#26 クワイエット・ドライブ~part3~
「逃げ切ったのか……助かったんだな……ありがとう、本当にありがとう」
歓喜し、頭を下げるケベルだったが響一郎は警戒を解いていなかった。
響一郎の視界に映るコール・フレーム。
そこには『タイプ:オートトラック』の説明が出ていた。
なんらかの『きっかけ』で自動的に相手を追尾するタイプの能力。
本体との距離に関係なく強力な攻撃が可能な反面、本体には周囲の正確な状況が分からないという弱点もある。
追尾にもルールがある場合が多く、ある意味大雑把な攻撃になる。
思考する。
そもそもどうやって追尾してきている。
標的は確実にケベルだ。
では他者とケベルはどう分けているのだろうか。
「まさかあんなものが出てくるなんて。あんなのおとぎ話の産物だと思ってたよ」
「おとぎ話?なぁ、ケベル。あんたはあれを『知っている』のか?」
「確信があるわけじゃない。だがあれはガキの頃、母親に読んでもらったおとぎ話に出てくる『クレイオー』だ。『復讐の女神』の従者だよ」
「母親……おとぎ話……」
チリッと胸に痛みを感じる。
むかしむかしあるところに……
ふと、懐かしい童話のフレーズが蘇ってきた。
「そうか、おとぎ話か。こっちには桃太郎とかあるんだろうかな。興味深いな。そうだな、そういう知識も取り入れていいかもしれないな……」
「なぁあんた、何を言ってるんだ?いや、そんなことはどうでもいい。問題はあのクレイオーだ。『狙われたら逃げられない』。恐ろしい復讐者なんだ」
「……もしかして、何か心当たりがあったりするんじゃないのか。恐ろしい復讐者に狙われる心当たりだ。例えば………『ブラケット一家』とか」
響一郎の言葉にケベルは言葉を失う。
「この際、フェアに伝えておこう。明確な証拠はない。だが、さっきの出来事、そしてあんたの仲間であるホートンの死はブラケット一家の事件と繋がっていると俺達は考えている」
「そ、そんな……まさか。ブラケットが……」
「信じる信じないは勝手だ。だが心当たりがあるんだろ?とぼけても構わないが顔はとても正直者だ。いいか、遅かれ早かれ真実は掴まれてしまうぞ。そして、とぼけるのはあまり感心は出来ないな」
何かを観念したようにケベルは項垂れた。
「あんな事になるはずじゃなかったんだ。ただちょっと遊ぶ金が欲しかった。それだけなんだ。あの家の娘が、ホートンの女が出てきて言い争いになってそしたらキレた『あいつ』が父親を撃っちまったんだよ」
「自白、と受け取るがいいんだな」
「わかってたんだ……いつか『報い』を受ける日が来る。結局、あんな酷いことをやって俺はクソみたいな人生しか送れなかった……なぁ、俺は何処で間違えたんだ?」
「……人を殺した。それがそもそもの間違いだ。お前は償わなければいけない。そして………残念だが悪い知らせだ。まだ走る必要が……あるみたいだな」
視界の先。
扉のこちら側の空間が揺らぎクリオネが顕現しようとしていた。
「逃げきれてないぞッ!走れケベルッ!!エレベーターだ!!」
腕を伸ばしエレベーターのボタンを押す。
全て、下行きだ。
「生き残れッ!そして罪を償え!!」
「うぉぉぉ!!」
二人は走り出す。
本来なら密室となるエレベーターは使用したくない。
だが、速度がある。
クリオネの速度は決して早くもなく遅くもない、一定である。
じわじわと相手を追いつめ、恐怖を与えながら嬲る能力だ。
ならばエレベーターの速度で再び引き離せる。
だが他人の行動とは思い通りにならないものである。
ケベルは何を考えたか途中で横にそれた。
唐突な誤算が起きたのだ。
目についた屋内階段。
安直な逃げ道。
彼はそれを『上へ逃げ』だした。
「な、何をやってるんだお前はぁぁぁ!!?」
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