No.4
ソルトは通路の影に素早く身を隠し、警備の状況を確認する。
(今のところは2人だけか。)
そういうとソルトはリュックから覆面とスタンガンを取り出す。
覆面を被ってリュックを背負いなおすと、ソルトは影から飛び出した。
「敵だ! ICORだ!」
警備員の1人が気付き電子銃を取り出す。
しかし、それよりも早くソルトは警備員の懐に潜り込むとスタンガンを腹部に充てる。
「ぐぅ!」
警備員はそのまま地面に倒れ込んだ。
「動くな!」
もう1人が電子銃の照準をソルトの頭に合わせる。
ソルトはゆっくりとそちらを振り返った。
「そのまま手を上げて地面に跪け!」
ソルトは言われるままに手を上げて地面に跪く。
警備員が慎重に近づいてくる中ソルトはボソボソと何かを呟いていた。
「Open VCode.Hack F-058.Deprivation gun privilege.No,0482」
その時、警備員の持っていた電子銃から操作音が鳴った。
「Code Aを認識しました。No,0482の管理者権限をLockします。」
カチッという音と共に警備員の引き金が一切動かなくなった。
「何ッ!?」
警備員が驚いている間にソルトはスタンガンを警備員の腕に叩きつける。
「ガァ!?」
そんな悲鳴を上げて警備員は地面に倒れ込んだ。
ソルトは立ち上がると埃を払いながら呟く。
「まさかルーイの作ったものがこんなところで役に立つとはな。音声Hackなんて何に使うのかと思いきや…」
ソルトは扉の前に立つ。
(…こいつはかなりのセキュリティっぽいな。)
そう直感したソルトはルーイにCallする。
「こちらコロンブス。アナログデータ管理室の前まで来た。どうやらここは会社のサーバーとはまた少し違ったサーバーを使って守られているようだ。そちらでHackを頼む。」
「了解。」
ルーイはただそれだけを返すとキーを叩き始めた。
「…そこの扉をHackすることはできない。どうやらそこの空間は閉鎖空間の中で稼働しているらしい。どこかにPasswordを入れる場所がある筈だ。」
そういうとルーイは一方的に通信を切断した。
「…勝手なことを。」
ソルトは愚痴を吐くと警備員の服からIDカードを抜きだす。
そのまま扉の前にあった認証装置にカードをかざす。
しかし、機械はそれを弾いた。
「この権限だと低すぎるか。」
ソルトは周辺を探して何か接続口は無いかと歩き回る。
「ふむ、ここか。」
5分ほどでソルトは接続口を見つけた。
「こいつはルーイもHack出来ない訳だ。古き良きUSB端子じゃないか。」
ソルトはリュックを漁り、USBのコードを引っ張り出すとPCとつないでHackを開始した。
「あんまりこういうのは得意じゃないんだがなぁ…」
そんなことを呟きながらもソルトの目は迷いなくソースを辿っていた。
「ここか。」
ものの数十秒でセキュリティのコードを見つけるとソルトはそこのソースを改変し始める。
何秒かキーを叩くと扉は音を立てずに静かに開いた。
「成功か。」
ソルトは端子を引き抜くと扉の中に入っていった。
そこに広がっていたのは部屋いっぱいに詰められた棚だ。
1つ1つの引き出しの中に大量の紙の束が収められている。
ソルトはそれを確認すると、ある棚の1番下の引き出しを開けそこにあった紙をいくつか取り出すと、何枚かをクシャクシャにして棚の中に戻す。
「それでは、ICOR最終段階に入るとしよう。」
ソルトはライターを点火すると紙に近づける。
チリチリと炎は紙を舐め、やがてそれは棚ひとつに及んだ。
「これでよし。」
ソルトはほんの少しだけ空気穴を残して引き出しを閉めると出口に向かって駆け出した。
火災警報器がけたたましい音を立て、煙の臭いがつんと鼻に突き刺さる。
ソルトは走り出すと近くにあった窓を蹴破って外へ飛び出す。
しかし、そこに広がっているのは地上5階からの景色と冷気である。
ソルトは為す術もなく地面に落下していく。
だが、落ち着いて様子でソルトは壁に手を当てる。
次の瞬間、凄まじい衝撃と共にソルトは壁にくっついた。
「本当、このグローブは汎用性が高いよな。」
落ち着いた様子で壁を滑り降り、地面に足を付けると「アンヘル」に向かって走り出す。
遠くで消防車の音が鳴り響き、野次馬が集まってきた。
ソルトはそんな自分が引き起こした環境をしり目にルーイの待つ家へと飛び出したのだった。