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ルイの事情

「ソフィーの淹れる紅茶は本当に美味しいわね」


「お褒めにあずかり恐縮です、シャルロッテ王女殿下」




ソフィーもといルイは、14歳のシャルロッテ王女のもとに上級侍女として出仕していた。



当然、公爵家にいても問題ないのだが、

ルイもといソフィーが、物心つく頃の入れ替りの際に、騎士に憧れて小姓として見習いになっていた。

そして、16になった今は順調に準騎士になり、領地に戻りたがらなかったのだ。

本来住み込みで訓練する所、公爵家という立場もあって通いで見習いをやっている。





ルイとしては次期公爵になる、という大義名分と

領地にこもってのんびりゆったり過ごす方が性に合っているという本音があり、本当は領地に帰りたかったのだが、ソフィーのわがままで何とか王都に残れるように上級侍女になったのだった。


そうすれば女性の身でも騎士見習いを続けられる。

双子は今、入れ替わって王宮に出仕しているのだった。




ソフィーも貴族の娘であるからには、遠くないうちに婚姻する。


ーーーそれまでの数年、最後の自由な時間を過ごさせて…!お願いっっ!!



ソフィーに拝まれたときのことを思い出した。

恐らく婚姻を結べば、公爵令嬢の皮をすっぽり被ってすっぴんの自分は出せなくなる。

幼い頃から自然体で生きてきたソフィーにとっては息苦しさを今から容易に予感できるのだろう。


ソフィーのわがままを聞き入れる、というポーズで

自分も、王国の宝玉といわれるシャルロッテに仕える機会に魅力も感じていた。

何もかもが一級のものが彼女を取り囲んでいる。



ーーーはぁ、シャルロッテ王女のドレスの生地、なんて美しい。



ルイは、真面目な顔してシャルロッテ王女殿下をじっくりと観察していた。




ルイは美しいものが好きである。


幼い頃からソフィーの綺麗なドレスを着て、

友人とお茶会で目にもたのしい茶菓子がどんどん改良を重ねられるのを見て、

具合の悪い時に、ベッドで見舞いに来てくれた母と刺す刺繍を褒めてもらいたくてお針子にサンプルを沢山もらって、

美しい人や物に囲まれて過ごすうちにすっかり審美眼が磨かれてしまった。





美しくないとダメ、とは言わないけれど

ふと目に留まる美しい物は、一々琴線に触れてしまう。





そして、この、王女殿下の上級侍女という役職は

美しいものに囲まれる最高の職場なのであった。




ーーーこればっかりは、ソフィーのわがままを聞いてあげたことは正解だったな。



ルイはふっと口元に柔らかい笑みを浮かべた。

あの生地は今シーズンの新作だ。

縦糸に光沢感がある糸を使うので、動くたびに煌くのだ。

今度の夜会にはあの生地でドレスを仕立てよう。

ダンスで舞った時にこの生地がチラリと煌くように上にシフォン生地を使おう。




そんな妄想の世界へさっさと羽ばたきながら、

にこやかに王女の話相手をして、今日も穏やかな1日が過ぎていった。












ルイはタウンハウスに帰宅すると、動きやすい男ものの服にさっと着替えて父の書斎にいく。


「公爵様はまだ公務でお帰りになっておりません。

 ソフィーお嬢様が先にいらしております。」


執事のケスラーがルイに告げる。


「うん、問題ない。いつもありがとう、ケスラー。下がっていいよ。

 ソフィー、今週領地から来た書類はあるかな」


「こちらに。私も今湯浴みして来たところです」


ケスラーがさっと執務室を出て、ルイとソフィーで領地からの報告書を手に取る。

あちらには優秀な代理統治者をあてて、領地にいられない間は報告を定期的に送ってもらっている。


「うん、さっと目を通していつもの日報しようか。


 農作物の出来は例年通りで問題はないとのことか。

 経済が安定してある割に犯罪率が上がっているように見えるけど、どういうことなのかな」


「今まで取締りを漏れていた山賊が、武器を新調し自衛団を振り切っている事例が増えたとのことでしたわ。


 準騎士仲間のリヒテンラーデ侯爵家三男オスカーも、自領で山賊の武器事情が良くなっているようで、商人から泣き付かれていると訓練中にこぼしておりました。」


「うーん…看過できない気もするなぁ。

 一度領地に視察に行ってみるか」


「では、わたくしが…」

「いやいや、わたしが…」

「いえ、わ た く し が」

「またまた、わたしが」

「オスカーがまた私の肩を抱いて来まして」

「いきなり日報かい」


「あの三男坊、私が自分より小柄だからとおちょくってかかって来たので、叩きのめしてやりましたら、

なにか目覚めたようでうっとりした目で寄りかかるふりして肩を抱いて来たのですよ。


明日も同じく、騎乗訓練ございますので、お兄様よろしくですわ」


「うへぇ…わたしは2ヶ月後の建国祭乗り切るまでシャルロッテ王女のご準備が忙しいからがんばってね」


「ちょ…!丸投げかーーーい!

 可愛い妹が汚らしい狼の毒牙にかかりそうだから、

 守ってやろうという気概の一つや二つないんですか!」


「叩きのめしたんだろ。

 また宜しいように踏みつけて差し上げればいいだろう。」


「そしたら次は抱きつかれそうですわ…あの狐面…」


頻繁に入れ替わる事でバレないようにしている弊害としては、こまめな状況報告が必要なことだ。


こうしてソフィーとは毎日その日に何があったか細やかに、日報として話している。


ソフィーの報告を聞いて、あのウザかったオスカーの顔を思い出して、暫くは癒しのソフィーの皮を被ろうと心に決めた。




ソフィーがぶつくさいいながら、晩餐に一緒にいく廊下で、結局ソフィーが領地に行きたいといった希望は彼女の思惑通りに進んでることに気がついて、

「また、してやられたな」

と呟いた。


「移動中もこまめに報告いたしますから」

自分にそっくりな美しい顔で、ソフィーは可愛いウインクをした。

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