090・大樹の家にて
第90話になります。
よろしくお願いします。
「……はい、おしまい」
コロンチュードさんに、傷を治してもらった。
その手に持っているのは、先端に小さな魔法石のついた、10センチほどの玩具みたいな杖である。
それでも、僕の傷だらけだった身体は、すっかり元通りになってしまった。爪で裂かれた右腕も、今は綺麗な肌を見せている。
(やっぱり、治療する腕が違うのかなぁ?)
グー、パーと右手を動かす。
うん、違和感もない。
「あぁ、マール……マール」
ギュウ
イルティミナさんは、さっきの出来事がよほど堪えたのか、回復魔法をかけられる間もずっと、僕を後ろから抱きしめていた。その美貌は、僕の髪に押しつけられ、鼻息がちょっとくすぐったい。
声も、少し泣いている感じだった。
キルトさんが、きつい眼差しをコロンチュードさんに向ける。
「無事だったから、よかったものの……本当にマールが死んだら、どうするつもりじゃった?」
「……別に」
相変わらず、眠そうな声だ。
「……頭さえ残ってれば、死んで13秒以内なら、生き返らせられるし」
…………。
(はぁ!?)
僕らは4人とも、唖然とした。
ちょっと待って欲しい。
前に聞いた話では、回復魔法とは、そこまで万能じゃなかったはずだ。投薬治療や外科手術と同じで、限界はあるし、だから後遺症だって残ることもある。
そう聞くと、
「……後遺症? それ、腕が悪いだけ」
「…………」
「……それ、回復魔法を漠然と使ってるだけ。……意味なし」
コロンチュードさんは、言う。
「……人体構造。……血管、神経、骨、筋肉、内臓……色々、どこに何があって、どう動いているか、知っておく。……損傷個所、見極めて、どこをどう治すか、ちゃんと考えておく。……それ、一番大事」
「…………」
「……漠然と治すイメージだけ、……変な治り方、する。……それ、一番ダメ」
その手の玩具みたいな杖が、僕の額に当てられる。
翡翠色の瞳が、僕を見つめる。
「……私、君の構造、戦う前にスキャンした。……だから、治せる自信、あったよ?」
そう、だったんだ?
(そういえば、『魔法の強度はイメージで決まる』って、前にソルティスも言っていたっけ)
『金印の魔学者』の言葉に、キルトさんもイルティミナさんも、知らない知識だったのか、とても驚いている。ソルティスなんて、両手を小さな胸の前で握り合わせて、「さ、さすが、コロンチュード様……っ」と呟き、もはや感涙に咽びだしそうな様子だ。
そんな僕らのことを、眠そうな目が見回す。
それから、空を見上げた。
「…………」
いつの間にか、西の空が赤くなり始めている――もう、夕暮れだ。
(これで帰ったら、王都に着くのは夜中だね?)
森の移動も、薄暗い中になりそう。
ちょっと、ため息だ。
コロンチュードさんは、寝癖だらけの金髪を揺らして、首を傾ける。
「……今日、泊まってく?」
「え?」
「……どぞ?」
僕ら4人は、顔を見合わせる。
そして、僕の頭にあごを乗せたイルティミナさんが、戦い終えたばかりの僕を見下ろして、少し考え、頷いた。
「そうしましょうか?」
「うん」
僕らは、その日、大樹の家にお泊まりすることになった。
◇◇◇◇◇◇◇
大樹の家に入ると、コロンチュードさんは突然、研究机の上をガサゴソとやり始めた。
「……はい、これ飲んで」
やがて出てきたのは、琥珀色の液体の入った試験管だ。
僕に差し出される。
…………。
の、飲んで大丈夫なのかな?
「あの、これは?」
「……キュレネ花の蜜、濃縮したの」
あ。
魔力回復用の薬だ。
そういえば、光鳥の魔法を使ったせいか、僕の全身は、少しだるかった。頭もちょっと、ボーッとしている。
「……肉体、治せても、魔力、別」
そうなんだ。
「ありがとう、コロンチュードさん」
「……ん」
試験管を受け取ると、彼女は、満足そうに頷いた。
(案外、優しい人だよね?)
口下手だし、ずっと眠そうだけど、色々と思慮深いし、人のことをよく観察している。僕が精霊と交信したいという望みも、ちょっと荒っぽかったけれど、ちゃんと叶えてくれた。
色々と誤解され易そうだけど、僕は、いい人だと思った。
なので、中身を飲む。
ゴクッ
「…………」
に、苦ぁ~い!?
思わず、吐きそうになった。
前にソルティスにもらったキュレネ花の蜜は、甘くて美味しかったのに、これは、凄い苦みがある。口の中が、麻痺してる感じだ……。
これが、濃縮ってこと?
(で、でも、身体には効きそうだね?)
良薬、口に苦し。
イルティミナさんが心配そうに見ていたけれど、僕は、我慢して全部を飲み切った。
「いいなぁ、マール」
ソルティス、羨ましそうだ。
……一口、あげれば良かったかな? ……ふふふっ。
おまけで、お水をもらって、ようやく一息。
コロンチュードさんは、そんな僕を眺めながら、不意に、こんなことを言った。
「……やっぱり君は、神狗だから。……魔力、少ないね」
「え?」
神狗だから、魔力が少ない?
僕は――いや、僕だけでなく、他の3人も一緒に、キョトンとなる。
ソルティスが、興味深そうに、
「ど、どういうことですか?」
「……そのままの意味、だよ? ……だって、魔力って、元々……悪魔の力だから」
えっ!?
(魔力が……悪魔の力?)
驚く僕らに、『金印の魔学者』は、教えてくれる。
魔力の源は、大気にある魔素だ。
そして、魔素とは、実は、『世界の歪』からこちらの世界へと流れ込んでくる、『魔界の空気』の成分の1つなんだって。
古代タナトス魔法王朝は、そうとは知らず、魔素を使って発展した。
そして、より多くの魔素を手に入れるために、『世界の歪』を広げようとしたんだ。その結果、『魔界』と通じる大穴が開いてしまい、悪魔たちまで来れるようになって、400年前の神魔戦争が起きたのだという。
(……なんか、前世の世界みたい)
科学文明が発展しすぎて、暮らしている地球環境に被害が出ている。
ちょっと、似ている気がした。
そして、コロンチュードさんは、眠そうに天井を見上げて、
「……だから、神様たちは、『魔力』ない。……あるのは『神気』」
と呟いた。
(……神気?)
つまり、魔力の代わりとなる、神様たちの力?
みんなの視線が、神の眷属である僕に――『マール』に、集まる。
ソルティスが、訊ねた。
「じゃあ、ボロ雑き……じゃなかった、マールにも、その神気があるんですか?」
「……多分」
コロンチュードさんは、首を傾ける。
「……魔力、少ない。……けど、神気は、いっぱい。……だと思うよ?」
「思う?」
「……私も、そこ、詳しくない」
意外な言葉を聞いた。
この人は、なんでも知っていそうだったのに、知らないこともあるんだ?
「……だって、王家の人たち、調べさせてくれないもの……」
「あ」
いじけたような、コロンチュードさんの声。
考えたら、この世界にいる神の眷属って、今まで、女神の子孫といわれるシュムリア王家の人たちぐらいだったんだ。
さすがに王家の人たちの身体を、研究させてもらうことは不可能だ。素材がないのに、研究なんてできるわけがない。せいぜい、推測ぐらいだ。
そして、彼女は眠そうなのに、熱い眼差しを僕に向ける。
「……だから、私、君のこと、いっぱい調べたい」
「駄目です」
答えたのは、イルティミナさんだ。
ギュウウ
僕をきつく抱きしめながら、牽制するように『金印の魔学者』を睨んでいる。うぅ……首に後ろに、柔らかな弾力が2つ、押し当てられていて嬉しいけど、抱きしめる力が強くて、ち、ちょっと苦しい……。
コロンチュードさんは、「……残念」としょんぼりしている。
あはは……。
(でも、神気か)
僕は、自分の右手を見つめる。
この肉体にも、ちゃんと、その力が秘められているのかな?
もし、そうなら、
「……もし、神気があるなら、……君は、魔力よりも神気で、魔法……使った方がいいよ? ……その方が、より強い魔法、使えるから」
「…………」
コロンチュードさんは、本当に人を観察している。
僕が疑問に思ったことを、僕が訊ねるよりも先に、答えてしまっていた。
キルトさんが、問う。
「そのようなことが、できるのか?」
「……多分」
さっきと同じ答え。
「……それに、アルン神皇国にある『神武具』は、……神気でのみ、その真の力を発動することができた、はず」
「ほう?」
キルトさんは、感心したように唸る。
神気で力を発動する『神武具』。
なるほど。
きっと、キルトさんの『雷の大剣』やイルティミナさんの『白翼の槍』が、2人の魔力によって、凄まじい威力を発揮するのと同じなのかもしれない。
まぁ、でも、
(そもそも、その『神気』っていうのが、よくわかってないんだけどね?)
心の中で、ちょっと苦笑する。
ソルティスのおかげで、『魔力』を感じられるようになったように、いつか『神気』もわかるようになるのかな? いや、ならないと駄目なんだろうな。
『闇の子』と戦うためには。
決意を新たに、拳をギュッと握る。
グゥ~
(あら?)
決意した途端に、僕のお腹が大きく鳴った。は、恥ずかしい~。
みんな、呆れたように僕を見る。
でも、イルティミナさんだけは、僕に頬ずりしながら、優しく笑った。
「今日のマールは、大変でしたものね? お腹が空くのも、当然です」
「う、うん」
うぅ、フォローありがとう、イルティミナさん。
キルトさんとソルティスも、苦笑する。
コロンチュードさんは、眠そうな様子で、僕のことを見つめて、それから、窓の外を見る。
外は、少しずつ暗くなっていた。
「……そろそろ、お夕飯、しよ?」
そう呟いて、彼女は、ゆっくりと立ち上がった。
きっと台所があるんだろう部屋の奥へと、長い髪を引きずり、猫背のまま歩いていく。顔半分だけ、こちらに振り返らせて、
「……手伝い1人、希望」
「では、私が」
何でもできるお姉さんが、すぐに立候補した。
僕の頭を撫でて、
「すぐに作ってきますからね?」
「うん」
優しい笑顔と共に、白い手が離れて、イルティミナさんは、コロンチュードさんを追いかけていった。
(どんな料理が出てくるのかな?)
僕は、グゥグゥとうるさいお腹を押さえながら、期待を込めて、美味しい料理たちが来るその時を待つのだった。
◇◇◇◇◇◇◇
40分ほどで、片づけられたテーブル上に、料理が並んだ。
「…………」
「…………」
「…………」
料理を待っていた僕ら3人は、無言だった。
料理をしたイルティミナさん自身も、微妙な顔である。
ただ1人、コロンチュードさんだけは、満足そうな様子だった。
テーブルには、2種類の料理が並んでいた。
まずは、鶏肉の料理。
骨付きで、皮がパリッと焼けていて、中は熱々ジューシー。ふりかけられたスパイスが、絶妙な刺激で味わいを深くする。
他にも、木の実やキノコをスライスして、鶏肉と溶けたチーズも合わされた野菜のサラダ。
鶏肉とソースを絡めて、炒められたお米。
どれも絶品だ。
そして、もう1つは、素材そのままの料理。
たくさんの芋虫。
たくさんの昆虫。
とぐろを巻いた蛇。
それらの姿焼きが、木製のボウルにたっぷりと入っている。
どれも珍品だ。
(…………)
僕は、イルティミナさんを見る。
彼女も、僕を見た。
『大丈夫、どっちをどっちが作ったか、ちゃんとわかってるからね? うん、心配しないで……』
『……ありがとう、マール』
視線だけで、そんな会話。
あの大食い少女のソルティスでさえ、敬愛するコロンチュード・レスタ様の手作り料理には、引き攣った顔をしている。そして、あの勇敢なキルトさんだって、この珍品料理には戦意喪失し、完全に視線を外している。
「……自信作♪」
コロンチュードさんは、猫背を起こして、ちょっと誇らしげだ。
グゥグゥ
(うるさい、マール)
自分のお腹を、平手で叩く。
「……じゃ、召し上がれ♪」
ニコニコ笑顔の『金印の魔学者』から、ついに死刑宣告が下された。
「い、いただきます」
「……いただきます」
「……いただこう」
「い、いただきまぁ~す……」
そうして僕らは、食欲以外の唾をゴクッと飲み込むと、テーブルに並んだ料理を食べ始めた。
……胃薬、ここにあるかなぁ?
◇◇◇◇◇◇◇
ごめんなさい。
コロンチュードさんの料理、見た目に反して、とっても美味しかったです。
(……嘘みたい)
勇気を出して、かじった時の衝撃は、忘れられない。
4人で思わず、顔を見合わせちゃったよ。
でも、あまりの見た目なんで、キルトさんは、1口食べて、速攻でリタイヤしました。
料理は残さない――かつて、毛玉ウサギに誓った僕は、目を瞑りながら、がんばって完食した。イルティミナさんも、僕ががんばっていたので、一緒にがんばって、全てを飲み込んだ。
ソルティスは、敬愛する人のために、自分の分だけでなく、キルトさんの残した分まで食べてみせた。
本当、尊敬するよ……。
コロンチュードさんも、自分の料理をみんなに全部食べてもらえて、ちょっと嬉しそうだった。
「……機会があったら、……また、作るね?」
…………。
僕らは答えず、ただ曖昧に笑っておきました。
そうして食後。
僕らは、ビーカーに入れられた紅い液体――紅茶を飲みながら、のんびりした時間を過ごしていた。
カチャカチャ
コロンチュードさんは、食べ終えた鳥の骨を手にして、お皿の上で、元の鳥の形に並べている。
(何してるんだろ?)
ちょっと覗き込む。
彼女は気づいて、
「……伝言。……君たち、泊まること、伝えないとまずいでしょ?」
え?
キョトンとする僕。
と、イルティミナさんとキルトさんが、ハッと思い出した顔をする。
「そうでした。ギルドに連絡しないと」
「わらわたちには、王国から、行動制限がかかっている。今日も日帰りということで、許可を得たのじゃ。……しまったの」
あ、そうだったんだ。
(でも、もう遅いよね?)
窓の外は、もう真っ暗だ。
今から王都に帰ろうとしても、日付は変わってる。到着は、夜明けぐらいだろう。
慌てる2人。
ちなみに、ソルティスは、食べすぎて動けない。
でも、コロンチュードさんは、あの眠そうな顔で、玩具みたいな杖を手にする。
それを、並べた鳥の骨に向けて、
「……だから、これ」
パッと、フラッシュライトのように、魔法石が光る。
途端、
カララン
お皿の上で、『骨の鳥』が起き上がった。……え?
驚く僕らの前で、コロンチュードさんは、いつの間にか書いていた手紙を丸めて、竹みたいな筒に詰め、それを骨の足にしっかり結ぶ。
「……えっと? 『ゲコゲコの風』だっけ?」
カエル?
キルトさんが、顔をしかめる。
「『月光の風』じゃ」
「……ん」
コロンチュードさんは、青白い光を放つ『骨の鳥』を両手で抱えると、開いている窓に向かってポイッと放り投げた。
カシュカシュ
骨の翼を羽ばたかせ、『骨の鳥』は、夜の空へと飛び出していった。
(……どうして、骨の翼なのに飛べるのかな?)
きっと魔法的な理由があるのかもしれない。
何にしても、この金印の魔学者の手にかかると、僕らの常識は、もう無価値になってしまう気がして、突っ込めなかった。
「……これで、もう大丈夫」
僕らに頷く、コロンチュードさん。
(うん、やっぱりいい人だ)
僕らの忘れていた僕らの状況まで把握して、すぐに手を打ってくれた。
まったく。
本当に頭が上がらないよ。
でも、お肉をご馳走になり、骨まで伝書鳩みたいに飛ばして、なんだか『鳥』さんには、申し訳ない気もする。
そして、ギルドの窓から、その『骨の鳥』が現れたら、
(きっと、ムンパさんも驚くね?)
その時の真っ白な獣人さんの反応を想像して、僕は、ちょっと苦笑いしながら、青白い『骨の鳥』が消えた窓を見上げていた。
◇◇◇◇◇◇◇
夜、僕ら4人は、大樹の3階ぐらいの高さにある部屋へと、コロンチュードさんに案内された。
木の根が、幾つも絡まったようなベッドだ。
布団は、羽毛だ。
(でも、ちょっと薄いかな?)
腰かけると、そんな印象。
そんなベッドに座る僕らを、コロンチュードさんは眺める。
そして、
「……じゃ、おやすみ」
眠そうな声で言う。
僕は、その金髪を引きずって立ち去ろうとする背中に、思い切って声をかけた。
「あの、コロンチュードさん? 明日から、コロンチュードさんも、僕らと一緒に行動しませんか?」
「…………」
彼女の足が止まる。
イルティミナさんたち3人は、驚いた顔をしていた。
でも、僕は大真面目だった。
今、この世界は『闇の子』という災厄に襲われている。
それに抗うためには、1人でも多くの仲間が必要だと思った。特に、この『金印の魔学者』のとてつもない力を、このまま見過ごすのは、もったいないと思ったんだ。
僕の真っ直ぐな視線を受け、コロンチュードさんは、ゆっくりと振り返る。
「……ううん、行かない」
そう断った。
僕は、それでも訊ねる。
「どうして?」
「……ここで研究、していたい」
彼女の言葉に、キルトさんは呆れた顔をする。
「そなた、このままでは世界が滅ぶかもしれぬのじゃぞ? わかっておるのか?」
「……ん」
コロンチュードさんは、頷いた。
「……もし滅ぶなら、その時まで、研究してたい」
「…………」
「……それで死ぬなら、それもいい。……死後の世界、知れる。……楽しみ」
うっすらと笑う。
「……知ってる? ……死ぬと、善人の魂は、神界。……悪人の魂は、魔界に行くんだって。……でも何もなくて、消滅するって説もあるよ。……他にも、別の存在に転生するって説も」
その話に、ドキッとした。
(そういえば、僕は転生したんだね?)
その経験談として、楽しそうな彼女に警告してみる。
「でも、死んだら、記憶もなくすかもしれないですよ?」
「…………」
「今までに蓄えてきた、知識、みんな、忘れちゃうかもしれないです。……それでも、ですか?」
コロンチュードさんは、斜めに首を傾けた。
そして、
「……うん」
あっさり頷いた。
僕は、ちょっと驚いた。
3人も驚いている。
そんな僕らに、コロンチュードさんは柔らかな声で、歌うように言う。
「……私は、『知らないことを知る感覚』が好き。……全て忘れたなら、また最初から、それを楽しめる。……それで充分。……私の人生は、それだけでいい」
「…………」
いつもの眠そうな目と違い、強い光の宿った瞳だった。
本心だ。
そうわかった。
コロンチュード・レスタという人物は、『知識を求める人』ではなく、ただ『《知る感覚》が好きな人』だったんだ。
(あぁ、そうか)
その『知る感覚』を追い求めている内に、気づいたら、勝手に周りから『金印の魔学者』という称号を与えられていた。
それだけの女の人。
それが、コロンチュードさんだった。
人々を守るために、世界を救うために、その感覚を捨てるなんて、きっとできない。
「そっか……。ごめんなさい。勝手なことを言いました」
「……ううん」
頭を下げると、彼女は、少しだけ申し訳なさそうに笑った。
……うん、本当にいい人だ。
そしてコロンチュードさんは、改めて、僕らを見回して、言う。
「……じゃあ、みんな……おやすみ、なさい」
「うん」
「はい」
「……うむ」
「お、おやすみなさい!」
僕らの声に頷くと、彼女は金髪を引きずりながら、部屋を出ていった。
扉が閉まる。
…………。
不思議な静けさが、僕ら4人の間に流れる。
そして、キルトさんが呟いた。
「あやつの考えは、本当に、わらわにはようわからぬ……」
そう?
うん、そうかも。
僕も、よくはわからない。
でも、
「僕は、コロンチュードさんと、時間があったら、もっとたくさん話してみたいなぁ」
キルトさんは、複雑そうに僕を見る。
ソルティスは、『うんうん』と頷いていて、イルティミナさんは優しく笑った。
やがて、部屋の灯りが落ちる。
そうして僕は、イルティミナさんに抱きしめられながら、この不思議な魔法使いの暮らす『大樹の家』で、一晩を明かしたのだった。
ご覧いただき、ありがとうございました。
お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、ついに100話に到達しました!
皆様、本当にありがとうございます。
(※2019年5月13日の改稿により、100話ではなくなってしまいました。ですが、当時の記録として、また嬉しかった記憶として、そのままにしてあります。申し訳ありません)
特に何もないのですが、活動報告を更新致しました。
大した内容ではありませんが、少しだけ裏設定についても触れております。もしお時間ありましたら、そちらも是非どうぞ。
※次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。どうか、今後とも『転生マールの冒険記』をよろしくお願いします。




