#25 クワイエット・ドライブ~part2~
「うおおおおっ!」
叫びながらケベルは先ほど駆け下りた非常階段を上へと逃げていく。
クリオネはゆらゆらと漂いながらそれを追っていく。
「くそっ、やばい。上へ逃げてる。何で人間って上へ逃げたがるんだ!!」
頭部が割れ数本の触手が姿を現す。
クリオネと言う生物は捕食の際に頭から触手を出す。
それは『バッカルコーン』と呼ばれている。
だがこのクリオネ型ギフトのバッカルコーンは先端がドリル状になっており回転していた。
「まずいな、あの触手。バッカルコーンが出てるだけでもまずいがあれは危険だ」
そこでふと疑問に思った。
ケベルにはあのクリオネが見えているようだ。
基本的にギフト能力が具現化したものは一般人には見えない。
「ケベルも能力者か?それとも別に見える『理由』があるのか?」
そんなことを考えているとクリオネが階段に到達した。
回転する触手が階段の踏板や手すりに触れるとギュルギュルと破砕していく。
「上へ逃げるのはやはりまずかった!クリオネの動くスピードは一定だ。上昇するスピードも!だが逃げる方には体力がある。そして上へ逃げるのは予想よりも体力を消耗するぞ!!」
何はともあれクリオネの動きを止めなくてはならない。
響一郎はナイフを握り締め腕を解き飛ばす。
触手は触れたものを破砕する為、狙うはボディ。
しかしナイフは刺さらず弾かれてしまう。
「硬い!それなりの防御力を持っているのか!?」
動きは止まらない。
上昇しながら階段を破砕しケベルを追いつめようとしている。
「クリスッ!ケベルが攻撃をされているッ!そこから追跡している怪物を撃てないか!!」
「見えてるぜ!見えてるけどなぁ、ゆらゆらしてる上に階段の手すりやらが障害物になってて狙いにくい!」
位置取りが災いした。
それぞれ上下にいるのが問題だ。
これが横の移動なら狙いやすかったのだが……
そしてさらに厄介なことがある。
階段が壊されていっている。
つまり地上からケベルを追いかけるのが困難になっているのだ。
それならばと響一郎は腕をめいいっぱい上へと放つ。
まだ破砕されていない階に伸ばした腕を固定し、上昇していく。
理論としては正しい行動だ。
しかし……
「重い!身体を引き上げるのに意外と力がいる!!」
それでも力を振り絞りケベルを超えて一つ上の6階に到達する。
問題はここからだ。
先の体験よりケベルを抱えて能力で上へ行くのは無理と考えていいだろう。
そこまで響一郎の能力は成長していない。
ではクリオネに接近戦を挑むか。
否、無意味と思われる。
恐らくパワーは圧倒的に相手の方が上だ。
「た、助けてくれよ!!」
ケベルも6階に到達する。
「よし、中に逃げ込むぞ!!」
非常扉に手をかける……が。
「開かない、だと!?」
中から出るのは簡単だ。
しかし防犯上、外から戻るのは簡単に出来てしまっては困る。
「これは……そ、そうかオートロック……」
唾を飲み込む。
破砕が近づいてくる。
響一郎は扉を見た。
カギ穴は……
「あるッ!鍵穴は存在するぞ。それならばいちかばちかだッ!」
指を解きそれをカギ穴に差し込む。
解くことができる能力を利用し自分の身体でピッキングを試みたのである。
とは言えピッキングなど生まれてこの方やったことがない。
テレビドラマなどで時々見るが簡単に出来るものだろうか。
とは言え、必死になればなんとかなるとはよく言ったもの。
ガチャッと音を立て扉が開いた。
「行くぞッ、早く逃げこめ!早く早く!!」
「うわあああああ!!」
ケベルが建物に滑り込む。
響一郎も飛び込み、同時に伸ばしたうえで扉を閉めた。
ガリガリと鈍い音がするが扉は破られずやがて音が止む。
「お、追ってこない……撒いた、のか?」
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ホテルから少し離れたオープンカフェ。
ティム・ブラケットが席についていた。
テーブルには湯気を立てるコーヒーカップ。
「……どういうことだ。誰かが邪魔をしている。俺の『クワイエット・ドライブ』を攻撃した奴がいる。邪魔しようとしているぞ……俺の能力は『自動追尾』だ。現場の状況はわからん。確認しに行くことも『出来ない』」
噛み締めた口の奥で歯が強く軋む。
だがティムは湧き上がる怒りの感情を胸の奥にしまい、一呼吸。
そしてコーヒーに口をつけ、大きく息を吐く
「だが………問題はない。そうだ、『クワイエット・ドライブ』からは逃げられない。確実に追い詰め、抹殺する。俺はただ、ここでコーヒーを飲んで完了を待てばいい。それだけのことだ」
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