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ミューゼル公爵は胃痛が止まらない


「うぅ…どうして、こうなった」


麗かな光が燦々と公爵家を出て行く馬車に降り注ぐ。

馬車には公爵家自慢の双子が乗り込み、王宮へと向かう。

その馬車を見送る公爵はこの先のことを考えて呻いてしまうのをとめられない。


「まぁ、あなた、なんとかなるわよ。

 というか、なるようにしかならないわよ。」


と隣に立つ公爵夫人がそっと背中に手をあて、

半ば諦めた目を浮かべた次の瞬間には、今日やるべき事を思い頭を切り替えている。






王弟の公爵と、しっかりものの美しい夫人の間には

美しい双子の兄妹の二人の子どもがいる。


社交的で溌剌とし、向上心溢れる「ルイ」と

淑やかで、側にいるだけで心穏やかになる癒しの「ソフィー」。




16歳の誕生日を迎え、ソフィーのデビュタントを済ませたのち、


ルイは騎士見習いとして

ソフィーは王女の侍女として出仕することになった。

先月から出仕し始めて早くも王宮では華やかな双子の周りに人が途絶えることがない。






国王の信頼も厚く、宮廷でも盤石な地位を築き、

美しく聡明で社交界でも重鎮であり、夫人達から一目置かれる妻をもち、

次世代を担う子どもたちは揃ってこれ以上なく理想的に育っており

ミューゼル公爵は誰もが羨む順風満帆な人生を歩んでいる。



と、思われている。





が、本人としては、頭痛の種、が芽を出し今まさに蕾がついた気分である。

咲いたら結構毒の花、である。




それはまさに、二人の子どもたちが、入れ替わっているからに他ならない。










ミューゼル公爵家に双子の元気な産声が上がり、屋敷中が幸せに包まれてからというもの、二人の天使たちはいつも一緒にいた。


何をするにも一緒だったが、女の子の方が成長が早く、体も強いのは世の常で

元気に動き回るソフィーと比べてルイはよく風邪を引き体調を崩した。




「るい、おにわであそぼうよ!とりさん きてるよ!」


「ソフィーお嬢様、ルイ御坊ちゃまはお熱が高くて本日はお休みになられてます」


「そっかぁ… じゃあ、またあとで、

 どんなとりさんか、おちえてあげるね!」


「ごめんね、そふぃ。ありがと…ごほっごほっ」






男の子は比較的女の子より小さいうちは弱いと聞いていたが、成長すればその差もなくなると医者から聞いていたミューゼル公爵は、ルイに無理をさせず、二人を大切に育てた。






それでもよく体調を崩すので、性別を欺き死神の眼から逃れるという、領地の一部に残る古い風習を取り入れてソフィーの服を着せて過ごすことも少なくなかった。






「ねぇ、ルイ。今日はとっても青い空だから、このあっおーいリボンで髪をむすんで!


ドレスも合わせて白っぽい青のやつ、もってきたから!やわらかいのだよ。


お靴は、ルイこの間リボンたっぷりついたこの銀のやつ、ちょーかわいいって言ってからこれにしたよ!」




「ソフィー、いつもすてきなのを貸してくれてありがとう」




「あと少し、お休みすればお風邪治るって。おいしゃさまが、そういってた。

だから、しっかり休んで早く良くなってね!」





二人はお揃いの、父親譲りの美しい金髪を長く伸ばして、よくリボンで結んでいた。

また、若いオリーブの実のような綺麗な緑色の瞳を持っていた。



ルイが母に似て少し目が垂れて、優しげな目元、

ソフィーが父に似て少しキリッとした爽やかな目元であること以外、二人は意外にもとても良く似ていた。





こうして、

ソフィーは、ルイの服を着て外を駆けまわり

ルイはソフィーの服を着て部屋で読書をする、



それは、特に変なことでもなく公爵家ではごくごくありふれた日常的な風景だった。











6歳になる頃にはルイの体調も落ち着いてきたが、

ソフィーのお転婆は一向に落ち着かず、

マナーのレッスンを度々抜け出してはルイと剣や馬術の練習に参戦した。



ルイの体調が悪い時は、こっそり入れ替りレッスンを受けて、後で互いに教えあっていた。




教え合うことで復習にもなるし理解も進むので二人はこの入れ替りは悪いことだとはあまり思わず、

でも、頻繁に入れ替わっていることについては内緒にしていた。




両親や家庭教師陣は、薄々気がついてはいるものの、

ごく稀に、ルイの体調が悪い時にだけ入れ替わっていると思い込んでいて、

わざわざ目くじらを立てるほどでもないか、と特に口を出すこともしなかった。







そうして、月日が流れて気がつけば、


溌剌としたルイ(ソフィー)

たおやかなソフィー(ルイ)


が出来上がっていて、

社交はそれぞれ入れ替わってこなしている事態に、

ごく自然になってしまっていたわけである。



今更ルイに、元気溌剌オ…とは言えず、

今更ソフィーに、お淑やかに、というのは無理な話で、


身体はお互い紛れもなく本来の性別を感じるものの、

心は入れ替りの性別に仕上がっていた。









そして、まずいまずいと思いながら、

結局宮中に出仕するに至るわけである。






「バレたら、ホントどうなるんだ…」


美貌の公爵のシワを作る原因になっているとは露知らず、双子は今日も元気にでかけていったのである。

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