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#34 オリデン・ミンク刑事

当エピソードを再加筆してもう一度連載再開します。


1人の女性が息を切らしながら走っている。

 何かに追われているようで時折後ろを振り返り追跡者の有無を確かめる。

 やがて灯が点いた建物、女子寮にたどり着きその扉に手をかける。

 だが扉はびくともせず焦りばかりがあふれ出す。


「開いてよ、お願いだから……何で、何で開かないのよ!!」


 必死に力は入れている……つもりだった。

 だが気づいてしまった。

 自分と腕までの距離が離れている。

 と言うより体と腕が離れている。


「そ、そんな。開かないわけよ。だってあたし、あたしの腕……全然力が入ってなかったじゃないのぉぉぉぉぉッ!!!」


 それが、彼女の口から出た最後の言葉となった。



~~~~~~~~~~~~~~~


「なぁ、キョウ。これは絶対ギフト能力者の仕業だ」



 響一郎は夜勤の睡魔と闘いながら男の話を聞いていた。

 異世界へ来て2か月。

 多くの情報を手に入れながら成長していった響一郎は重犯罪課以外の警察たちとも交流するようになっていた。

 そして、この男は刑事のオリデン・ミンク。

 身長は130cmと小柄な男だ。

 亜人の一種で「雨宿りをする」を意味する『プリュア』と呼ばれる人種だそうだ。



「なぁ、ミンク……急に人の仮眠中に押しかけてきて何事かと思えばいつものあれか?」


 このミンク刑事、とても行動力のある男だ。

 ある事件で響一郎と関わりそれ以来ちょくちょく『これはギフト関連かも』と事件を持ち込んで協力を依頼しに来るのだ。

 まあ、彼が持ち込んだ事件でギフト犯罪だったものは皆無なのだが……


「いいか、今回はわけが違うぜ?つい数時間前起きた大事件だ」


 これも毎回聞いていた。


「どう違うんだ、その"大事件"ってのは」


「いいか、被害者は公園で倒れていた40代の男性だ。頭頂部に鈍器で殴られた跡があったんだが……どうだ?」


「どう聞いてギフト関連事件じゃねぇな」


「ここからが問題だ。目撃者によると彼は突然倒れたらしい。彼を襲った人物の姿を誰も見てないんだ。どうだ?」


「それでギフト能力って言ったってなぁ」


 首をひねる。

 

「そもそもその場で殴られて死んだとは断定できるのか?例えばどこかで殴られた、もしくは頭を打っていてたまたまその公園で脳に溜まった血が原因でどうにかなったという可能性はあるだろ」


「そういう見方もあるだろう。だが今度こそ自信あるんだよ」


「その今度こそって今月でもう4回くらい聞いてるフレーズだぞ…………」


 これが現場写真だ。

 どうだ、何か不自然なところはないか?

 何枚もの写真を見せてくる。

 スキンヘッドのいかつい顔をした被害者(仮)。

 そして無数の現場写真。

 ただ、見ると現場に血痕がある。


「血痕があるなぁ……これ、頭に一発喰らったのはこの場所っぽいな」


「つまりギフト能力者による犯罪!!」


「早まるなよ……」


 ふと、ある写真に目がいく。

 被害者が倒れているベンチの傍、ある小動物の死体が転がっているのが写っていた。


「亀……だな」


「亀?」

 

「なあ、現場はどこだ?」


「公園さ。フォースサット公園。バスケットボールのコートがあってそこで若い連中が試合してたんだ。被害者はそれを見学してた」


「フォースサットかぁ……あー、ああ、そうだな。うん理解した」


 ここ数か月仕入れた様々な情報。

 それらを総合しある答えが出た。


「ギフト犯罪か!?」


 響一郎は肩をすくめる。


「残念だが違うな。フォースサット公園の近くといえばカラスの巣があったよな」


「ああ、ラ・コルニクスっていう大型のがな」


「俺がかつて居た世界にある伝説的な死に方をしたアイスキュロスという偉人がいてな……」


 古代ギリシアの三大悲劇詩人のひとりアイスキュロス。

 彼は亀を岩に落として甲羅を砕き食べる髭ワシに頭を岩と間違えられ亀を落とされたのだ。

 伝説的な死因と言われている。


「カラスは賢いからな。で、このラ・コルニクスだが硬いものは岩などに叩きつけて砕く性質がある被害者はスキンヘッドだろ?」


 図書館で偶々読んだ『学びの泉 鳥類図鑑』(対象年齢5歳~)に記載されていた生態だ。


「つまり、このスキンヘッドを岩と間違えただとッ!?待て待て、じゃあ事故死?」


「俺の見立てではな」


「そんなのどう報告しろって言うんだ!!」


「この写真に写っている亀は回収したか?きっと甲羅に被害者の頭皮とかがくっついているんじゃあないか。それが証拠になる」


 ミンクががっくりと項垂れる。

 可哀そうだが仕方がない。


「何だミンク、まーた来てやがったのか?どうせただの勘違いだろ」


 コートのポケットに手を突っ込みながら入ってきたクリスがため息をつく。


「カラスが……亀が……」


 ぶつぶつと呟くミンクを尻目にクリスは続けた。


「緊急の招集だぞ新人。全く、家で楽しくひとりババ抜きしてたってのに呼び出されたんだぞ。もう少しであたしの勝ちだったのに。まあ、あたしの負けでもあるわけだがな」


「なぁクリス……あんた、カウンセリング受けた方がいいんじゃないか」


「うっせぇ。ってことで新人。とっとと行くぞ」


 クリスは顎で外を示す。


「了解だ。というわけでミンク、悪いが行くぞ。ところでクリス、行先はどこだ?」


「聞いて喜べ。大学だ。それもうれし恥ずかしの女子寮ってやつだ。変な気起こすなよ~?」


「マジか……」


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