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ソフィーの事情

ソフィーはとにかく元気な子どもだった。

公爵家では、何をしても天使のようだと愛されて

庭を駆け回ったり、池で水遊びをしても女の子らしくない、と目くじらを立てる人は誰もいなかった。


ルイは体が弱く、病がちで部屋で療養していることが多かったけれど、

花を摘んだり、その日に捕まえた虫を見せにいったりして、毎日ルイとお喋りして楽しく過ごしていた。





7歳くらいの頃、公爵家に騎士が出入りしていた際に、盗み見たキリッとした様子が格好良くて、父に頼み込んで騎士の小姓をやらせて貰った。


頼んだのがソフィーだったなんてお父様は気がついたなかったみたいだけど、淑女教育の手を抜いて騎士見習いに励むと一瞬でこの生活は終わるぞとルイに指摘されて、真面目に両立した。





小姓をしていると、馬の世話や甲冑の整備、雑用もして騎士連中から随分可愛がられた。


同じく小姓をしている子どもには、おきぞくさまのきまぐれとやっかまれたけれど、

何せソフィーは家から通いだし、身分があるのは事実だから、そこそこに虐めさせておいた。



でも、後から来た小姓を虐めるのは見てられなくて、殴り合いの喧嘩をしてからは年下の子たちには慕われるようになった。


その日、侍女の細い悲鳴が屋敷に鳴り響き、傷が癒えるまで、癒しのソフィーに戻らなかった。

癒す側の顔に青痣あったら説得力ないからね。





準騎士になってからも体を鍛えたり、気の置けない友人と訓練をサボったりするのも楽しくて、ずっと、このままの日が続けばいいと思っていた。




ある日、ソフィーは突然女性の体になったことをきっかけに、自分はそう言えば女性だったことをはっきり自覚した。


「そうよね。そりゃ、そうよね。

 遠くないうちに婚姻して子どもを産んで、社交をこなしていく、そういう人生よね…」


でも、ちっとも楽しそうじゃないなと思った。




その頃から、兄が領地経営の勉強を始めると聞いてソフィーも心が浮き足立つのを感じた。









騎士になって身を立てる、というのは現実的ではない。

それはわかっている。



でも、ソフィーはこの愛しい環境にできるだけ長く身をおきたくて、兄にわがままを通して上級侍女の片棒を担がせている。



「実際には、王宮でさぞや楽しいお時間を過ごされていることと存じますよ。

 先日ブティックから生地を取り寄せて次回の夜会用のドレスを新調していましたから。」


「ケスラーには何でもお見通しよね。

 次の夜会は兄の番ですものね」



私たち双子は、夜会も変わりばんこで参加している。

前回は元の性別で出たから次回は入れ替り。


双子だからエスコートも「ルイ」で、何もかもやりやすい。



私がドレスを着る時は胸元も開いた動きやすいドレス、

ルイがドレスを着る時は露出控えめなドレスを着ているので、全く持って疑われないのだ。









「ルイ!昼飯まだだろ。一緒に行こう」

オスカーがすっとやって来た。


リヒテンラーデ侯爵家の三男であるオスカーは、三男であるがゆえに、スペアにもならない我が身を自分で立てないといけない。

私と同じ歳の頃には小姓を始めていた。


年が近い友人は殆どいなかったけど、こいつはやっかみもしないで仲良くしていて、最早腐れ縁だ。



昨日は馬上訓練で、オスカー相手に私が三連勝目をした。

それまで運だのなんだので、珍しくくさくさしていたので、急所をついて叩きのめしてやったらいっそせいせいしたらしく、もとのオスカーに戻った。



「ライバルと思っていたのに、負け続けて悔しかったようだ。

 なんか…悪かったな」


昼飯をかっ込みながら、オスカーが照れ臭そうに呟く。


「オスカー…


 いいんだ。気にするな。


 俺は、お前のことライバルとはこれっぽっちも思ってないからな。」


「ルイ!てめ…人が下手に出ればそういうこといいやがって…」


「じーさん、口から飯溢れてるよ」


「誰がじーさんじゃ!

 漆黒の髪、抜けるような青空の瞳に切れ長の眼、

 さらりとした身のこなし、

 女子の憧れを一身に受け取ってるわ!」


「うん、そうだね」


「流しやがって。。。

 そういえば、次の夜会にはまたソフィー嬢を伴って参加するのか?」


「うん、ソフィーも珍しくドレスを新調するみたいで楽しそうに過ごしているよ」


「はぁ…癒しのソフィー嬢かぁ。

 親友のよしみで紹介してくれよ」


「どういう親友かしっかりソフィーに伝えておいてやるから、夜会で直接話してくれ。

 確か…マリアだっけ?この間言い寄ってた侍女。

 忙しいからと嫌がるマリアをことあるごとに待ち伏せて西廊下のオリーブの植樹まで連れ込んで

 抱きしめてスカートに足を突っ込んで制服の上から…」


「っ、おい!も、もういい!!」


「いつでもどうぞ。じゃ、お先〜」




ひらひらと手を振って去っていくルイを恨めしい顔で見送りながら、

「…俺は、女が好きなんだよ。そのはずなんだよ。

 でも、ルイ。お前の頬に触れてみたい。その唇をなぞってみたい。」


ポツリとこぼした言葉は誰も聞いていない。







オスカーは、ルイと初めて出会った時のことを今でもはっきりと思い出せる。


オスカーはルイよりも2歳年上だったので、9歳になっていた。

今日から新しい小姓が来るから面倒を見るように、とお仕えする騎士から言われて、


ーーーめんどくせぇ。なんで嫡男のボンボンが小姓なんてするんだ。本当に邪魔くせぇ。



と、にこにこしながら心の中で悪態ついた。




そして、やってきたルイに目を奪われた。


新緑の季節、木漏れ日がルイをキラキラと照らす。


真っ白なシャツにベージュのズボンとハイソックスを履いて、清潔だが装飾がなく素朴な普通の格好で立っていた。


オスカーに気がついたルイがパッと笑顔でこちらに駆けてきた時に女の子かと思った。



日が当たりキラキラと金髪が眩しい。

ニコッと笑ったえくぼが可愛い。



「君がオスカー?

 僕、今日からお世話になる、ルイといいます。

 よろしくね」


声も鈴を転がすような声だ。


オスカーは、その時から何をするにもルイを優先して、まるで騎士の気分で、いられる時はずっと一緒にいた。




他のやつと仲良くするのが嫌で、虐められていることがわかっていてわざと助けなかった。




整った顔で侯爵家の息子ともなれば、女性関係には困らないのだが、まだ18歳で準騎士の身でもあるので、結婚は先の話と思っている。


だから今は自由に楽しい恋愛を次から次に味わっている。



ルイは身持ちがかたく、同じ男として浮いた話で盛り上がりたいのだがそんなそぶりも見せなくて、令嬢や侍女たちから絶大な人気を誇っているが本人はそれも鬱陶しそうにする。そんなところもカッコよくてさらにモテる。


オスカーは、自分の恋愛事情を相談したりはするが、

いざルイからもし女の話をされたら…と考えてみたらなんだかモヤモヤした。




最近のルイは、肌も抜けるように白くて

モヤモヤすることが多かったが、馬上槍試合で3回目に負けた時、手を取って立ち上がったあと、

ルイは被っていた兜をとって汗で張りついた髪を頭を振ってほどいた。



ふわりと薔薇のいい香りがした。


上気した頬が赤くて、唇も真っ赤になっていた。




オスカーは、モヤモヤしていた気持ちがなんだったのかようやく気がついたのだった。





ルイにそっくりだというソフィーとなら、あるいは…

と思って思わず話題に挙げたが、大切な妹でとても近づけそうにない。



オスカーは、そっとため息をつきつつ、また明日が早く来ればいいと思った。

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