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異世界送りの奇妙な事件簿~トイレに行こうとしただけなのに異世界へ送られました~  作者: ホットティー
1章 トイレに行こうとして異世界へ
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#7 エンジェル・ダイバーpart1

病気で倒れていましたが連載復活です

 フロントガラスに突き刺さっている若者は男性であった。

 見上げたビルの高さはおよそ15階。


「それにしても、彼はどこから降ってきたんだろうな」


「……そうだな。落ちた先が鉄の塊だから断言はできないけど3階以上から落ちたんだな。俺としちゃ7階くらいじゃないかと思うんだが」


 響一郎がつぶやく。


「転落に詳しいんだな。経験があるのかい?」


 響一郎はその言葉にしばらく押し黙る。

 溢れてきそうな感情を自分の中に押しとどめ言葉を紡ぐ


「………いや、前に本で読んだことがあるだけだ。因みに俺の世界では『清水の舞台から飛び降りる』という言葉がある。有名な寺なんだが、そこの高さがだいたい13mくらい。生存率は『約80%』だ」


「なるほどね。飛ぶのって気持ちいいだろうがなぁ、落ちたら死ぬのが問題だ」


 ダニーは嘆息する。


「加速するからなぁ……なぁ、こいつの身元とかわからないのか?そういうスキル的なものは無いのか?」


「そうだな……見ただけで名前がわかるっていうスキルを持つ能力者はいるらしい。『神眼』とかいうらしいが100年くらい前に確認されてからはなぁ」


 言いながらダニーは懐から液体の入った小瓶を取り出すと響一郎に差し出した。


「何?」


「栄養ドリンクってやつだ。精神力が回復する成分が入ってるよ」


「……それはつまり、俺がそういうものを持ってるかもしれないってことか?」


「持ってたらもうけものだな。だってさ、目の前に人が降ってきて知らんふりは出来ないしそれに……」


 ダニーが若者を指さす。


「あれ触りたい?多分上の方ぐちゃぐちゃだよ?」


「オーケー。やってみよう」


 小瓶を受け取ると響一郎は中身を一気に飲み干し……


「……何だよこの味。獣臭い」


「バフォメットチョップ味。安かったんだよね」


「次から何か勧める時はどういう味かも確かめることにするよ」


 口の中に獣臭さを感じながら被害者を凝視する。

 しかし特に何もない。

 遺体しか見えない。そして獣臭さで少し気持ち悪い。

 すると背後で……


「おーい、キョウ。彼は8階に住むラルゴ・アックスだってさ。管理人さんが居て教えてくれたよ」


 老年の管理人と話しながらダニーが手を振っていた。


「俺、もしかしてイジメられてるのかな?」




 ここは大学寮の8階

 806号室。ラルゴ・アックスはここに住む学生であった。

 響一郎とダニーは管理人にカギを開けてもらい部屋に来ていた。

 

「悪かったよ。だって人のいい管理人さんが教えてくれたんだよ?市民の協力には感謝しないといけないよ?」


「別に怒ってないって……それにしても」


 部屋の様子を見る。

 まさにザ・男子大学生の部屋。

 どうやら片づけは苦手だったらしい。

 ダニーから手袋と靴カバーを借りて部屋に入る。


「ふと思ったんだけどさ……俺ってスカウトこそされたけどまだ正式にこっちの住人になってないよな?その、書類とそういうもの的に……大丈夫なのかな、現場に入って」


「でもエリーが動いてるんだろう?なら問題はない」


「……そういうものなのか」


 そういうものだ、と返答。


「それよりキョウ。君も大学生だったんだろう。こんな部屋だったのかい?」


「俺はこんな散らかしてなかったよ。というか、散らかす程物を置いてなかった」


 そう、響一郎は部屋には必要最低限のものしか置かなかった。

 インテリアや漫画本や、そういったものは一切なかった。

 別に漫画を読まないわけではない。買ったとしても何回か読めばすぐ売っていた。


「ミニマリストってやつかい」


「どうだろう。物欲が無いんじゃないかな」

 

 適当に答える。

 その奥にある傷跡を隠すために。

 触れられないようにするため。


「ダニー、自殺だと思うか?」

 

 だから、話題をそらした。


「どうだろうな。彼の落ちた地点だが建物から数m離れていた。普通はさ、もう少し近くに落ちるものだからね」


「ということは誰かが突き落としたってことかな」


「或いは助走をつけてダイブしたか、だね」


 ダニーは空になったビール瓶をつまみ上げる。


「飲んで気が大きくなってたという可能性もあるかな。キョウ、酒は飲むのかい?」


「飲まないよ。飲めないというわけじゃないがあんまり好きじゃないんだ。だからコンパの時はノンアルを飲んでやり過ごしていた」


「ノンアル?何だいそれは。効かない名前だ」


「ノンアルコール飲料ってやつさ。アルコールテイストの飲料だがアルコールは入ってないんだ。飲み会の時とかで酒は飲めないけどって人に人気さ」


「それは画期的じゃないか。それがあれば僕も学生の時あんなことにならなかったのに」


 ため息。


「何か大きな失敗でもしたのか?」


「まあね。飲み会に出て朝起きたら噴水の中で郵便ポストを被ってただけさ。よくあることだ」


 ちょっと見てみたかった。

 酔っぱらって前後不覚になる人間は何人か見てきたがそういうぶっ飛んだ者にはまだ会った事がない。


「ところでさぁ、キョウ。君は元の世界に帰りたいとか思わないのかい?どうせ意図せずこの世界に来てしまったんだろう?」


「それは……」


 言葉に詰まる。

 どうごまかそうか。

 そう考えていると机の上にある白い粉に気づいた。


「なぁ、ダニー。これを見てくれ。この粉だ。これってもしかして……」


「うん?ああ、そうだな。この部屋からしてお菓子作りを趣味にするスイーツボーイには見えないしな……というか君、鑑定してみたらどうだい?精神力は回復してるんだろう」


「鑑定って言われてもなぁ……どうすれば発動するかがわからないのが難点だ」


 言いながら白い粒を少し指に取る。


 <フェンサイクリジン…ベンゼン、シクロヘキサン、ピペリジンなどが結合した薬物です。いわゆる麻薬です。この世界での通称はエンジェル・ダイバー>


 発動した。

 更に色々な情報が脳に流れ込んでくる。


「この粉は……この白い粉は『エンジェル・ダイバー』……」


「鑑定できたようだね。しかしこれは……エンジェル・ダイバーか。これは厄介だな。少なくとも自殺ではないということだね」

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