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不才な最強魔王様が勇者とパーティーを組む話

作者: 虹色 七音

 僕が最後に見たのは迫り来るコンクリートで、

 ワシが最初に見たのは美しい少女だった。


 僕だったワシは、人間だった悪魔は、自殺者だった魔狼は、


 今、魔王様の側近になっている。





     ☆





「ま、魔王様! 魔力安定率観察班(モニターズ)からの報告があります!」


 城内を足をもたつかせながら走ったその男が魔王の間で叫ぶ。その顔は青ざめ、尋常ではない様子だったが――


「よい、分かっている。私の安定期の話だろう? 自分の事ぐらい自分で分かる」


 ――反面、魔王は落ち着いていた。しかし、それは表層だけの話であり、プライドで体面だけは保とうとしているが内心は半泣きのように見えて、ただ事でない事が伝わってくる。

 まあ、実際ただ事ではないのだ。


 魔王と言う生物は、安定期と言うモノがあり、その安定期に入ると肉体や魂の状態が変化しにくくなり、年齢の変化が其処で止まり、力は劣化しない様になるのだ。

 そして、大抵の魔王は年齢とともに魂の内側に魔法陣が刻まれていくのだが……それは肉体的な年齢で言う所の十五歳ほどからで、普通の悪魔や人間よりもだいぶ遅いのだ。さらに、魔王と言うのは変則的に体が変化するスピードが変化し、その魔王。五代目ヘル アメリア=フリーデンは、その肉体を七歳ほどまでしか成長させていない状態で安定期に入ってしまい、魔法陣がほとんど魂に刻まれていない状態になってしまったのだ。

 それはつまり、能力がほとんどない、まあ、無能、不才という言葉が当てはまる様になる。


「アメリア、大丈夫か? 落ち着け、解決策ならいくらでもあるだろう?」


 魔王の椅子のもとで伏せていた黒い狼の姿をしたワシはアメリアにねぎらいの言葉をかけるが、実際はそんなに簡単な話ではないのだ。

 魂の魔法陣を変化、更新させる方法はいくつかある。


 悪魔であれば、生まれてから数カ月以内に魔法陣が確立し、それは変化させずらい。

 非安定期の魔王であれば、徐況に応じて魔法陣が自由に刻まれる。

 そして、

 魂が弱い代わりに柔軟である人間はパーティーを組み、魂をつなぐ事によって持っている魂の能力を少しだけだが、共有する事が出来るのだ。


 アメリアが能力を得るためには三つ目の方法しかないのだが、コレは魂が安定している悪魔には出来ない事だし、魔王の魂に魔法陣を刻む程ともなると強靭な魂を待つ人間でなければならない。

 例えば、大魔法使い(アークメイジ)とか、大賢者(ドクトル)とか、または勇者なんていう特別な人間だ。

 しかし、そのような人間は魔王領内にはあまりいない。そういった人間は魔王領外、魔王に反抗的な国にいるのが現状となっているのだ。


 それはつまり、魔王が敵国に潜入し、強い人間と深い友好関係を保たなければならないと言う事になるのだ。

 前の人生観にとらわれているせいで長らくこちらに住んでいるのにいまだに若干仕組みが理解できない所があるのだが、コレはワシでもわかる。


 魔王様(ご主人様)は、ピンチだ。





     ☆





「はは、あの才能の塊みたいなアメリアがこんな事になるとはなぁ!」

「魔王様、笑いごとでは無いのですよ」

「む、魔王はやめろ。俺は引退した身だ、いつもっからガープと呼べと言っているだろうが」


 四代目プルトン ガープ=フリーデンもまた、天才と呼ばれた身だ。初代ヘル程の力は無かったが、いや、正確には直接的な戦闘能力に関しては5人の魔王の内で最も低いと言えるだろう。しかし、その身に刻まれた魔法陣が尋常ではなかったのだ。肉体は若干十二歳にして六十歳ほどの物と成り、多彩な能力を行使し、国その物のバックアップと言う魔王の最も重要な職務の観点において大きな活躍を残した。

 その一方、娘であるアメリアは全く違った才能を有していた。

 初代すら上回るほどの絶対的な魔力量と回復量、そして圧倒的な格闘センス。

 つまり、本来魔王としてあまり求められていない直接的な戦闘能力に置いてアメリアは天才であったのだ。おそらく、ほとんど無能力の状態である今でも初代の腕を奪うぐらいの力、そうとまでは行かなくてもある程度戦いらしい戦いにはなると予想される。

 最強と恐れられ、暴竜(アンラ・マンユ)や、破壊神(ポレモス)生きた災害(テュエッラ)魔神(スィスモス)等と言った世界の災厄と言われる存在を一つの大陸に集め、その大陸ごと自爆したという伝説を持つ初代と、だ。

 しかし、本来魔王とは平和のために存在するものであり、本当の基本的な役割は魔王領の中を平和な、争いも無く、堕落し過ぎず、貧富の差が大きくは無く、差別が無く、誰もが平和と言えるような空間を作る事なのである。

 侵略行為に特化した様な、過剰戦力(アメリア)は必要とされていないのだ。


「しかし、どうするんだメフィスト? さすがに無能力では色々と問題があるし、戦争でも多角的な攻撃にはそんなに強くないだろう」


 ガープは魔王の目付け役、メフィスト=フェレス――通称じい――に言うモノの答えはほとんど出ている。


「そうですね。面倒臭いやり取りを貴方とやるつもりはありませんので、さっさと言ってください」

「連れねぇなぁ。そうだな、だがどうせ一択だろう? たった数年の小旅行、アメリアなら命の心配をしなくて済む」

「……状況的に言えば、うろたえながら正気かと訴えてやりたい気もしますが……それしか無いでしょうね。しかし、どうするつもりですか?」


 ガープは少し迷うような素振りを見せて、


「降霊受体“十三番の勇者”を使おう。それなら申し分ない」

「そっちはどうでもいいんですが」

「お、おい。結構重大な決断だったんだが!? 俺の娘の門出だぞ!」


 少々ずれた事を言うガープにメフィストがため息をつく。


「“十三番の勇者”を使う事に関しては別段問題ありませんが、……魔王不在の魔王領はどうすのかと言っているんです!」

「影武者を立てておいて俺が多少頑張れば良いだろう? アメリアはまだ直接人と会う様な機会が少ない、それで充分だと思うが」


 それで、いい訳がない。なぜなら――

「貴方は自分の現状を理解していないですか? 今の貴方は致命傷を受けてから死ぬまでの数秒間を限界まで伸ばしているだけの状態に過ぎないんですからね!」


 そう、本来ガープは十六年前の戦争で死んだ身だ。現状も、ベッドから出る事すら出来ないような状況だ。そんな状態で国を支えるような大規模な魔法を使えば寿命を削るばかりだ。


「そうだな、だがどうするのかを決めるのはメフィスト、お前じゃない」

「……ッ…………」

「だがな、俺でも無い。ってか、お前今舌打ち……」


 ガープが言おうとした言葉をメフィストが目で止めて、ああ、と理解したように言葉を吐く。


「今度こそ正気ですか? 実の娘に自分の命の天秤を渡すなんて……」

「お前だって、忘れた訳じゃああるまい。魔王の責任に耐えるためにはこれくらい、数番目に大切なモノ程度ならば切り捨てるぐらいの覚悟が必要だろう?」


 言葉と共にガープの目に一瞬覇気が宿る。魔王の、目だ。

 メフィストにはもう、返す言葉が無かった。いや、返す必要がもう無くなったのだ。魔王の生き様なら、千三百年間ずっと見て来たメフィストが誰よりも理解している。


「アメリア様に伝えます。決断次第“十三番の勇者”の用意を」





     ☆





 ギィィ


 先代魔王のいる部屋から現代魔王、アメリアが出てくる。


「ルー、じい、お待たせ」


 何処か決意を決めた様な、七歳ほどの容姿には少し不釣り合いな表情をしているように見えて、一目で話し合いの結果は察せられたがメフィストが訊く。


「アメリア様? どういたしますか?」

「うん、行くよ。私は」

「……はい。“十三番の勇者”を用意します。準備が出来次第呼びますので、少々お待ちを」


 カツ カツ と、メフィストが歩き去ってからまるで思い出したようにアメリアが呟いた。


  ――殺すの――


「ねえ、ルー。私って強いと思うの」

「ああ、アメリアは強い」

「そうだね。でも、でもさあ、こんなに弱い」


 アメリアは、泣いていた。幼い容姿に相応しくなく静かに、噛み殺すように泣いていた。


「私は、殺すんだよね。お父さんを」

「だから、強く成りに行くんだ」

「うん、でもさあ。強くなってもお父さんは助けられないんだよ? もう、強くなる意味なんて、判んないよ」


 ……人生から逃げた末にこんな所に来た様なワシが言える様な事では無いのかもしれないが、魔王と言うモノがどんなモノなのか、少しぐらいは分かっているつまりだ。

 だから、言う。


「アメリア、決まったんじゃなくて、決めたんだろう?」

「……ルーって、ペットのくせに偉そうだよね。

 無駄に気取った言葉を使ってるし、

 魔王()の事子供扱いしてくるし、

 遠慮なく恥ずかしこと言うし」


 ――え? 何気に傷ついたんだが。確かにゲームの中みたいな世界に来てから羞恥心とかが軽く崩壊した様な気はするけど……そんなに言うほどだったかな。っていうか、見た目七歳を大人扱いする方が難しいのだが……。


「ルー、ありがとう」

「どういたしまして、アメリア」

気が向いたらこれを一話にして連載するつもりです。

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