思っている。確かお前の領地でも同じく武器の調達が早く被害が拡大していると言っていたから、何か解決の糸口になるかもしれない。協力してくれないか」
「それが終わったら、お祭りデートな。」
「わかった。明日の日中行くから女にうつつをぬかしてないでしっかり休めよ」
そういうとルイはそのまま執務室に戻って護衛団長、騎士団長を呼び、
相手方の想定される総数と基地の場所、途中ありそうな罠のポイント、拿捕のタイミング、収容施設の手配などを話し合い日中のみ行動夜間は向こうに地の利があるため撤退、行方不明者の捜索も一時停止を決めて解散した。
状況報告を伝書鳩で父に報告する。
オスカーが来たため、このまましばらくはルイで活動せざるを得ないから、ソフィーは日報も兼ねて王都にいるルイ宛にも状況を伝える鳩を飛ばした。
その日の夜、ソフィーが残務処理しているとオスカーが執務室にやってきた。
「明日に向けて景気付けに一杯飲まないか」
普通の令嬢ならば夜半に男性と二人きりになることはあり得ないが、今は令嬢ではないので、誰か気を遣って近くに控えているとかえって不自然になる。
かと言って、サク飲みを断る空気でもない。
殆どやることは終わっていたので、ソフィーはワインとドライフルーツを用意させた。
用意してくれたセバスチャンが物言いたげにチラリとこちらをみたが、ソフィーは一杯だけだからと下がらせた。
オスカーは、どの子が可愛いだのあの寡婦との夜伽がいいだの、尽きることなく話す。
「下女や下流家族の侍女なんかは、気を使わないから気が楽で楽しめていい。
でも、価値観が合わないのがいただけない。
上流貴族で寡婦の相手も後先考える必要がなくて気楽でいいが、気位が高いマダムが殆どで、結局心が休まらない。
中流貴族で、家の心配をする必要のない次女三女あたりで、おっとりむっちり美女が狙い目だな。」
ソフィーは全く同意できないので、適当に相槌を打ってのんびりワイングラスを傾ける。
「おいおい。余裕ですなルイ貴公子は。気になる女性はいないのか?」
オスカーはワインをついでくる。
「俺は所詮貴族だから家柄にあったご令嬢と政略結婚して子供を設けないといけないからあまり自分の希望を持つだけ損だから、考えないようにしているんだ。もし自分の好みをはっきり意識したときに、令嬢が好みでなかったときの悲劇を考えてみろ。外に愛妾を囲って、嫉妬に狂う正妻。いやいや子作りしても愛妾に子供でも生まれてみろ。血で血を洗う相続争いの出来上がりだぞ。俺は穏やかな家庭がいい。」
オスカーは少し申し訳なさそうな顔をした。
「俺は、何もかも恵まれた幸せな坊ちゃんだと思っていたんだが、必ずしもそうではないんだな。悪かったな」
そう言ってワインを煽った。
「お前なぁ・・・このワイン、結構いいワインなんだから安酒みたいな飲み方するなよ」
そう言いながらソフィーは案外このワイン軽くてイケるわ、と一杯のつもりが自分もくいくい飲んでしまった。
二人は同じ貴族だけど、立場の違いは大きいということを肌で感じながら気疲れしていたのか、
うとうとして来てしまった。
蝋燭の火がほんのり酔ったソフィーを艶かしく照らす。
唇は赤ワインで少し紅く色づいて、てらてらと光って艶かしい。
目はトロンとして物憂げだ。酔って少し暑くなったのか首元をきっちり留めていたボタンを一つ外す。
しばらくするとスースーと寝息を立て始めた。
それを見ていたオスカーは、「おい、こんなところで寝たら風邪ひくぞ」と声をかけたが起きない。
近くに寄って肩を揺らそうとして顔を覗き込んだオスカーはそのまつ毛の長いことにはっとした。
思わず口付けていた。
「ん・・・」
ソフィーが目を覚ます。
それでも止められなくてオスカーは貪るようにソフィーに口付ける。
ソフィーはびっくりするがオスカーはやめない。
「ん・・・ふっ・・・お、オスカー・・・、や、やめ・・・」
オスカーは舌を絡めて離さない。
唇を優しく噛まれては激しく舌を入れられ、その柔らかいキスに体が勝手に疼いて声が漏れてしまう。
「ん・・・はぁっ・・・、や、いやっ・・・オスカー・・・やめてっ・・・」
涙で目が潤んだソフィーを見たオスカーは、理性が吹っ飛んでしまって押し倒す。
力強い手にガッチリと手首を抑えられて耳を舐められる。
「やぁ・・はん・・・っ!!」
首にキスをされてソフィーもクラクラして甘い声が出てしまう。
それでも、これ以上はまずいと思ったソフィーは思いっきり股間を蹴り上げた。
「はあっ、お、オスカー、お前、見境なしで手を出すなんて見損なったぞ・・・。
今日のことは無かったことにするから、とにかく早く寝ろ。」
ソフィーは逃げるように部屋を出てあとの片付けをセバスチャンに言い残した。
寝室には当然、鍵をかけて誰も入ってこられないようにした。
ソフィーは、このことをルイに報告するのかと思うとげんなりして考えないように布団を頭からすっぽりかぶって寝た。
オスカーは、お預けを喰らったが自分のルイに対する気持ちをはっきり自覚した。
ーーー俺はずっと自分にぴったりの女を探し求めていたが、出会えなかった。
それは、相手が女では無かったからなのか・・・ルイが欲しい。ルイと一緒にいられればそれでいい。
ルイが正妻を迎えても昼も夜も俺が側にいたい。
今夜は無理してしまったが、明日からどう攻めたものか。
そんなことを考えていると空が白み始めた。