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異世界送りの奇妙な事件簿~トイレに行こうとしただけなのに異世界へ送られました~  作者: ホットティー
1章 トイレに行こうとして異世界へ
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#4 コンビニ強盗の真実

「お前は……さっきの立ちション男!」


 コンビニに飛び込んできたクリスはすぐ、響一郎の存在に気づく。

 この世界でも立ちションと言うのか、もしくは学習により勝手に翻訳されただけなのか。

 そんなことを考えながらも響一郎は言う。


「ああ、どうも。その節は……」


「さっきはよくも逃げてくれたな。おかげでどれだけ走る羽目になったと思ってやがる」


「まあ、それにはいろいろと事情があるわけだが……いいのかよ死んでるぞ、人」


 両手を上げた状態で響一郎は顎で死体を指す。


「これは……まさか、お前が!?」


「なぜそうなる。俺はただ、銃声がしたから何事かと飛び込んできただけだ」


 嘘である。

 本当は走ってくるクリスを見て慌てて飛び込んでしまったわけだが敢えて言う必要もないだろう。


「それに、銃はこのご遺体が握っているだろ。俺は銃を持っていないんだ。そんな俺に彼を殺すことは出来ない。何なら身体検査をしても構わない。」


「身体検査ねぇ……それはあたしに体を触らせようという魂胆か。」


「何故そうなる!」


「へ、変態……」


 女性店員が響一郎に軽蔑の眼差しを向けた。  


「厳しいなおい!ていうか少なくともあんたは事情を知っているだろう!!」


「わかったわかった。一応身体検査はしてやるが変な気を起こすんじゃねぇぞ」

 

 釈然としないまま身体検査をされ……


「よし、凶器は持ってないな……で、この死んでる男は誰だ?」


「話を聞いてなかったのか?知らんッ!!」


「そ、その男はケネス・カーツ。私の同僚です。いきなり入ってきて金を出せって銃を突き付けてきたんです……」


「コンビニ店員が自分の働いてる店に強盗かぁ……馬鹿だなこいつ」


 クリスが男を見下ろす。

 ズボンのポケットからは数枚の札が顔を覗かせている。

 

「あれ、でも何で銃持ってきたこいつが射殺されてるんだ?おかしくないかそれ」


「そ、それは……よくわからない。ケネスが私に銃を向けて、殺されるって思ったら次の瞬間には倒れていたの。私は銃を持っていないし、店には護身用の銃もない。だから本当に、何が起きたかわからない。」


 その様子を眺めていた響一郎だが妙な違和感と、沸きあがる高揚感を感じていた。

 完全に巻き込まれた体で大人しくしているのが無難である。

 しかし……


「ねぇ、おまわりさん。もしかして原因はこれじゃあないかな」


 響一郎はいつの間にかカウンターの内側に侵入し、金属製の棚を指さしていた。

 そこには何かが当たって凹んだ跡が。


「てめぇ、何勝手に動いてるんだよ!」


「見て欲しいのはこの『凹み』さ。どうして凹んだんだろうな……これは想像だがそのケネスって人が発射した銃弾が当たったんじゃないかな?」


「人の話を聞けよッ!………ってことは跳弾か?」


 跳弾。

 浅い角度で硬い物質に銃弾が当たると貫通せず跳ね返り場合によっては撃った本人が怪我をすることがある。


「この棚、材質はわからないけどかなり硬そうな物質だな」


「『メタルスコルピオンの甲殻』を加工したA2グレードの特注品です。店長の趣味で……防犯カメラはダミーなのにこういうものは導入して…」


 響一郎は店に仕掛けられている2体の防犯カメラを見上げる。

 あれが見れるなら何が起こったか一目瞭然なのだが残念だと思った。


「なるほどね。これ自分で撃った弾が跳ね返って額に当たったんじゃないかな」


 すっと、遺体の傍によると浮き上がっている後頭部に目を凝らす。


「貫通はしてないな。跳弾では運動エネルギー自体は減ってるからね。中にめり込んでいるな」 


「だとしたら不幸な事故ってやつか?」


「詳しく調べればわかると思うけどきっとそういう事なんだと思う」


「なるほどなぁ、しかし、随分とマヌケな奴もいるもんだ。えっと店員さん、あんたは……」


「モリースです」


「じゃあ、モリース。とりあえず救急車は呼んだぞ。病院で撃たれた左腕の治療を受けた後は署で話を聞くことになるが大丈夫。これは事故で処理されるぜ」


 クリスの言葉にモリースは胸を撫でおろした。


「彼、お金に困ってたみたいなんです。きっとそれでこんなバカなことをしたんだと思います……」


「馬鹿なことをしたのは彼だけだろうかな…」


 響一郎の言葉にモリースはギョッとした表情になる。


「どういう意味だ。自分の事でも言っているのか?」


「彼女の撃たれたって腕、よく見てみろよ。そう、腕だ。銃弾がかすったにしては傷が大きいし、周囲が焼けてないか?」


 クリスが見ると銃弾がかすったという傷口に周囲は火傷になり黒く変色していた。


「これって至近距離から撃ったってことだよな?」


「そうだな、確かによく見ると変だ。至近距離から撃った……それも腕に密着させて撃った感じだ。」


「普通、金を出せって脅すなら頭に銃口を突き付けるよな。そうじゃないと脅しにはならない。命の危険を感じさせないといけないからな」


 モリースの表情が強張る。 


「無抵抗で金を奪われたって言うんじゃ怪しまれる。きちんと抵抗したという事を示すなら怪我をしてるのが一番わかりやすい。撃たれていたら尚の事だ。とは言え、銃弾なんか下手なところに当たったら命を落としかねない。」


「だから腕を撃たせたって言う事か」


「命に別状はないとはいえ痛みは相当なものだっただろう。だが残念なことに確実に腕を負傷させるためにケネスは銃を腕に押し当てて撃った。結果としては奇妙な銃創ができてしまい本人も跳弾で死んでしまったわけだ。」


 嘆息。

 レジからどれだけの金を盗もうとしたか……恐らくは大した額ではなかっただろう。

 そんなはした金の為に命を落とすことになるとは…


「な、長くこの店で働いているけど時給は全然上がりやしない。だから……だから……」


 モリースの言葉は即ち『動機の白状』。

 推理ドラマでなら『詰み』の状態に入ったということだ。


「ここで主張するべきなら『彼に脅されて仕方なく』とかじゃないか?偽装工作は自分の意志じゃない、強要されたものだ、と。それならまだ少しばかり逃げ道はあったわけだが……まさか自分から進んで加担したと自白するとはな。浅はかな……」


 視界の斜め下にウインドゥが現れる。 


<観察スキル、推理スキルがアップしました。犯人はこの中に居る!!>

 

「もう見つけたよ……」


 呟く。


「それじゃあ、話を聞かせて貰うぜ。但し、共犯としてになるがな」


 クリスがゆっくり近づき手錠をかけようとした瞬間。


「こんな形で終わるなんて私は認めない!!」


 クリスの腕にはナイフが一本突き刺さっていた。


「なっ!?」


 驚くクリスの顔にパンチを喰らわせるとモリースはクリスが腰に携帯していた銃に手を伸ばし……奪い取った。


(おいおい、冗談じゃねぇぞ。何をやけになってるんだこの女!?)


 予想外の反撃と銃を敵にとられたという状況。

 響一郎の脳裏に最悪の展開がよぎる。


「あのバカ!人に痛い想いだけさせて勝手に死んじまって……捕まってたまるかよ。悪いのはあたしじゃない!!」


 奪った銃をクリスに向けるモリース。


「勉強させてもらったわ。脅すなら頭の方が効果高いってね。あたしだけムショ行きとか割に合わないんだよぉぉぉぉッ!!」 


 引き金を引こうとするモリース。

 完全に混乱している。

 このままでは大変なことになる。

 何とかしなければいけない。

 何とかしなければ…

 何とか……

 響一郎が反射的に取った行動は『腕を伸ばす』ことだった。

 モリースまで約2m。

 届くはずがない。

 しかし、伸ばさなければ自分はこの異世界でずっと後悔を背負うこととなる。

 だからがむしゃらに伸ばした腕は……本当に『伸びた』。

 否、正確には腕の一部がほつれることで腕のリーチが伸びたというべきか。

 何にせよ伸びた腕はモリースの持つ拳銃を叩き落とし再び彼の元へ戻ってきた。


「な、何であの距離から腕が届いて……ハッ!」


 拳銃を叩き落とされたことに気づいたモリースはクリスの腕に刺したものとは別のナイフを取り出し尚も抵抗を試みるが。

 銃声が響きナイフを持つ手が撃ち抜かれる。

 しかしクリスの手には拳銃がなく、モリースに向けた右の人差し指から煙が立ち上っていた。


「うぎゃぁぁぁぁぁぁ!じゅ、銃弾!?」


「ああ、悪い。てめぇが奪ったあの拳銃だけどな。『模造品』なんだよ。やっぱ携帯してないと警官として格好突かないんだよなぁ」


 言うとクリスはモリースに後ろ手で手錠をかけさせる。

 遠くからサイレンを響かせながら近づくのは救急車だろうか。


「銃を奪われるとか始末書もんだよなぁ。あっ、でも実際は模造品なんだしギリでセーフかなぁ。出来ればそうであって欲しいもんだぜ」


 頭をポリポリ掻きながら被害者から容疑者となったモリースを無理やり引き起こす。 

 

「治療してもらおうな?まぁ、その後はムショ行きになっちまうがな」


 言い終わると同時に救急車が到着した。


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