#13 ネバー・サレンダー~折れない精神~
対峙する二人。
トイレに行こうとして異世界に来た大学生。
道を踏み外した芸術家くずれ。
「驚いたな。まさか神に愛された者が俺意外にもいるとは」
「興味ねぇな。神だとか言われても俺はこの世界の神を知らん」
「罰当たりめ」
ゆっくり。
ゆっくりと『ヴェロニカ』の力が宿る人差し指を動かす。
触れれば解体できる。
響一郎の背後には風船が浮いている。
彼の能力だろうか、ジョンガリアは違うと判断した。
それならば最初から風船を盾にしてくればいい。
恐らく背後にいる男の能力だろう。
ということは彼は能力者ではないのか。
否、結論を急いではいけない。
だが風船はゆっくりとこちらへ近づいている。
先ほどの風船は奥の男、ダニーと呼ばれていた男が蹴飛ばしたのが見えた。
厄介そうな能力だ。
少しずつ近づいてくる。
撃ち落とそうにも至近距離にはイカれた男がいる。
「俺はな、ただ自分の居場所を探していただけなんだ。誰も俺のことを理解してくれなかった。神父様でさえ俺を狂ってるって……」
「狂ってんだろ、実際な」
「厳しいやつだな。いいかお前、誰かから謂れが無いのに、虐げられたことがあるか?」
一瞬。
響一郎の表情が曇る。
だがすぐに紡ぐ
「それが……あんたがした事を放免できる理由にはならないだろ」
「これは神の贈り物だ。俺の力だ。俺がどう使おうがそれは俺の権…」
「寝言は寝てから言え」
断ずる。
「そうやって、そうやって人の事見下してんじゃねぇぞガキがぁぁッ!」
瞬間。
ジョンガリアの右腕が。
能力の発動がみられていない、警戒していない方の腕が。
複雑に変形し、ボウガンへと変形する。
骨を、筋肉を、そして隠し持っていたナイフ矢を使い作られたボウガン。
至近距離から顔面目掛け、矢が放たれる。
「これで終わりだぁぁッ!」
しかし……
「わかってたさ。そんな気がした。腕に能力で武器を仕込んでるやつを知ってたから、きっと同じようなことをするんだろうなぁってな」
顔面に、左の眼。その下辺りに着弾する寸前、それは起きた。
響一郎の顔が一部、するすると『ほどけ』て矢が『素通り』した。
「そして何度も『視た』。だからかな。どうやら『学習』したようだぜ」
<動体視力Lv3を習得。見える、見えるぞッ!>
耳障りなアナウンスが聞こえる。
ほどけた部分が戻り、響一郎はジョンガリアを睨みつけた。
「もう、この攻撃は通用しないぜ?」
その言葉に、恐怖した。
ジョンガリアは『敗北』を感じた。
だがまだ認めてはいなかった。
矢がダメなら、ヴェロニカで触れて解体すればいい。
そう考え指を突き出した瞬間。
すとん……
「へ?」
頭上から落ちてきたナイフが、ヴェロニカの源である人差し指を落としたのだ。
「な、何でナイフがッ!?」
「お前がさっき僕たちにくれたナイフさ。『風船』にして頭上に飛ばしておいた。やはりそれくらい軽いと扱いも楽だ。精密な操作もできる。長椅子なんかは重いから膨らますのも大変なんだよ」
ダニーがコール・フレームを展開し救急車などの手配を始めた。
落ちた人差し指が徐々に元の形に戻っていく。
同時に、無理やり改造した右腕から血が噴き出し始め強烈な痛みが襲った。
そう、ジョンガリアの敗北は今度こそ確定したのだ。
「うわぁぁぁぁぁッ!!」
それでも壊れかけの右腕から矢となっていたナイフを無理やり抜く。
一方の響一郎は腕の一部をほどき螺旋状に、まるでバネのイメージに束ねていた。
そして……
「終わりなんだ。お前の心はもう、折れている」
言い終わると同時に勢いよく放たれた『伸びる』拳がジョンガリアの顔面にめり込んだ。
「ひぶっ!」
情けない声と共にジョンガリアはひざを折り、顔面から倒れこんだ。
「俺は……白鐘響一郎……」
大学生だった。
運動はあまり得意ではない。
アニメや漫画、ゲーム、映画、小説といったものが好きだ。
友人はどちらかと言えばいない。
時々、学食などで出会って世間話をする相手はいた。
だが何かが『噛み合っていない』気がずっとしていた。
ここは自分のいる場所なのだろうか?
ずっと、考えていた。
もし異世界へ転生するなら大好きなファンタジー世界に『だけ』は行きたくない。
夢が壊れると嫌だから。
同じように好きなものに夢を見ながら、新しい環境に生きたい。
半分は、叶った。
そして意外にもこの世界は、謎の受付譲から貰ったこの能力は高揚させてくる。
「この世界で生き抜いてみせるぜ!!」
戻るところはない。
元々ないのだ。
ならば前に進むしかない。
ただただ、折れない精神を以て。
「名前を付けてやろう。折れない精神に。決してくじけない、『ネバー・サレンダー』!!」




