#31 エリザベス・グッドウィンからは逃げられない~part2~
玄関が開く。
即ち、誰かが家に入ってきたということだ。
響一郎は考える。
ダニーだろうか。彼が仕事を終えて帰宅したのか?
だがダニーはいつも帰宅すると「あー、帰ったよ愛しの我が家」とか大層な演技をする。
正直、入った瞬間に誰かわかる。
では泥棒だろうか?
だが自分が泥棒なら通りに面した玄関をガチャガチャして入ったりしてこない。
ましてや昼間だ。
選ぶなら裏口とか窓だ。
となれば考えるのは……
「娘か、娘が帰ってきたのか」
未だ会ったことがないダニーの娘。
何やら実習とやらに参加していたらしい。
「マズイな。ダニーは俺の事は話してくれてるだろうが脱衣所での初エンカウントはあまり印象が良くない」
そう考えていると声が聞こえた。
「あーあ、パパはやっぱり仕事なのね」
やはりリズだった。
しかし、次の瞬間信じられない言葉が聞こえてきたのだ。
「とりあえずシャワーでも浴びようかしら」
そして聞こえてくる衣擦れの音。
あれはそう、衣服を脱いでいる音だ。
「何だと!?こいつ歩きながら服を脱いでこっちに向かってるのか!?」
血の気がサッと引いていくのを感じた。
印象が悪いとかそういう話ではない。
これがラブコメならラッキースケベ主人公とかいう名を冠することが出来るだろう。
だが今の状況は完璧に悪い。
下手したら、というより高確率でラッキースケベどころかただの不審者だ。
それも相手が脱いでいるという最悪の状態。
「まさか、家の電気が順番についたのはこいつの仕業か?まさか娘も能力者なのか!?」
リズの足音が近づいてくる。
遭遇まで数秒。
逃げ道は無い。
そこで響一郎は大胆な行動をとることにした。
脱衣所の扉が開き、下着姿のリズが入ってくる。
だが悲鳴は起こらず、リズは鼻歌を歌っていた。
響一郎はとっさに能力を行使し身体を解き、棚に身を隠すことにしたのだ。
何とか彼女をやり過ごしこの場から逃走。
そのあとでエンカウントを果たそうと考えた。
「よく考えたら俺、覗きだよな」
棚に隠れて相手をうかがっている姿は覗きそのもの。
居候している家の娘が脱ぐのを覗くなど正気の沙汰ではない。
とりあえず目を瞑らなければ。
そう思っていたらリズは唐突にしゃがみ床を撫でる。
「何だ、何をしている?」
次の瞬間、リズの口から洩れた言葉に響一郎は耳を疑った。
「誰かいる」
何だ、何を言っている。
何故わかった?
「僅かだけれど床に靴の跡。サイズは……そうね、27cmってところね。パパは25.5cm……誤差を考えても大きすぎる。つまりこれは別人。パパ以外の男性がこの家にいる」
響一郎の胸が高鳴る。
「バスマットもすこし凹んでる。誰かが体重をかけたということね。そんなに時間は経っていない……」
バレている。
そしてどうやらリズはダニーから響一郎の事を聞いていない可能性が浮上した。
だがこれはチャンスでもある。
何せこういう状況で無防備な姿をさらしているならば彼女は不安を覚えこの場から離れようとするはず。
その隙をついてここから逃げ出し、何食わぬ顔で初エンカウントを果たせばよい。
だが……
「何処に隠れているか、何を企んでいるかは知らないけれど私からは逃げられない!!見つけ出して始末するッ!」
殺意むき出しであった。
その瞳は不審者に怯える少女のものではなく最早ハンターのそれであった。
「何だとッ!こいつ、かなりやばいぞ!?ていうか服を着ろッ!!」
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