#29 ある家族の秘密~正義~
ティム・ブラケットによる襲撃事件は彼の死という結末を迎えた。
事件後、命を狙われたケベルはブラケット一家の殺害と死体の遺棄を認めた。
証言により、ある湖から行方不明になっていた父ピーター、そして妻のジルの遺体が引き上げられた。
だが姉であるルーシーの遺体は流されてしまったのか同じ場所からは見つからず捜索が続いていた。
ケベルの証言によりもう一人の共犯者が指名手配されることとなった。
ゼブ・ペトロフという男でホテルでケベルと会っていたのは彼であった。
クリーニング店を営んでいたが裏では非合法な品の売買をしていたようだ。
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とある廃ビルの一室。
ロッキングチェアに身をゆだね揺らめいている男がいた。
ルークである。
「俺は別にさ、正義漢を気取ってるわけじゃないんだよね。勘違いしないでね。ただ君は死ななきゃいけない。それだけのことさ」
向けた視線の先。
血まみれで悶える男が椅子に縛り付けられていた。
それはゼブ・ペトロフ。
もう一人の共犯者であった。
その傍に立つのは黒いローブを羽織った一人の女性。
氷のように冷たい眼差しでペトロフを見下ろしていた。
手に持ったナイフは血にまみれ月光を浴び怪しく光っていた。。
「ダリアちゃんさ、俺ってば君の残虐性にちょっとドン引きしちゃったよ」
図書館司書ダリア・ロッシの足元にはペトロフの右耳が落ちている。
「そうですか?私は元々こういう人間ですが……?」
「なぁ、何で俺がこんな目に……」
「おや、全く身に覚えがない?もしかしてさぁ、おたく記憶喪失な人?」
「まさか、まさかホートンを殺したのはお前らなのか!?もしかしてブラケット一家の……」
「あー、やっぱ身に覚えあるよねぇ。良かった良かった」
瞬間、右頬の肉がそぎ落とされる。
響く悲鳴。
そして血が流れだそうとした傷口を砂が塞いだ。
「な、何なんだよこれぇ!?」
「私のギフト能力。砂を操る『ミスター・サンドマン 』です。止血しますので失血死の心配はしなくて構いません」
「何だよそれぇぇ!」
「私は砂を操る能力者。相手から気づかないうちに砂を用いて怪我をさせ血液などを採取することができます。『クワイエット・ドライブ』の追跡には相手の生体情報が必要でしたからね。説明、しましたよ?」
「何のことを言ってるんだ。意味わかんねぇよ!!」
「わかんなくていいよ。別にあんたここで死ぬんだし。それにわかったところでどうしようもない」
ルークは割れた窓から夜空を見上げ。
「綺麗な月だなぁ」
この場にそぐわぬ言葉を発する。
「なぁお前ら、ブラケット一家と何の関係があるんだよ!生き残ったガキに頼まれたのか?」
「半分正解です。確かにあなた達の抹殺はティムの望みでした。だから、力を貸した。ですが彼は敗北し『契約』に基づき命を落とすことになった。で、ここからが肝心なのですが…この件ではもうひとり依頼者が居ました」
「も、もうひとり!?」
「ルーシー・ブラケット。彼女がもう一人の依頼者です。あなた達が湖に遺棄した時、彼女は生きていた。そして姿を隠しながら正義を果たす機会をうかがっていたんですよ」
「生きてた……あ、あの女が生きてただと!?」
「憎しみにかられた『彼女』は私に頼んできました。小さい頃から一番の親友だった私に正義を果たす、と。ティムは失敗しました。だから、『私達』が引き継ぐんです」
語る彼女に異変が現れる。
頬に何かが貫通した大きな傷跡が現れ始めた。
弾痕だった。
更にローブが脱ぎ捨てられる。
ミニ丈のトップスにショートパンツといったこれまでの彼女のイメージとは異なる服装であった。
露わになった腹部周辺にも弾痕が現れ始める。
更にはミドルショートであった髪が明らかに腰のところまで『伸びて』いた。
「な、何だよこいつ。何だって言うんだよ。一体何が、何が起こってる!?」
「残念、ストリップショーとかじゃないんだなこれが。紹介しようか、彼女が『ルーシー・ブラケットだ』」
「はぁぁぁ!?」
「色々あるんだよね。これもまた、『彼女』のギフト能力なんだよね」
「正義とは果たされるべきものだ。ケベルは罪を認め、パパとママを見つけさせた。『正義』は果たした。だが貴様は違う。己の保身を選び逃げ出した。よって判決を言い渡す……死刑!!」
「待て、待ってくれ。反省している。本当に悪かった。だから、だから助け……あああああああああっ!!」
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ボロボロの肉塊になり果てたペトロフ。
その傍でローブを羽織ったダリアが呆けた表情で天井を仰いでいた。
「ルーシー、来たんですね。正義を果たして、また帰っていった。久々に話をしたかったんですがね」
「傷だらけの身体を見られたくないんだろうな。電話、してみなよ」
するとダリアの前でコール・フレームが展開される。
「ごめんね、ダリア。あなたが外してる最中にお邪魔しちゃったんだ。すぐに行かないといけない用事もあったしペドロフに正義を果たした後、あなたに会う前に帰っちゃった。ごめんね」
と、ルーシーの声で『ダリア』が口にする。
更に
「残念だったけど仕方ありません。それよりティムの事は残念でした」
とやはり『ダリア』が喋る。
そんなやり取りを続ける『ダリア』をルークはただ、見つめていた。
「いい加減気づかないのかねぇ。あの二人、『同一人物』なんだってさぁ。いや、あのレベルになると最早別個の存在が体を共有してるって言うべきなのかな。まあ、俺が教える事でもないしね」
「そう言えば今日、図書館で中々面白い人と出会いましたよ」
ルークが部屋を後にする中『ダリア』、否『ルーシー』は一人で話を続けていた。
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