No.2
2人の朝は、遅い。
9時に起床し、ブランチを取る。
今日のメニューはトーストにイチゴジャム、サラダに焼き鳥だ。
「…毎回思うけど俺らの目知ってバラエティー豊富だよな。」
「センスがないだけだと思う。」
がつがつと朝食を運ぶソルトにルーイはそっけなく返した。
バーブティーをチミチミと口に運びながらトーストを小さく齧っている。
「もう少し食おうぜ。俺みたいにな。」
「ソルトは食い過ぎだな。」
「遠慮がないねぇ。」
ソルトは笑いながらも掻き込むことをやめようとはしない。
「そろそろ依頼が来る頃だと思うけど…」
ルーイが焼き鳥を少しづつ齧りながら言う。
「それは過去のデータからか?」
「いや、ただの山勘。根拠はない。」
ソルトとルーイは小さいころからの親友だ。
その長い付き合いからルーイの勘がよくあたることをソルトは知っていた。
「じゃあ、そろそろ来るんだろうな。」
そういうと自分の分を食べ置えたソルトは手早く皿を片付ける。
「お前もさっさと食っちまえ。考え事をするなら食い終わってからの方が頭が回ってお勧めだぜ。」
そういうとソルトはキッチンに立ち食器を洗う。
意外ときれい好きなのだ。
そのおかげで、リビングはごちゃごちゃした様子はない。
あるとすればルーイが持ち込んだゲーム機だけだろうか。
いろいろな配線が組み合わさっていてとても複雑なので、片付けようにも片付けられないのが現状だった。
やがてルーイが食べ終わった食器を流しに放り込んだ。
「任せた。」
「はいよ任された。」
そういうとソルトはルーイが持ってきた食器も洗い上げてしまった。
歯を磨いたら各々の時間に入る。
ルーイはゲーム機を弄り、ソルトは何処からか持ってきたロッキングチェアに腰かけて本を読む。
ソルトはなんとなくルーイの様子をちらりと見るとルーイは見たことのないゲームをしていた。
「それ何のゲームだ?」
「メルトクロック。やってみる?」
「おう。」
ソルトはコントローラーを握るとゲームをはじめた。
ルールは簡単で、時計がゼロになり守るべき雪だるまが解けてしまう前にあらゆるパズルを解くというものだ。
ソルトは10問中8問のところで失敗してしまった。
「ルーイ、パス。」
ソルトはルーイにコントローラーを返す。
ルーイはそれを受け取ると、いとも簡単にゲームをクリアしてしまった。
ソルトの頭が悪いわけではない。
むしろ平均以上だ。
ただ、それ以上にルーイの頭がよくできているだけの話である。
「ふん。」
ルーイは面白くなさそうに鼻を鳴らす。
あまりに簡単すぎたのだろう。
しばらくプレイしていたが、ルーイはどこからかゲームのソース(プログラミング)を引っ張り出すと弄り始めた。
独自のパズルを作るのだろう。
ルーイの特技はゲームの改造。
しかし、ルーイの基準で作ってしまうのでルーイ以外に解ける人物は少ない。
その難易度の高さはAIすらも悩ませる程らしい。
「頑張ってな。」
「ん。」
集中して普段よりも愛想がなくなったルーイを置いてソルトは席を立ち、読書を再開する。
一応、2人にも「ICHOR」以外にも仕事はある。
ルーイはプログラマーとしてそこそこの成果を上げており、ソルトも技術者をしている。
なぜ技術者なのかというと「本業に関わりやすい仕事だから」らしい。
のんびりとした時間を過ごし時計の針は3時を指していた。
その時、ルーイのスマホにメールの通知音が鳴る。
その音が聞こえた瞬間、2人の表情が変わった。
「仕事の時間だ。」
ルーイはメールを開くと読み始めた。
・一斉送信
・任務内容
セキュリティ会社『メルクリウス』サーバーへの侵入、破壊。
支社のデータも破壊せよ。
アナログデータも同様である。
・成功報酬
Hacking、Crackingの成功者に200万
シンプルなメッセージがそこには表示されていた。
「『メルクリウス』って確か大手AI契約会社のセキュリティを担当してたよな。」
ソルトの言葉にルーイは頷く。
「あそこのセキュリティは何日もかけないと突破できないって仲間も愚痴ってた。」
「お前なら何日かかる?」
「触ってみないと分からない。」
ルーイはリビングにおいてあるPCの前に座ると「メルクリウス」のセキュリティにアクセスし、ソースを引っ張りだす。
ルーイの目が速いスピードで文字を追う。
「設計図なら2.5時間。」
「OK。」
ルーンはPCから離れると自室に入っていく。
「さて、俺もそろそろ準備するかな。昼に侵入するのは得策ではないし新入りの中には昼間から侵入する輩もいるだろう。そんな奴がいる以上警備はいつも以上に厳しくなる。ほんと、厄介なもんだ。」
ルーイが部屋から出てきたのは30分後だった。
手には紙の束を持っている。
「セキュリティが案外緩かった。」
「サンキュー。」
ソルトは受け取ると目を通し始めた。
ルーイが持ってきたのは「メルクリウス」の設計図だ。
1枚ずつ念入りに確認してどこかに隙が無いかを探る。
「ここかぁ…」
ソルトは10分ほど資料を漁って侵入口を見つけた。
5階、外につながる排気口。
そこをソルトは侵入口に設定した。
上下の階を確認して罠がないことを確認する。
侵入の際に必要なものをソルトは考え始めた。