#10 ギフト~目覚め~part1
その男は子どもの頃から妙な『癖』を持っていた。
否、癖というよりは病気……症候群だった。
それは『分解』と『再構築』の症候群。
与えられたおもちゃを数分後には分解、他のものと組み合わせ新たな何かを作る。
最初は親もこの子は天才だと大いに喜んだ。
だがやがて時計を、電話機を……果てはシステムキッチンまで分解をしてしまう。
さらに問題なのは『再構築』とはいうものの新しくつくられたものがきちんと機能しているかと言えば……否であった。
そして近所の車を分解した時、彼は知り合いの神学の寄宿舎へ放り込まれ分解を厳しく禁止された。
「なぁ、ダニー。教えてくれ。この世界の教会ってのはこんなハチャメチャなのか?」
奇妙なオブジェがあった。
教会の長椅子が、燭台が、そして先ほどホットドッグ屋を追い払ったあの神父が歪に組み合わされていた。
息はあるようだが苦しそうにヒィヒィと呻いている。
「そうだな、答えはNoだ。あんな独創的なオブジェは見たことはないね。これは……『ギフトホルダー』の仕業だ!」
「……ギフトホルダー?」
「説明しよう。この世界ではかつて『魔法』という概念が流行った。だがある事件と共に『魔法』の次元も低下していき一部が日常生活に使われるに留まっている。だが過去の時代の様な特殊な能力を持つものが生まれることがある。その特殊能力が神の贈り物……『ギフト』」
「神の贈り物……なるほど、それでギフトか。洒落てるな」
「ギフトは諸刃の剣。使い方を誤り力に溺れれば人に害をなす。重犯罪特捜班はギフトを犯罪に利用している様な連中を相手にしている」
まあ、と付け加える。
「ギフトホルダーの犯罪がない時は普通の捜査とかもやるんだけどね。ハハッ」
そして視線を動かす。
入口傍の壁には扉が。
窓から覗いていた者は恐らくその先にある小部屋に潜んでいたのだろう。
「君にもギフトはある。どんな能力なのか、それはこれからゆっくり探っていくと良いよ。『名前』を付けてあげると良い。愛着が沸くだろうし名前があるものは強い。そういうものだ。それじゃあ、重犯罪特捜班の権限において実力を行使させてもらおうか!」
そう言うとダニーは迷いなく小部屋のドアノブに手をかけ、回す。
カチッ
手ごたえが違う。
音もどこか違う。
ダニーが触れたものは確かにドアノブだ。
だが、『ドアノブの機能を持っていない』物体であった。
瞬間、ダニーは反射的に後ろに飛ぶ。
先ほどまで立っていた場所。
その両側の床板が跳ね上がりドアノブを回した者を撃退するような形で合わさったのだ。
「トラップだッ!ダニー!!」
「ああ、わかってるッ。思ったより厄介だ。気をつけろ、奴には『敵意』があるぞ!!」
ここで彼らが取れる選択肢は2つ。
未知の空間である教会から脱出する。
恐らく敵の攻撃からは逃げられるだろう。
だが、間違いなくその間に逃がしてしまう。
もう一つは『追跡』を続けることだ。
もちろん、この謎の敵意に晒されるだろう。
どう選択するか?
「まあ、これしかないよな!」
笑い、響一郎はあえて閉めた。
教会の扉を。
「まだわけがわからん状況だが、折角神様から贈られたものなぁ、間違った使い方するのは……いけないぜッ!」
「ハハッ、君も大概クレイジーだな、キョウ!!」




