#1 トイレに行こうとしただけなのに……
白鐘響一郎
20歳
職業:大学生
「な……」
俺は確かに開けたはずだった。
トイレの、扉を……
あれはそう、社会学だったか。
講義が終わってトイレにかけこんだ俺の目に映った光景
病院?
実際の病院はそんなことはないのだが……白で統一された空間は病院というイメージを抱かせた。
白い床、白い天井、白いカウンター。
「何だ……これは?あれ、俺はトイレに……あれ?」
何が起こっている。
まさか扉を間違えたか?
「ねぇ……」
いやいや、そもそもうちの大学にこんな奇妙な施設があったか?
「ちょっとお兄さんッ!」
大きな声で呼ばれそちらを振り返る。
声の主は小太りの中年女性だった。
空間と同じように白で統一された服を着ている。
もじゃもじゃした髪型は何だか日曜の国民的アニメの主人公を彷彿させる。
「あ、えっと……」
「何を呆けてるのよ。用があるからここに来てるんじゃないの?もしかして冷やかしとかじゃあ、ないでしょうねぇ!!」
半目で睨まれた。
そ、そうだ。この人にここはどこか聞かなくては。
「す、すいません。実はお聞きしたいことが……」
そう言って歩み寄った瞬間、女性の表情がパッと明るくなった。
「あらまぁ、嬉しいじゃない。こっちの窓口に人が来るなんて久々よぉ。最近はほら、剣と魔法の世界ってのが流行ってるみたいでねぇ。」
「え、け、剣と魔法?」
「何かね、もう殺到よ殺到。昨日なんか100人も来たって愚痴られたのよね。100人よ、100人!!」
よくわからないがあれだろうか、人気の受付嬢とかがいるのか?
「おかげで若い子とかもそっちに駆り出されちゃってウチの窓口は1人だけなのよねぇ。つまり、あ・た・し♪」
うーむ、何の事だろう?
後、微妙に色気を出さないでほしい。
いや、でもまあ今窓口と言った………つまりここは総務課だったのか?
こんな窓口があったんだな。知らなかった。
剣と魔法?ファンタジーっぽいな。
ファンタジー学科とかあったっだろうか。
もしくは空想幻想世界学とかそういう講義か?
なんか面白そうだな。もしあるなら来年履修してみたいかも。
「えっと……それじゃあ道を教えてほしいんですが」
「もちろん、あたしがしっかりアシストしちゃうわ。腕が鳴るわねぇ。じゃあ、この書類にぱぱっとサインしちゃって」
書類?何の書類だろうか。
まあ、とりあえず総務課としても案内業務をするのにはサインが必要なのか。
俺はただトイレに行きたいだけなんだがな。
そういうものなのかもしれない。
彼女も職務に忠実であろうとしているのだ。それを否定するのは良くないと思う。
俺は言われた通り書類にサインをする。
「白鐘響一郎……いい名前じゃない。中々あたし好みのイケメンだし、親御さんに感謝しなさいね」
イケメンと言われて嫌な気はしない。
たとえリップサービスだったとしても嬉しいものだ。
そして親か。
長い事会ってない。今度連休があるから一度帰ってもいいかもしれないな。
久々に母さんのオムライスが食べたくなった。
「オーケー、それじゃあ召喚申請受領、そのまま許可ねぇ。あたしって仕事が早い女ねぇ。ついでにおまけにちょっとした『ギフト』もつけちゃうわ。ナイショだけどね」
ショウカン?
裁判に呼ばれるのか?
ギフトだと?何かわからないがサービスしてくれるのだろうか。
普段はあまり人が来ないらしいからってサービスが良すぎないか。
「え?えっとそれよりもトイレを……」
「それじゃあ色々大変だけどお姉さん応援してるわ。魅惑のセカンドライフ、いってらっしゃーいッ!!」
「聞いてーーーーッッ!!」
次の瞬間、世界が歪み再び世界が変わっていた。




