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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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90/825

090・大樹の家にて

第90話になります。

よろしくお願いします。

「……はい、おしまい」


 コロンチュードさんに、傷を治してもらった。


 その手に持っているのは、先端に小さな魔法石のついた、10センチほどの玩具みたいな杖である。

 それでも、僕の傷だらけだった身体は、すっかり元通りになってしまった。爪で裂かれた右腕も、今は綺麗な肌を見せている。


(やっぱり、治療する腕が違うのかなぁ?)


 グー、パーと右手を動かす。


 うん、違和感もない。


「あぁ、マール……マール」


 ギュウ


 イルティミナさんは、さっきの出来事がよほど堪えたのか、回復魔法をかけられる間もずっと、僕を後ろから抱きしめていた。その美貌は、僕の髪に押しつけられ、鼻息がちょっとくすぐったい。

 声も、少し泣いている感じだった。


 キルトさんが、きつい眼差しをコロンチュードさんに向ける。


「無事だったから、よかったものの……本当にマールが死んだら、どうするつもりじゃった?」

「……別に」


 相変わらず、眠そうな声だ。


「……頭さえ残ってれば、死んで13秒以内なら、生き返らせられるし」


 …………。


(はぁ!?)


 僕らは4人とも、唖然とした。


 ちょっと待って欲しい。

 前に聞いた話では、回復魔法とは、そこまで万能じゃなかったはずだ。投薬治療や外科手術と同じで、限界はあるし、だから後遺症だって残ることもある。


 そう聞くと、


「……後遺症? それ、腕が悪いだけ」

「…………」

「……それ、回復魔法を漠然と使ってるだけ。……意味なし」


 コロンチュードさんは、言う。


「……人体構造。……血管、神経、骨、筋肉、内臓……色々、どこに何があって、どう動いているか、知っておく。……損傷個所、見極めて、どこをどう治すか、ちゃんと考えておく。……それ、一番大事」

「…………」

「……漠然と治すイメージだけ、……変な治り方、する。……それ、一番ダメ」


 その手の玩具みたいな杖が、僕の額に当てられる。

 翡翠色の瞳が、僕を見つめる。


「……私、君の構造、戦う前にスキャンした。……だから、治せる自信、あったよ?」


 そう、だったんだ?


(そういえば、『魔法の強度はイメージで決まる』って、前にソルティスも言っていたっけ)


『金印の魔学者』の言葉に、キルトさんもイルティミナさんも、知らない知識だったのか、とても驚いている。ソルティスなんて、両手を小さな胸の前で握り合わせて、「さ、さすが、コロンチュード様……っ」と呟き、もはや感涙に咽びだしそうな様子だ。


 そんな僕らのことを、眠そうな目が見回す。

 それから、空を見上げた。


「…………」


 いつの間にか、西の空が赤くなり始めている――もう、夕暮れだ。


(これで帰ったら、王都に着くのは夜中だね?)


 森の移動も、薄暗い中になりそう。 

 ちょっと、ため息だ。


 コロンチュードさんは、寝癖だらけの金髪を揺らして、首を傾ける。


「……今日、泊まってく?」

「え?」

「……どぞ?」


 僕ら4人は、顔を見合わせる。

 そして、僕の頭にあごを乗せたイルティミナさんが、戦い終えたばかりの僕を見下ろして、少し考え、頷いた。


「そうしましょうか?」

「うん」


 僕らは、その日、大樹の家にお泊まりすることになった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 大樹の家に入ると、コロンチュードさんは突然、研究机の上をガサゴソとやり始めた。


「……はい、これ飲んで」


 やがて出てきたのは、琥珀色の液体の入った試験管だ。

 僕に差し出される。


 …………。

 の、飲んで大丈夫なのかな?

 

「あの、これは?」

「……キュレネ花の蜜、濃縮したの」


 あ。

 魔力回復用の薬だ。


 そういえば、光鳥の魔法を使ったせいか、僕の全身は、少しだるかった。頭もちょっと、ボーッとしている。


「……肉体、治せても、魔力、別」


 そうなんだ。


「ありがとう、コロンチュードさん」

「……ん」


 試験管を受け取ると、彼女は、満足そうに頷いた。


(案外、優しい人だよね?)


 口下手だし、ずっと眠そうだけど、色々と思慮深いし、人のことをよく観察している。僕が精霊と交信したいという望みも、ちょっと荒っぽかったけれど、ちゃんと叶えてくれた。


 色々と誤解され易そうだけど、僕は、いい人だと思った。


 なので、中身を飲む。


 ゴクッ


「…………」


 に、苦ぁ~い!?


 思わず、吐きそうになった。


 前にソルティスにもらったキュレネ花の蜜は、甘くて美味しかったのに、これは、凄い苦みがある。口の中が、麻痺してる感じだ……。

 これが、濃縮ってこと?


(で、でも、身体には効きそうだね?)


 良薬、口に苦し。

 イルティミナさんが心配そうに見ていたけれど、僕は、我慢して全部を飲み切った。


「いいなぁ、マール」


 ソルティス、羨ましそうだ。

 ……一口、あげれば良かったかな? ……ふふふっ。


 おまけで、お水をもらって、ようやく一息。


 コロンチュードさんは、そんな僕を眺めながら、不意に、こんなことを言った。


「……やっぱり君は、神狗だから。……魔力、少ないね」

「え?」


 神狗だから、魔力が少ない?


 僕は――いや、僕だけでなく、他の3人も一緒に、キョトンとなる。

 ソルティスが、興味深そうに、


「ど、どういうことですか?」

「……そのままの意味、だよ? ……だって、魔力って、元々……悪魔の力だから」


 えっ!?


(魔力が……悪魔の力?)


 驚く僕らに、『金印の魔学者』は、教えてくれる。


 魔力の源は、大気にある魔素だ。

 そして、魔素とは、実は、『世界のひずみ』からこちらの世界へと流れ込んでくる、『魔界の空気』の成分の1つなんだって。


 古代タナトス魔法王朝は、そうとは知らず、魔素を使って発展した。


 そして、より多くの魔素を手に入れるために、『世界の歪』を広げようとしたんだ。その結果、『魔界』と通じる大穴が開いてしまい、悪魔たちまで来れるようになって、400年前の神魔戦争が起きたのだという。


(……なんか、前世の世界みたい)


 科学文明が発展しすぎて、暮らしている地球環境に被害が出ている。

 ちょっと、似ている気がした。


 そして、コロンチュードさんは、眠そうに天井を見上げて、


「……だから、神様たちは、『魔力』ない。……あるのは『神気しんき』」


 と呟いた。


(……神気?)


 つまり、魔力の代わりとなる、神様たちの力?


 みんなの視線が、神の眷属である僕に――『マール』に、集まる。

 ソルティスが、訊ねた。


「じゃあ、ボロ雑き……じゃなかった、マールにも、その神気があるんですか?」

「……多分」


 コロンチュードさんは、首を傾ける。


「……魔力、少ない。……けど、神気は、いっぱい。……だと思うよ?」

「思う?」

「……私も、そこ、詳しくない」


 意外な言葉を聞いた。

 この人は、なんでも知っていそうだったのに、知らないこともあるんだ?


「……だって、王家の人たち、調べさせてくれないもの……」

「あ」


 いじけたような、コロンチュードさんの声。


 考えたら、この世界にいる神の眷属って、今まで、女神の子孫といわれるシュムリア王家の人たちぐらいだったんだ。

 さすがに王家の人たちの身体を、研究させてもらうことは不可能だ。素材がないのに、研究なんてできるわけがない。せいぜい、推測ぐらいだ。


 そして、彼女は眠そうなのに、熱い眼差しを僕に向ける。


「……だから、私、君のこと、いっぱい調べたい」

「駄目です」


 答えたのは、イルティミナさんだ。


 ギュウウ


 僕をきつく抱きしめながら、牽制するように『金印の魔学者』を睨んでいる。うぅ……首に後ろに、柔らかな弾力が2つ、押し当てられていて嬉しいけど、抱きしめる力が強くて、ち、ちょっと苦しい……。


 コロンチュードさんは、「……残念」としょんぼりしている。

 あはは……。


(でも、神気か)


 僕は、自分の右手を見つめる。


 この肉体にも、ちゃんと、その力が秘められているのかな?


 もし、そうなら、


「……もし、神気があるなら、……君は、魔力よりも神気で、魔法……使った方がいいよ? ……その方が、より強い魔法、使えるから」

「…………」


 コロンチュードさんは、本当に人を観察している。


 僕が疑問に思ったことを、僕が訊ねるよりも先に、答えてしまっていた。


 キルトさんが、問う。


「そのようなことが、できるのか?」

「……多分」


 さっきと同じ答え。


「……それに、アルン神皇国にある『神武具』は、……神気でのみ、その真の力を発動することができた、はず」

「ほう?」


 キルトさんは、感心したように唸る。


 神気で力を発動する『神武具』。


 なるほど。

 きっと、キルトさんの『雷の大剣』やイルティミナさんの『白翼はくよくの槍』が、2人の魔力によって、凄まじい威力を発揮するのと同じなのかもしれない。


 まぁ、でも、


(そもそも、その『神気』っていうのが、よくわかってないんだけどね?)


 心の中で、ちょっと苦笑する。


 ソルティスのおかげで、『魔力』を感じられるようになったように、いつか『神気』もわかるようになるのかな? いや、ならないと駄目なんだろうな。

『闇の子』と戦うためには。


 決意を新たに、拳をギュッと握る。


 グゥ~


(あら?)


 決意した途端に、僕のお腹が大きく鳴った。は、恥ずかしい~。


 みんな、呆れたように僕を見る。

 でも、イルティミナさんだけは、僕に頬ずりしながら、優しく笑った。


「今日のマールは、大変でしたものね? お腹が空くのも、当然です」

「う、うん」


 うぅ、フォローありがとう、イルティミナさん。


 キルトさんとソルティスも、苦笑する。


 コロンチュードさんは、眠そうな様子で、僕のことを見つめて、それから、窓の外を見る。

 外は、少しずつ暗くなっていた。


「……そろそろ、お夕飯、しよ?」


 そう呟いて、彼女は、ゆっくりと立ち上がった。

 きっと台所があるんだろう部屋の奥へと、長い髪を引きずり、猫背のまま歩いていく。顔半分だけ、こちらに振り返らせて、


「……手伝い1人、希望」

「では、私が」


 何でもできるお姉さんが、すぐに立候補した。

 僕の頭を撫でて、


「すぐに作ってきますからね?」

「うん」


 優しい笑顔と共に、白い手が離れて、イルティミナさんは、コロンチュードさんを追いかけていった。


(どんな料理が出てくるのかな?)


 僕は、グゥグゥとうるさいお腹を押さえながら、期待を込めて、美味しい料理たちが来るその時を待つのだった。

 



 ◇◇◇◇◇◇◇



 40分ほどで、片づけられたテーブル上に、料理が並んだ。


「…………」

「…………」

「…………」


 料理を待っていた僕ら3人は、無言だった。


 料理をしたイルティミナさん自身も、微妙な顔である。


 ただ1人、コロンチュードさんだけは、満足そうな様子だった。


 テーブルには、2種類の料理が並んでいた。


 まずは、鶏肉の料理。

 骨付きで、皮がパリッと焼けていて、中は熱々ジューシー。ふりかけられたスパイスが、絶妙な刺激で味わいを深くする。


 他にも、木の実やキノコをスライスして、鶏肉と溶けたチーズも合わされた野菜のサラダ。

 鶏肉とソースを絡めて、炒められたお米。


 どれも絶品だ。


 そして、もう1つは、素材そのままの料理。


 たくさんの芋虫。

 たくさんの昆虫。

 とぐろを巻いた蛇。


 それらの姿焼きが、木製のボウルにたっぷりと入っている。


 どれも珍品だ。


(…………)


 僕は、イルティミナさんを見る。

 彼女も、僕を見た。


『大丈夫、どっちをどっちが作ったか、ちゃんとわかってるからね? うん、心配しないで……』

『……ありがとう、マール』


 視線だけで、そんな会話。


 あの大食い少女のソルティスでさえ、敬愛するコロンチュード・レスタ様の手作り料理には、引き攣った顔をしている。そして、あの勇敢なキルトさんだって、この珍品料理には戦意喪失し、完全に視線を外している。


「……自信作♪」


 コロンチュードさんは、猫背を起こして、ちょっと誇らしげだ。


 グゥグゥ


(うるさい、マール)


 自分のお腹を、平手で叩く。


「……じゃ、召し上がれ♪」


 ニコニコ笑顔の『金印の魔学者』から、ついに死刑宣告が下された。


「い、いただきます」

「……いただきます」

「……いただこう」

「い、いただきまぁ~す……」


 そうして僕らは、食欲以外の唾をゴクッと飲み込むと、テーブルに並んだ料理を食べ始めた。

 ……胃薬、ここにあるかなぁ?



 ◇◇◇◇◇◇◇



 ごめんなさい。

 コロンチュードさんの料理、見た目に反して、とっても美味しかったです。


(……嘘みたい)


 勇気を出して、かじった時の衝撃は、忘れられない。

 4人で思わず、顔を見合わせちゃったよ。


 でも、あまりの見た目なんで、キルトさんは、1口食べて、速攻でリタイヤしました。


 料理は残さない――かつて、毛玉ウサギに誓った僕は、目を瞑りながら、がんばって完食した。イルティミナさんも、僕ががんばっていたので、一緒にがんばって、全てを飲み込んだ。


 ソルティスは、敬愛する人のために、自分の分だけでなく、キルトさんの残した分まで食べてみせた。

 本当、尊敬するよ……。


 コロンチュードさんも、自分の料理をみんなに全部食べてもらえて、ちょっと嬉しそうだった。


「……機会があったら、……また、作るね?」


 …………。

 僕らは答えず、ただ曖昧に笑っておきました。


 そうして食後。


 僕らは、ビーカーに入れられた紅い液体――紅茶を飲みながら、のんびりした時間を過ごしていた。


 カチャカチャ


 コロンチュードさんは、食べ終えた鳥の骨を手にして、お皿の上で、元の鳥の形に並べている。


(何してるんだろ?)


 ちょっと覗き込む。


 彼女は気づいて、


「……伝言。……君たち、泊まること、伝えないとまずいでしょ?」


 え?

 キョトンとする僕。


 と、イルティミナさんとキルトさんが、ハッと思い出した顔をする。


「そうでした。ギルドに連絡しないと」

「わらわたちには、王国から、行動制限がかかっている。今日も日帰りということで、許可を得たのじゃ。……しまったの」


 あ、そうだったんだ。


(でも、もう遅いよね?)


 窓の外は、もう真っ暗だ。

 今から王都に帰ろうとしても、日付は変わってる。到着は、夜明けぐらいだろう。


 慌てる2人。

 ちなみに、ソルティスは、食べすぎて動けない。


 でも、コロンチュードさんは、あの眠そうな顔で、玩具みたいな杖を手にする。

 それを、並べた鳥の骨に向けて、


「……だから、これ」


 パッと、フラッシュライトのように、魔法石が光る。

 途端、


 カララン


 お皿の上で、『骨の鳥』が起き上がった。……え?


 驚く僕らの前で、コロンチュードさんは、いつの間にか書いていた手紙を丸めて、竹みたいな筒に詰め、それを骨の足にしっかり結ぶ。


「……えっと? 『ゲコゲコの風』だっけ?」


 カエル?

 キルトさんが、顔をしかめる。


「『月光の風』じゃ」

「……ん」


 コロンチュードさんは、青白い光を放つ『骨の鳥』を両手で抱えると、開いている窓に向かってポイッと放り投げた。


 カシュカシュ


 骨の翼を羽ばたかせ、『骨の鳥』は、夜の空へと飛び出していった。


(……どうして、骨の翼なのに飛べるのかな?)


 きっと魔法的な理由があるのかもしれない。

 何にしても、この金印の魔学者の手にかかると、僕らの常識は、もう無価値になってしまう気がして、突っ込めなかった。


「……これで、もう大丈夫」


 僕らに頷く、コロンチュードさん。


(うん、やっぱりいい人だ)


 僕らの忘れていた僕らの状況まで把握して、すぐに手を打ってくれた。


 まったく。

 本当に頭が上がらないよ。


 でも、お肉をご馳走になり、骨まで伝書鳩みたいに飛ばして、なんだか『鳥』さんには、申し訳ない気もする。


 そして、ギルドの窓から、その『骨の鳥』が現れたら、


(きっと、ムンパさんも驚くね?)


 その時の真っ白な獣人さんの反応を想像して、僕は、ちょっと苦笑いしながら、青白い『骨の鳥』が消えた窓を見上げていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 夜、僕ら4人は、大樹の3階ぐらいの高さにある部屋へと、コロンチュードさんに案内された。


 木の根が、幾つも絡まったようなベッドだ。

 布団は、羽毛だ。


(でも、ちょっと薄いかな?)


 腰かけると、そんな印象。


 そんなベッドに座る僕らを、コロンチュードさんは眺める。

 そして、


「……じゃ、おやすみ」


 眠そうな声で言う。

 僕は、その金髪を引きずって立ち去ろうとする背中に、思い切って声をかけた。


「あの、コロンチュードさん? 明日から、コロンチュードさんも、僕らと一緒に行動しませんか?」

「…………」


 彼女の足が止まる。

 イルティミナさんたち3人は、驚いた顔をしていた。


 でも、僕は大真面目だった。


 今、この世界は『闇の子』という災厄に襲われている。

 それに抗うためには、1人でも多くの仲間が必要だと思った。特に、この『金印の魔学者』のとてつもない力を、このまま見過ごすのは、もったいないと思ったんだ。


 僕の真っ直ぐな視線を受け、コロンチュードさんは、ゆっくりと振り返る。


「……ううん、行かない」


 そう断った。

 僕は、それでも訊ねる。


「どうして?」

「……ここで研究、していたい」


 彼女の言葉に、キルトさんは呆れた顔をする。


「そなた、このままでは世界が滅ぶかもしれぬのじゃぞ? わかっておるのか?」

「……ん」


 コロンチュードさんは、頷いた。


「……もし滅ぶなら、その時まで、研究してたい」

「…………」

「……それで死ぬなら、それもいい。……死後の世界、知れる。……楽しみ」


 うっすらと笑う。


「……知ってる? ……死ぬと、善人の魂は、神界。……悪人の魂は、魔界に行くんだって。……でも何もなくて、消滅するって説もあるよ。……他にも、別の存在に転生するって説も」


 その話に、ドキッとした。


(そういえば、僕は転生したんだね?)


 その経験談として、楽しそうな彼女に警告してみる。


「でも、死んだら、記憶もなくすかもしれないですよ?」

「…………」

「今までに蓄えてきた、知識、みんな、忘れちゃうかもしれないです。……それでも、ですか?」


 コロンチュードさんは、斜めに首を傾けた。

 そして、


「……うん」


 あっさり頷いた。


 僕は、ちょっと驚いた。

 3人も驚いている。


 そんな僕らに、コロンチュードさんは柔らかな声で、歌うように言う。


「……私は、『知らないことを知る感覚』が好き。……全て忘れたなら、また最初から、それを楽しめる。……それで充分。……私の人生は、それだけでいい」

「…………」


 いつもの眠そうな目と違い、強い光の宿った瞳だった。


 本心だ。

 そうわかった。


 コロンチュード・レスタという人物は、『知識を求める人』ではなく、ただ『《知る感覚》が好きな人』だったんだ。


(あぁ、そうか)


 その『知る感覚』を追い求めている内に、気づいたら、勝手に周りから『金印の魔学者』という称号を与えられていた。

 それだけの女の人。


 それが、コロンチュードさんだった。


 人々を守るために、世界を救うために、その感覚を捨てるなんて、きっとできない。


「そっか……。ごめんなさい。勝手なことを言いました」

「……ううん」


 頭を下げると、彼女は、少しだけ申し訳なさそうに笑った。


 ……うん、本当にいい人だ。


 そしてコロンチュードさんは、改めて、僕らを見回して、言う。


「……じゃあ、みんな……おやすみ、なさい」

「うん」

「はい」

「……うむ」

「お、おやすみなさい!」


 僕らの声に頷くと、彼女は金髪を引きずりながら、部屋を出ていった。

 扉が閉まる。


 …………。


 不思議な静けさが、僕ら4人の間に流れる。


 そして、キルトさんが呟いた。


「あやつの考えは、本当に、わらわにはようわからぬ……」


 そう?

 うん、そうかも。


 僕も、よくはわからない。

 でも、

 

「僕は、コロンチュードさんと、時間があったら、もっとたくさん話してみたいなぁ」


 キルトさんは、複雑そうに僕を見る。

 ソルティスは、『うんうん』と頷いていて、イルティミナさんは優しく笑った。


 やがて、部屋の灯りが落ちる。


 そうして僕は、イルティミナさんに抱きしめられながら、この不思議な魔法使いの暮らす『大樹の家』で、一晩を明かしたのだった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、ついに100話に到達しました!

皆様、本当にありがとうございます。

(※2019年5月13日の改稿により、100話ではなくなってしまいました。ですが、当時の記録として、また嬉しかった記憶として、そのままにしてあります。申し訳ありません)


特に何もないのですが、活動報告を更新致しました。

大した内容ではありませんが、少しだけ裏設定についても触れております。もしお時間ありましたら、そちらも是非どうぞ。


※次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。どうか、今後とも『転生マールの冒険記』をよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] タナトス文字で書かれた召喚術式。 つまり、悪魔の力で神の子を召喚するという矛盾?皮肉? 実は広い目で見たら神様も所詮、悪魔の一種というか、同じような存在なのかも?
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