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#18 図書館司書と開いてはいけない本~part3~ 

『開いてはいけない呪われているかもいけない本』

 それが、視界にあった。

 その前には本を探している胡散臭い男。

 彼に気づかれてはいけない。

 本の事に気づけば間違いなく彼は『開いてしまう』

 その本にどん呪いがあるかはわからない。

 だが間違いなく良いものではないだろう。


「おっ、自己紹介が遅れたな。俺はルークって言うんだ。よろしくな」


「あ、ああ。俺はキョウ……」


 声が上ずっているのが自分でもわかる。

 マズイ、とりあえずこの場からルークを離さなければならない。

 

「な、なぁルーク。俺、この街に来てそんな長くないんだ。上手い店とか知らないかな。ほら、そろそろランチタイムだろ?」


「おいおい、急にフレンドリィだな。だがそう言うの、嫌いじゃないぜッ」


 乗ってくれた。

 意外に単純で助かった。

 このまま彼とこの場を離れればザン・Aはまたどこかの書架へ『移動する』だろう。


「海老は好きか?この近くにすっげー美味い『クリーム海老』が食べられる店があるんだよ」


 クリーム海老。

 料理名だろうか。

 何やら海の幸とクリームとはこれまたアンバランスな組み合わせだが。


「クリーム海老?」


「えぇっ、知らない?ラマノール湖で摂れる海老さ。身がクリームの様にトロっとしてるんだよ」


 ラマノール湖。

 確かこの国にある世界第5位の大きさを誇る湖だ。

 これはたまたま本部でかかっていたテレビ番組で仕入れた情報だ。

 

「それは美味そうだな。そこに行こう」


 これでこの場を離れる口実が完成した。

 実際に美味そうだ。興味もある。

 金に関しても特別活動費ということで幾分か支給されているから問題はない。

 と思った瞬間。


「それじゃあ俺、読んでた本を返しとくな」


 言ったルークの手にあったのは『ぶっとびスイーツ大全』


「なんでやねん」

 

 思わず関西弁で突っ込んでしまう。

 そう、明らかに背後の棚に収められるであろう本。

 そして振り向けば間違いなくザン・Aを目にしてしまう。


「くそっ!」


 反射的に右腕を解き本棚に伸ばす。

 そしてすさまじい速さでザン・Aを抜き取ると上の書架の空いたスペースに放り込んだ。


「あれ、今、脇を何か通らなかったか?」


「き、気のせいじゃないか」 


 ルークは首を傾げながら『ぶっとびスイーツ大全』を書架に戻す。

 そこへ…

 

「さっきから騒がしいですね。図書館ではお静かにと申しているはずですが」


 図書館司書ダリアがうつむき、表情を隠したまま近づいてくる。

 しめた、と響一郎は思った。

 これでつまみ出されればより安全に図書館から出られる。

 まあ、今後の活動に支障が出るかもしれないが呪われた本を開くよりマシだ。


「あぁッ、ごめんね、ダリアちゃん。ちょっとこの人と意気投合しちゃってさ」


 手を振り降参の意志を魅せるルーク。

 どうやら知り合いらしい。

 瞬間、ルークがバランスを崩し書架によりかかり棚が揺れる。

 危険を感じ見上げると先ほど上に放り込んだザン・Aが棚から零れ落ちたのだ。


「なんでやねん」


 慌てて再度腕を解きのばす。

 しかし慌て過ぎた結果だろう。

 響一郎の腕はザン・Aを弾いてしまいポスっと音を立てルークとダリアの間に本が落ちる。

 そして……


「なんでやねん」


 その勢いで開いてしまった。

 

「おやぁ、これはもしや……」


「ザ……ザン・Aッッ!?」


 慌てて駆け寄る。

 瞬間に迸る閃光。


~~~~~~~~~~~~~~~~



 次に気づいた時、3人は森の中にたたずんでいた。


「森ィ?オイオイ、何だよこれえッ!」


 状況が呑み込めず辺りを見渡すルーク。

 対してダリアは肩を落とし冷や汗をかいている。


「ひ、開いてしまった……発動してしまった……」


「ダリア……これは一体どういう事なんだ。ザン・Aとは……」


「ザン・Aは『独り歩き』のギフト能力。本体は著者である童話作家……彼は、『異世界人』だったともいわれています……」


「ダリア、あんたはギフト能力について知ってるようだな」


「ええ。図書館司書にはギフト能力を身に着けている者が多いんです……いいですか、死後も強く残るタイプの能力があります。ザン・Aがそのタイプ。図書館では何回か排除を試みましたが場所を移動するため上手くいきませんでした」


 ルークは状況が呑み込めないのかおろおろしている。

 可哀そうだが構っていられない。

 状況の確認が最優先である。


「開いたらどうなる。あんた今、『発動』という言葉を口にしたな。この状態がそうなのか?」


「ザン・Aには7つの物語が収められています。そのうちの一つが『ランダム』で『発動』してしまうのです」


 ダリアの顔には焦りが見られる。


「図書館側では7つとも『攻略』した実績があります。物語を攻略すれば解放される。ですが『難易度』があります。そこが重要です。どの難易度かが重要です」


 言い終えたところで少し離れた草むらで何かが動く。

 そして……


「助けてくれよぉ~~ッ!」


 情けない声を出しながら小さな白オオカミが飛び出してきた。

 鎧兜を身にまとい粗末な剣と盾を持っていた。

 ルークが白オオカミをつまみ上げる


「おい、何だお前ッ!?俺らに危害を加えようっての?」


「ち、違うよ~。俺はただ頼まれたんだ。14歳の誕生日に王様からあいつらを退治しろって言われたんだい」


「リ、リトル・グッド・ホワイト……マズイ、こ、この物語は……難易度3位」


 ダリアの表情に絶望が現れる。


「さんびきのデビルオークッ!!!」

少しでも面白いな、いいな、続きが読みたいな、と思ってくださったのなら下から評価、ブックマーク等していただけるとものすごく嬉しいです。

執筆の励みになります。

次回は奇妙なおとぎ話ワールド展開です。

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