#17 図書館司書と開いてはいけない本~part2~
響一郎が身に着けたギフト能力『ネバー・サレンダー』。
自分の身体を紐の解くことができる。
解いても身体の機能は維持される。
身体を解くことで狭い場所などにも入り込める。
高いところにも手が届く。便利だ。
そして、高度な学習・成長能力を持つ。
ただ、これについては本当に同じギフト能力からの派生なのか怪しい。
もしかして何か別の要素があるのかもしれないが今は謎である。
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図書館に入って約2時間。
高度な学習能力と言っても読める本の量には限度がある。
とりあえず、歴史の本などからこの世界の背景を探ろうと試みた。
元々はファンタジー世界を絵にかいたような歴史をたどっていたが約300年前、技術革命と呼ばれるものが起き大きく変化をしていったようだ。
そして世界にはいくつもの人種が存在する。
大きく分ければ『人間』『亜人』『魔人』となるらしい。
『亜人』は技術革命以前から奴隷として扱われていることもあり、人権を手に入れたのはここ最近100年ほどのことらしい。
「……ふぅ」
正直、歴史から手を付けたことに後悔していた。
冷静に考えればわかる。
歴史の中にはこういったどす黒いものが渦巻いているのだ。
歴史とは人の歩みそのものだ。
「熱心だねぇ。お勉強」
本から視線を上げる。
視線の先には20代後半と思しき男が座っていた。
よれよれのワイシャツは胸のボタンをしっかり絞めておらずむしろ取れかけている。
「……えっと、どうも」
「あれかい、卒論のリサーチみたいなやつ?」
卒論か、と響一郎は苦笑する。
あのまま大学に在籍していればその内立ちはだかった壁だ。
だが今はある意味卒論より大きな壁が目の前にある。
「いや、何て言うか色々知識を蓄えたいと思って」
「勉強熱心だッ!俺はさぁ、本を探しに来たんだけど見つからないのよ」
男は聞いてもないのにしゃべり始めた。
図書館なのだから静かにして欲しいと思い。
「司書に聞いただどうなんだ?」
早々に話を切り上げようとする。
だが…
「いや、それがさ事情あるんだよね。司書のおねーさんに聞くと怒られる本探してんの。見なかったかなぁ、『ザン・A』ってさ」
「それって…」
先ほどダリアから注意された『開いてはいけない本』。
そのタイトルが確か『ザン・A』だ。
「『ザン・A』は技術革命前後に生きたとされるある童話作家の遺産さ。この童話作家は幾つかの名作を残したがその中から問題がある7作を収めた本をある図書館に寄贈した」
「それがこの図書館だと?」
「察しがいいね君。探偵になれるよッ!」
「今の話を聞いてたら大抵の人間が想像つくことだ……で、その『ザン・A』を見つけてどうするんだ?」
「いやさぁ、気になるじゃない。『開いてはいけない』って言われると。噂によると『呪われる』らしいんだけどね。でも無いんだよね。どうも、『自分で場所を移動』している本らしい」
話を聞いた時から碌なものではないと思っていたがその通りだった。
どう聞いても『呪いの本』。
ゲームならば本棚を調べたら襲い掛かってくる魔物の類だ。
「俺って運が悪いんだよね。だから全然見つかんない。それでなくてもこの図書館広すぎでねぇ」
男は立ち上がると空中に浮いている幾つかの小部屋を指す。
「あそことかにあるとお手上げだよね。特別な許可がいる本とかが収められてるところだって」
響一郎は考える。
恐らく『あの小部屋にはない』だろう。
そういう場所にあるなら司書がわざわざ忠告をする意味がない。
そして先ほどの『自分で場所を移動』いるという噂については残念ながらその通りなのだろう。
だからこそ司書は忠告している。
どこに現れるかわからないから。
どちらにせよ、男が見つけられないのは『運が良い』ことだ。
そう考えながらふと、男の方に目をやった瞬間。
「!!」
心臓が激しく打つ。
男の背後、料理レシピ本の棚だった。
その中に一つ、明らかに他とは違うデザイン、黒い背表紙の本があった。
タイトルは『ザン・A』




