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領地にて

ソフィーは先日父親の執務室で話した通り、領地に向かっている途中だった。


ーーー今頃はシャルロッテ王女のドレスと小物選びでルイも頭の中妄想フル回転で楽しんでいる頃だろうなぁ。


ルイとして帰郷するので、馬上でぼんやりとそんなことを考えていた。


公爵領は王都の南西に位置し、海あり山あり風光明媚な場所である。

王弟の父が貰い受けた土地なので、広大ではないのだが飛び石でいくつかの領地を持っている。


領地までは馬を走らせると4日の距離、馬車で優雅に帰ろうものなら休憩をこまめに挟んで7日はかかる。

あまり準騎士の仕事も休むわけにも行かないので2週間できっちり終わらせて帰って来たいと思っている。



ーーー令嬢の姿で帰るのは面倒だわ…「ソフィー」が帰るときはよく考えて馬車と組み合わせないと。





それにしても。

お父様が帰っていらして、ルイお兄様と話したけれど、やはり何かきな臭い気がすると意見が一致した。



最早お父様は私が領地経営についてお兄様とあれこれ話していることについて特にお小言はないけれど、今回の帰郷に関して危ないことは絶対にしないように、と口すっぱく言われた。



ーーー当たり前ですよ、私も貴族令嬢の端くれ、自己管理はきちんとします。

誰かに迷惑をかけるような軽率な言動も、考えて控えられる。


でも、いつまでも小さな娘のように大切にしてくれる父がくすぐったい。






私が帰郷するのは、向こうの侍女頭の娘で幼い頃から親しく遊んだリリーが結婚するというので結婚式に出たいから、という理由をつけた。

実際結婚式にも出る。そのついでに、本当にちょうどいいですね!私調べるのに指示して来ます!

とニッコリ言いくるめた。


実際父は建国祭を控えて公務が忙しいので領地に帰る余力はない。

私はどのみち帰るのだから、ついでといえば渡りに船なタイミングだったのだ。




私は父に、

…ほとんど上級侍女として王宮に上がっているが、たまにルイと入れ替わっているようだ、

と思われていることを知っている。



…ほとんど準騎士として王宮に上がっているが、たまにルイと入れ替わっている、が実際なのだが。

そりゃぁ、お父様、心配のベクトル、めちゃ正しいです!感度がもうちょいだけどね!!



馬車でお嬢様よろしく帰ると荷物も増えるし安全も男だと思わせた方が高まるからという理由で

今回は外向きにはルイが帰るということにしてもらったのだった。








現地に行って、物の流れを調べてもらうための指示や今後の対応などを帰って領主代理と会話予定だ。












領地に入り、邸宅が見えて来た。

公爵家の邸宅としては小ぢんまりとした、それでもセンスの良さが分かる清潔感ある気持ちの良い家だ。

夕焼けの空が真っ白な邸宅をオレンジ色に染める。


子どもの頃は基本的にこちらの領地に住んでいたが、小姓を始めてからタウンハウスでの生活がベースになっている。

小さい頃はピクニックにいって、帰ってくる頃にはこんなオレンジ色の邸宅を何度もみた。






「ルイ様、お帰りなさいませ」

こちらの執事のセドリックが待っていてくれた。


「ただいま。

 早速だがあまり時間がないので支度をしたら現場だけ簡単に報告してもらえるかな」


「かしこまりました」



ソフィーは、長旅の疲れを癒したくて湯あみをしてからルイの服をパッと着て執務室に向かう。







「お疲れ様でございます。

 早速ですが、領主代理殿には明日午前中に来るよう申し伝えております。


 事前にご連絡いただきました、犯罪率増加について具体的には一昨年の同四半期と比較して検挙率が10%増加しております。

 内容分析を致しますと、山賊による被害が増加した内の70%を超えております。」


「ふむ…何故山賊による被害が増加したかまでは分かっているか?」


「現在領主代理殿が調査中でございます。」


「わかった。詳しくは明日確認する。

 必要に応じて追加調査するので、その際はうちの騎士も借りるよ。」


「かしこまりました。」


「リリーの結婚式が5日後だから、その日は私は動かないけど、他の日は領地視察したいと思っているのでそのつもりで。

 それでは、晩餐を頂いて惰眠を貪っても赦されるだろうか?」


ソフィーはパチンとウインクして部屋を出た。







2週間の休みで、往復の移動時間を考えて結婚式に出ると自由に動けるのは5日間しかない。

なんとしてもサクッと尻尾を掴みたい。







翌朝、領主代理のファーレンハイト子爵がやってきた。早速状況報告を求めたところ、ある程度は整理できていた。


「山賊の被害報告を受けつつ、取り逃している件が多く、今までは被害届に応じて検挙もできており犯罪発生率が一定水準だったのが転じてじわじわ伸びてきて

いるのが現状にございます。」


「うーん…取り逃すようになったのは何故でしょうか。

 山賊の人数が増えた?憲兵隊の質が落ちた?或いは別の視点でしょうか?」


「責任逃れではございませんで、山賊の組織化がされている点と、新しい武器の導入によって憲兵隊の被害が出ており積極的になりきれない点がございます。」


―――うーん、なるほど、これは面と向かって報告しないと職務怠慢に取られかねないから書面では報告しづらかったのかぁ…


ソフィーは納得したものの、どこから手をつけようか考えあぐねた。



「では、山賊の組織化と判断する由来の精査と新しい武器の対象明確化を明日までに書面でセドリックまで報告して下さい。

 また、山賊の組織ヒエラルキーで分かっている人物だけでいいので情報が欲しいです。ここ10年では少なくとも組織化する程の集団ではなかったはずなので、何故組織化出来るだけに至ったかが気になります。

 武器についても、もしバックに誰かいるようであれば探りたいので調査を続けてください。

 山賊に間諜を追加で送る必要があれば報告して下さい。」


ソフィーは出すべき指示は出して、子爵を下がらせた後セドリックを呼んでお茶を飲みながら午後は領地視察に行くことを告げた。






今日の午後はひとまず指示を出したので待ちになるため、ソフィーの町歩き用のワンピースを着て修道院に向かう。


領地に戻ることを決めた時点で訪問先とおおよその予定はたてて先ぶれも出してあるので受け入れはスムーズである。




途中、菓子屋により日持ちする焼き菓子を三つ買った。




「ソフィー様、ご足労いただきありがとうございます。」

「院長先生、ご無沙汰しております。

 物資などは不足ございませんか?」

「はい。お陰様で、なんとかやっております」

「今年ギルドに行く子はカインとノアですね。この後ギルド方面に行くので声をかけておきますね」

「まぁ、ありがとうございます」


子どもたちは甘いお土産をくれるお姉さんに大喜びだ。




ソフィーはこの後二箇所の修道院を周り、差し入れをしてギルドが集まる地区に向かった。





ギルドマスターのミラーは人好きのする笑顔でソフィーを迎え入れた。


「やぁ、ソフィー嬢さん、元気そうだね」

「お陰様で!リリーの結婚式に出るのに張り切って帰ってきちゃったわ!」

「あのおさげのリリーがねぇ…年取るわけだ」


ミラーは40半ばの壮年らしい、安定感がある。

少し明るい茶色の髪には白いものも混じってきた。

明るい性格もあって気難しいギルド員から慕われる稀有な存在だ。



「で、嬢ちゃんはなんのようかな」

「もぅ。素っ気無いんだから。そんなんだと貴方の天使マリー姫に貴方から教えていただいたあんな事こんな事教えるわよ」

「おいおいおい、マリーはないだろ。つかまだ6歳だから何もわかんねぇよ」

「…ものは試しよね」

「目がマジだからやめて。

 で、山賊の件ならギルド員からも憲兵隊に人出してるから確認したけど、飛び道具使ってるね、彼ら。

 仕留めたやつの所持していた銃が、ラビア産の銘打ってあった。」

「ラビア産…」




ラビアはこの大陸の北に位置する「商人の国」だ。

何でも売る。

北の大地は広大だが、寒すぎてなかなか資源が手に入らず色々工夫をして貿易で国を守っている。


問題は何故、そのラビアの銃が、この小国の領地にいるちんけなチンピラ山賊までが手にできるのか、だ。



―――あー、せっかく来たけどきな臭いにも程があるわこれ。お父様に丸投げよう。


ソフィーはガッツリ心の中で誓った。

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